■overture-∞■
「痛………っ」 寝返りを打とうとしたみちるに、容赦なく激痛が走る。背中が、痛い。 指先までしびれさす腕の痛みを忘れるほどだ。全神経が背中に集まって、抗議の声をあげている。 「………ここは?………」 セーラー戦士のコスチュームのまま、うつ伏せの姿勢でベッドに横たわっている自分を発見する。 ロゴ入りの赤い、レーサー仕様の革ジャンパーが上半身を覆っていた。 それが誰のものなのか、どうして自分がここに居るのか。そもそも、ここは何処なのか。 激しい痛みで記憶が混乱して、深く考えることがきない。 「ちょっと待ってな。すぐに病院に運んであげるから…。そのまえに、っと」 枕元が誰かの腰掛ける重みで沈んだと思えば、そっと上半身を起こされる。まるで、儚い壊れ物を扱うような慎重さだった。 痛みで力の入らない身体をそのまま預けると、口内に何かが押し込まれた。 錠剤。独特の苦味。飲みやすいようにとの配慮だろう、細かく砕かれたそれがいくつか続けて放り込まれる。 せつないほどの心配が身体越しに伝わってきて、みちるはやるせない気持ちでいっぱいになってしまう。 一体誰に抱かれているのだろうかと訝しみ、やっとの思いで瞳を開けてその人物を見やった。そして驚く。 天王はるか。 どうして、彼がここに居るのかしら? それ以上考えられないみちるの唇に冷たく硬いコップの感触。次いでミネラルウォーターが流し込まれる。 唇の端から飲みきれない水があふれたが、細かく砕かれすんなりと喉を通る錠剤のおかげで、咳き込まずに済んだのがうれしい。 みちるの青ざめた唇から顎にかけて筋を残す水滴をぬぐおうとした時。 「止めて…」 「え?」 「お願い、病院には。連れて、行かないで………」 予期せぬ言葉によって、はるかは動きを止めてしまう。 その顔には、みちるのセリフが理解できないという不審がはっきりと浮かび。 このサーキットの医務室にみちるを運んだのは、救急車を呼ぶまでに応急処置をするためだった。 それは、自分をかばって深手を負い、そのまま意識を失ってしまったみちるの戦士の格好を解かせるまでの時間稼ぎも含めてのことで。 飲ませた痛み止めは強力だが、一時しのぎにしかならないことを、はるかは良く知っている。 急がないと。 はるかは気を取り直して、みちるが何を拒絶しようが構わない。 自分がいま彼女に出来る精一杯の現実処理をすべきだと思った。
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To be continued[2-RUSH].
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