■2-RUSH■



「何言ってるんだよ。病院に行くなって?君の傷は深いんだぞ。早く治療しないと、傷跡が残るくらいじゃ済まされないっ」
「こんな、傷…。なんてことないから…心配しないで」

 みちるは大丈夫だからと、はるかに預けた身体を離そうとした。

 が、わずかな動きにすら電流のように身体を駆け抜ける激しい痛みに、声をあげてしまうのを必死にこらえる有り様で。
 そんなみちるを、はるかは堪らず掻き抱く。

「心配するなって?勝手なこと、言うなよ。そんな無茶して、僕が何も感じないとでも思ってるのか?
 ………頼むよ…頼むから、僕と一緒に病院に行こう。ずっと、一緒にいるから。君のそばに、ずっと……」
 
 ありったけの思いを込めて、はるかは続ける。

「君と同じ道を歩みたいのに、君がいなけりゃ、どうしていいか分からないじゃないか………。
 君と…。海王みちると、生きていきたい!だから、もう…ひとりで無茶しないでくれ…」

 この腕に抱かれたまま、いっそのこと死んでしまえればと思えるほど。
 熱く激しいはるかの情熱が、みちるの何かを刺激したけれど。


 どうしよう。


 ずっと望んでいた言葉なのに、いざとなるとどう応えていいのか。みちるには分からなかった。 


 はるかと共に戦い、生きること。
 でも出来ないと自分を殺して、切なく壊れてしまいそうな心を抱えながら、ただ遠くから見つめていただけの運命の人。


 何か、何でもいいから言葉を返して安心させてやりたかった。
 しかし、かなり飲んだはずの痛み止めの効果もなく、痛みを和らげるより先に眠気となってみちるの思考を鈍く混乱させていく。

「制服の、胸ポケットの、中………そこへ、連れて行って」

 突然まぶしい光に包まれたみちるを見直すと、ネプチューンの変身は解け、超お嬢様学校で名高い淡い水色の制服に戻っていた。
 どういう仕組みで『変身』が行われ解けるのかとはるかは疑問に思ったが。
 腕に抱いたみちるの華奢な背中と左腕の血が制服を徐々に紅く染めていくのに反し、色を失っていく美しい顔と、呼び掛ける声に反応が鈍いことに焦る。
 言われた通り制服の胸ポケットをさぐると、革の生徒手帳に挿まれた名刺に指を止めた。
 無記名なそれにはただ、住所だけが記載されていて。

  はるかはみちるを抱き上げた。



To be continued[3-DREAMS].


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