■9-BABY DOLL■
なんだ、これ?静まれ、心臓。 これじゃ、恋してるガキみたいじゃんか………僕が? 鳴り止まない元気な鼓動が聞こえやしないかと、はるかは心持ち身をひいた。 なのに、くっついてくるみちるに焦ってしまう。 「…ちょっ、みちるちゃん!…みちる、ちゃん?」 くっついてくるのを通り越して倒れてきたみちるを支えながら、ふたりでベッドに沈んだ。 そのまま胸の上でみちるを抱く形になってしまい、はるかはもっと焦った。 心臓は16ビートのドラムのようにうるさくて、しかし。 「あれ?」 聞こえてくるのは規則正しい寝息だけで。 左手はみちるの背中をさするため添えたままなので、緊張にふるえる右手でみちるの顎をとらえ顔をのぞき、はるかは思わず微笑んだ。 どうみても熟睡してる。美しい夢を見てる、そんな顔。 人魚になって、淡くゆらめく海で泳いでるのかもしれなかった。 「破滅の夢は、今晩はお預けだね。人魚姫………」 やさしい気持ちで、はるかは愛しい人の穏やかな寝顔を見つめる。 眠る体勢には良くないと、みちるの身体を離そうとしたが、冷たい身体が気持ちよくて。 はるかは後ろ手で器用にクッションの位置を調節してから、みちるを抱き締めて寝転んだ。 点滴のチューブと包帯の巻かれた傷口には触れないよう細心の注意を払いながら、両手をみちるの腰で結んで、天を仰ぐ。 なんとなくはるかは、どうしてカーテンに閉ざされた装飾だらけのベッドでみちるが眠るのか、その孤独を垣間見た気がした。 細部まで施された模様は繊細で美しく、ベッド脇の香水は甘いエッセンスを放つ。 この中だけは夢のような異世界だった。 まるで孤独を忘れるためだけにあつらえられた、そんな印象を受けざるをえない。 「ごめん、みちるちゃん………いままでひとりにして」 |