■4-O,oui!■



みちるの戸惑いに気付いているのか、いないのか。はるかは歌うような調子で話し出した。

「はい、これでいいかな?あ。服がちょっと汚れちゃってたから。
 執事さんが、君のお父さんの服貸してくれたんだ。君の服は着れないしさ。
 これで外歩いたら場違いだけど、この屋敷にはぴったりだろ?
 なんていうか日本にこんな家があるなんて、正直驚きだね」

「どうして、あなたが、ここに?………」

 そう尋ねようとしたみちるだったが、静かに開いたドアの向こうに注意を奪われる。
 見ると、部屋の中には入ろうとせず佇む男性がふたり。
 
 はるかは彼らを知っていた。
 
 いかにも有能そうな中年の男性は医者で、みちるを治療する手際の良さと素早さは、傍らに付き添っていて驚いたばかりだったし、初老の男性はこの館の執事だったからだ。
 執事の名は海堂という。
 館とともに年を重ね、執事の理想像を温和さとともに体現しているような人物で、不思議な風格と味があり、はるかがすぐに好感を抱いた数少ない人物として名を残すだろう。

 海堂はその能力と信頼の高さを証明するように、怪我を負ったみちるを必死で連れ込んだはるかに対して、すべて承知だといわんばかりに、医者の手配から何まで素早く完璧にこなしてくれた。
 あからさまに普通でない事態に少しも動じず、また、事情を聞かないでいてくれたことなど、はるかには大助かりで。
 ただ、完璧にはるかを男性だと信じて疑っていないため、みちるの治療中には決して部屋に入れてくれようとしなかったけど。
 
 世話にもなり好感も抱いているふたりに、はるかは軽く会釈する。
 対照的に、みちるの顔つきが少女のものでなくなったことに気付き、驚いた。

「父には、言わないで。それだけよ」
 
 女王のように毅然とした口ぶりに、ふたりはすべてを了承したようだ。一礼を残して閉じられた部屋に、訪れる静寂。
 海王家の門をくぐった時と同じく、はるかは口笛を吹きたい気分になった。


 僕と同い年だったら、まだ15歳にもならないのに。
 まるでプリンセスそのもの、服従に値するその姿、形。


 筋金入りのお嬢様とはかくなるものかと感服しても、説明がつかない完成体。
 この世に存在すること自体が奇跡のような少女を見つめる。
 怪我のため血の気が薄い顔の、頬だけが紅色に染まっているのを認めると胸がドキリと高鳴った。
 
 慌てて目を反らし、ベッド脇に置いてある繊細なカーブに模様が刻まれたクリスタル容器に入った香水の甘い香りを嗅いで一息つき、からかうように告げた。



To be continued[5-ENVY].


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