361.箱/page 2





「ちょお、平次!もっと大切に出来ひんの?」
「エラそうに言うんやったら、オマエが持ってみんかい?コレ、めっちゃ運びにくいで!」

中身を考えると手荒に扱うわけにもいかず。かといって持ちにくいソイツはやたらデカくて。
慣れん中途半端な体勢で四苦八苦するオレにはお構いなしに、こっち持って、あっち運んで、そっちぶつけんとってだの。

「アカンやん平次〜、ぶつけんとってってば。ちょお待ってな、うん、ココ。ココに置いたげて、そっとやで」
「無生物主語に、んな表現使わんて、まだ覚えてへんのか?」
「英語は得意です〜だいじょぶです〜冗談で使てみたんです〜」
「ほっほ〜ぉ。英語『は』、てなんやねん。他のはアカンかったんか?英語『も』、言わんかい」

和葉の成績は決して悪くはないが、得意と不得意の差が激しいのは事実だ。
苦手科目を把握した短期集中スパルタ家庭教師の平次としては、自分ばかりが使われる状況が面白くない、だって。



インターホンが鳴ったときから、ソイツが主役。
かじられたりんごマーク。際だつデザイン。白とクリアが特徴の---iMac、15インチフラットパネル。



ちっこい身体から飛び出す無数のハートマークが見えるようで気にいらんかったから。

頬をふくらませて上目遣いでにらむ和葉にちっちゃく逆襲を果たして、なかなかに大変な思いで抱えていたソイツを、ようやっと和葉ン部屋に置くことが出来た。
和葉は「アタシは喜んでます」オーラが全開や。
床にぺたんと座り込み、丁寧にカッターで梱包をほどいていく。


--- 意識が完全にソイツに向けられとる。いまやったら聞き出せるな。


「ほんで、コイツはどういうことやねん?」
   段ボールのフタを開けて、
「ん〜〜〜?っとな...、うちで使てた初代iMac、ボンダイブルーのな、壊れてもたやん?」
   説明書、CDの類一式を確認。
「あら古かったわな。よお使うた方やで。おん、それで?」
   白が貴重の、おもちゃみたいなマウスと、キーボード。
「テスト前に、平次と。ミナミの電気屋さん行ったやんか。このコに一目惚れ言うんかな、めっちゃ気に入ってんよ」
   ひとつひとつに感動してる和葉。なぜか、ひとつひとつの包装をほどいていく俺。
「んなもん分かりすぎるくらい分かっとったわ」
   なかなか抜けへん発砲スチロール。箱の中にキッチキチや。
「えっ、そうなんや?あんときな、お店の人がパンフくれて、ずっと眺めててん。ほしたらな、お父ちゃんが欲しいんやったら買うてええぞって」


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「はぁっ!? 眺めてたくらいで、買うたるってか?甘い、甘すぎるで、おっちゃん!」
   本体がお目見え。
「きゃ〜vvv平次、このコおじぎしてる、おじぎ!可愛いなぁ、早く出したげるからねv」
   頭脳の詰まった丸い直径に対して、モニターが90度最敬礼で折れ曲がったソイツに、和葉は夢中で。---おもんない。
「おまえ、パソ壊れても買い換えんの勿体ないから、俺の使わしてくれ言うてたやないか?んなしょっちゅう使わへんくせに、贅沢やろが。おっちゃんの身にもなってみい」
   最下層の発砲スチロールごと、ソイツを取り出して床に置く。
「平次に言われんでも分かってるもん。家のことやってるご褒美やて、お父ちゃんが言うてくれたから...だいたい、こないだアンタのパソ使おうとしたら、めっちゃ怒ったやんか」
   液晶モニターを起こして、斜めに発砲スチロールを抜いた。よう出来てるもんやなぁ。
「あれは!その、なんや。事件のえげつな〜い写真が残ってたからや。オマエ、死体なん見んのイヤがるやんけ」
   よっこらとソイツを抱えて立ち上がり、和葉の机の上に置いてやる。
「誰かてイヤや!なんでそんなデリカシーないのん、アンタはもぉ...」
   言うてる和葉の興味は、オブジェのような透明な丸こいスピーカーに注がれて、すでに上の空。


---ほんま、おもんないぞ。


艶やかな黒髪の尻尾を引っ張って、両手からスピーカーを取り上げて。
我ながらガキっぽいとは気づいとったけど。

このあとの主導権を奪ったろ、思た。





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