■7-TRUTH■
懐かしさと苦しみと愛しさと切なさが入り交じった複雑な前世の出来事が、みちるの脳裏に鮮やかに甦る。
それも一瞬のことで、幻のように消えた記憶。 不思議。 こんなこと、いままでなかったのに。 覚醒から1年も満たないみちるにとって、前世の記憶はないも同前だった。 いつの日からか眠りの中で鮮やかに見始めた、迫り来る破滅のビジョン。残酷に無惨に、ただ崩壊していく街。 いっそのこと瞳を覆って、耳を塞いで、背を向けて、知らないフリをして自分の夢を追求していたかった。 無駄な足掻きだと悟ったのは、悪夢をぬぐうため、気分転換に筆をとったとき。 迫り来る津波に呑み込まれる世界の終末しか描けないことに涙が流れた。 誰しもが逃れたいと望む世界の終焉。 自分は呑み込まれてもいいと思った、荒れ狂う津波の中に。泡となって消えたとしても。 でも、もしも翼をもった者がいるのならば。 羽根を休める木々のない世界は辛すぎるだろう。なぜか、そう思った。 誰かは分からなかったけど、誰かを守りたいと思った。 だから戦士として誓った使命がある限り。 自制心のもと嫌悪感を抑え、瞳を凝らし夢の細部を分析して。 そうして突き止めた、そこは呪われた無限州。不思議な力を秘めた巨大なオーラに包まれた場所。 いまでも確信は持てないけれど、戦士のカンが告げていた。 『そこ』なんだと。『そこ』にすべてがあるのだと。 滅ぼすもの、守るもの。 失うもの、手に入れるもの。 夢も思い出も、破滅も誕生も。 永遠の別離に旅立つ人も、必ず巡り会う運命の人も。 すべてが『そこ』にあるのだと。悪夢だけを手がかりに、手探りで戦ってきた。 なのに、いまのビジョンは温かい。 すぐそばに『ウラヌス』の転生した人。 はるかが、いるからだろうか。 「………不思議ね」 「何が?」 「あなたと、こうやって、こんな距離で、いることが」 それは、はるかも考えていた。 前世の記憶なんて、かけらも思い出せないでいるのに。 みちると出会い、みちるの側にいるだけで、かつてない充足感を得ている。 『満たされてる』。素直にそう感じていた。 「昼までは、わたし。あなたに嫌われていたのに、ね」 ふわりと髪の毛をかきあげたときに垣間見た、みちるのうなじの白さに目を奪われる。 ついで妖艶な笑みを浮かべて濡れた視線を受け、はるかは理由もなく慌てた。 「…!!違う、違うって。『嫌って』たんじゃなくて。 その、君がいきなり、僕のこと知ってたくせにエルザ通してとか、まわりくどく、じゃなくって…その、あれだ、あれ」 頬は熱いわ、必死に反論するのにぜんっぜん理論だってなくて。はるかは自分の慌てぶりが新鮮だった。 ちゃんと応えなきゃ。 降参、と肩をすくめて両手を挙げる。 真摯に言葉を選びながら、一言一言を大切に伝えようとする表情は真剣そのもので。 「ホント、嫌ってなんかなかったよ。ただ、どうしていいか分からなかったんだ。 戸惑ってただけ、情けないけど。君を、嫌うなんて…不可能だよ、僕には」 ホント、不可能だよ、もう。 出会ってまだ数時間だけど、二度と冷めることを知らない情熱が、ここにある。 |