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和葉がソイツに一目惚れしたんは、中間テストの前の日曜。


頭のしっぽに元気色のリボンが追い付かへんほど首振って。めっちゃ否定しよったけど、オマエ、分かりやすすぎんねん。
ソイツ見た途端、走り寄ったらしい。 振り返ったおらんようなってて、ちょっと焦った。
日曜のミナミの人混みを、どない思てんねんな、オマエは。

ひとりでソイツに顔近づけて、首かしげて、おじぎして...

んな後ろ姿を見かけたときは、見っけた安堵より、よう分からん怒りが込み上げて、思わず。
綺麗に結わえてあるしっぽを勢い任せに引っ張って、ソイツから引き離してもうた。
さりげに掴んだ腕の細さに内心ビビって、その場から離れた、その感情をリアルに覚えてる。


あれから2週間。


テスト終わりの独特の開放感に浸るヒマもなく、嬉しいような照れたような笑みを浮かべた和葉が、家に招くもんやから。

---べつに、な〜んも。期待してへんかったけどな。

アイツを意識するようになってから、踏み込めずにいた遠山家。
なんやエエ香りのする和葉の部屋、アイツに包まれるような錯覚、穏やかで安らぐ、ひだまりの空間。

「勝手にモノ触らんといてな」
「オマエの幼稚趣味なん、誰が触るかボケ」

あまりに何度も念を押すもんやから、悪態をついて茶の用意へと向かわす。
甘い空間がくすぐったくて、立ち位置にすら戸惑ってしまうのを隠すため......なんてこと、死んでも言えない。


...... オンナの部屋に来た。こういう場合、どうしたもんやろか?

......ちゃ、ちゃちゃ、ちゃうちゃう、幼馴染みや、幼・馴・染・み!!!


階下からコーヒーのエエ香りが漂ってきたことに、落ち着きを取り戻すよう、願いを込めて深呼吸。
軽く息をつき、オレの部屋でそうするように、ベッドに腰かけて。ついで、部屋を見渡す。

勉強机に、本棚。ベッドに、ドレッサー。
世間一般の女子高生の部屋、なんやろう。

木目調で統一された家具の雰囲気が、和葉らしくて落ち着く。
子供の頃使っていた、おもちゃのような洋服ダンスは見あたらない。流行りのシールを貼った跡、落書きのついたそれは、どこに行ったのか。
露出度の高さに、しょっちゅうケンカしてまう鮮やかな洋服の数々は、広く設けられたクローゼットの中できちんと整えられ出番を待ってるんやろうか。

枕元には、遊びで買ったおそろいの充電器。オレのんは壊れてしもたけど、まだサラっぴんに近いソレ。
ランプの横には、せがまれて買ったご当地モンの、ぬいぐるみが抱えているフォトフレームの中で笑うオレら。
その下で、オレのCDと和葉の雑誌が何気に重ねて置かれていることに、頬が緩んだ。


軽快に駆け上がってくる足音に、慌ててカバンからバイク雑誌を取り出して、めちゃ読んでたフリ。
何気なさを装う自分が、なんや可愛い?

...... 自然に、あくまで自然に待ちの姿勢や、平次。

こんとき、テスト後やいうのにやたら広々と綺麗に片づけられた机の上を、疑問に思うべきやったんや。





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(2003July〜2004May/rewrite2007March)
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