[水換えの真意]

30.硝酸イオン除去

<安定期に入った水槽では>

まず、始めに考えておかなくては成らないのは、水道の蛇口から出てくる水が水草水槽に適さない水質の水であったり、または、床の問題で水換えに使用する水を作らなければならない場合があります。
そのためにも元水となる水の水質を把握しておくことは、まず持って必要なことであり、欠かすことは出来ません。
水草水槽に適した水質の水を容易に手に入れられることは非常にラッキーであり、それ以後、水槽維持に関しても、とても幸せなことであります。
逆に、ペーハーが高い、総硬度が高い、そういった水しか手に入らない方々にとっては、極端に言えば最悪なのかも知れません。
水草水槽に適した水の作成と言うことに関しては、ここでは詳しく述べませんが、ピート処理、イオン交換樹脂の使用、活性炭やゼオライトによる処理など色々あります。
少しペーハーを下げたいだけならCOを強制添加することだけで、その水槽のペーハーは炭酸平衡に移りますから一段階低くなるでしょう。
手っ取り早いのは同じ水質の水を利用している地元のショップで相談するのが一番良いでしょう。
適切なアドバイスをしてくれると思います。
 
簡単な方法として1例ご紹介すると、ペーハーに関しては弱酸性になってしまう効果のある底床を使用することです。
有名なのはADA社のアクアソイルやクリスタリーノと呼ばれる種類です。これらの床ですと、勝手にペーハーを下げてくれます。
総硬度に関しては活性炭やゼオライトを使用して、源水に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンを吸着させて使用すると良いのではないでしょうか。(前述した床は総硬度も低く抑えて保つ効果もあります。)
 
ほぼ安定期に入った水槽での水換えの目的は、何らかの事故や特別な状態の時を省けば、おおかた2つに絞られるようです。
1つ目は硝酸イオンの除去です。
硝化バクテリアの働きによる産物として水素イオンの生成もありますが、水草水槽ではほとんどの場合COの強制添加が行われています。
この場合にはCOの強制添加によってもたらされる炭酸水素イオンの発生がありますので、いくら硝化菌が水素イオンを生成してもCOを添加している以上、次々と生まれてくる炭酸水素イオンを中和するにとどまり、ペーハーを低下させる効果はさほど出てきません。
そりぁー添加する量と生体の数、濾過槽の大きさによりますが、ごく一般的な飼育状況から見ればほとんど当てはまるはずです。
逆にベアタンクでのディスカス飼育などになりますと、毎日のようにペーハーが低下していきます。
よって、水槽水のペーハーを安定させるために水換えをしている場合もあるようです。
 
しかしながら、ディスカスのベアタンクでの飼育にしても、水草水槽にしても、本来の目的は水素イオンの発生によるペーハーの低下を懸念するよりも硝化菌の働きによる最終蓄積物質となる硝酸イオンの除去になるのです。
我が家の水槽において、何日で硝酸イオンの濃度が警戒値まで来るのか、基本はその前日までに水換えを行うこととなります。

<硝酸イオン除去のための水換え>

硝酸イオンの除去を目的とした水換えについては非常に誤解されている方が多いようです。
例えば、現在の水槽において6mg/l濃度の硝酸イオン濃度があったとします。
1/3の水換えをしたから硝酸イオン濃度は2/3になり、4mg/lになった、あるいは1/2の水換えをしたから3mg/lになった、と単純計算をするのは大きな間違いです。
ここが「水槽の水質は単純に足し算、引き算で計算できない」、と言う所なのです。
いくら机上で計算したとしても、それがそのまま当てはまらないところが、水質管理の最大の壁であります。
冷静に考えてみれば、なん通りあるのか分からない我が家の水槽の水質や状態が、1つの計算式や化学式で計算できるはずがないのです。
私の経験から言えばおそらく6mg/l濃度の硝酸イオン濃度があったとして、1/2の水換えをすればやっと4mg/lになるぐらいです。
 
順を追って説明します。
まず、硝酸イオン濃度0の水質から10日目でその濃度が6になったとします。
ここで1/2の水換えをして、その濃度が4になりました。
さらに10日後にはいったいどれぐらいの濃度になっているか・・・。
 
硝酸イオン濃度を考えるときには基本的に1日でいくらのイオン濃度が生まれるかを考えます。
この場合10日で6になるわけですから1日当たり0.6と言うことになります。
と言うことは4の上に6が発生しますから、実質10日後の硝酸イオン濃度は10と言うことになります。
このまま10日ごとの水換えを繰り返していたら、1ヶ月で実に最初の水換え時の倍ぐらいの硝酸イオン濃度となるのです。
(今の段階では水草が栄養素として消費する分は考えていません。)
 
どうしてこのようになるのかという理由は、私なりの解釈で記述すれば、床内の硝酸イオンの蓄積は容易に除去できず経過時間と共にかなりの蓄積があるからではないのか、と思うのです。
ソイル系の床を使用した場合などは床のメンテナンスなど出来ません。
大磯やセラミックの場合はある程度可能ですが、密植されたレイアウトでは思うようには出来ません。
改めて床のメンテナンスの大事さが分かるのですが、水草水槽の盲点とも言えることであろうと思います。
 
このようなことからも、いかに水草水槽を維持していく上で、飼育する生体の数と与える餌がキーポイントになるかが分かって頂けると思います。
 
周知のように硝酸イオン濃度の上昇は即、コケの発生につながります。
ちゃんと週に1回の水換えをしているのにコケが出て仕方がない、と言うことを良く耳にしますが、多くの場合、間違った硝酸イオン濃度除去のための水換えによるものであると思われます。
 
ではどのようにすればよいのでしょうか?
いろいろな考え方や方法論がありますので、あくまで参考と言うことで読んで頂きたいのですが、私の考えでは次のようになります。
  1. 我が家の水槽の一日あたりの硝酸イオン濃度の生成量を知る。
  2. 硝酸イオン濃度を出来る限り低い濃度で維持する。
  3. 水換えのペースは徐々に速くする(例えば10日→9日→8日→7日→6日→5日→4日)
  4. 3〜4日で警戒値に来るようになれば一度全換水を行う。
  5. 1回の水換えの量は出来る限り多くする。また、水換えの量を固定する。
と、言うようになります。
もし0から始まるとすれば6になって水換えをするよりも4の時に、または2の時に水換えをする方が、それ以後蓄積していく度合いが変わりますから、出来る限り「始めの段階で蓄積させない」、と言うことが肝心であると思います。
これによってコケの発生も格段に違ってきます。
もし、1週間〜10日で2以下の値であれば、おそらくかなりの間、1週間〜10日に1度の水換えによって硝酸イオン濃度は2以下に保たれると思います。
しかし、始まりが6である場合には、同じように1週間〜10日に1度の水換えをしたとしても、いっこうに基本的な硝酸イオンの蓄積度合い(最少蓄積濃度)の改善には成らないと言うことです。
 
まず、ここまではほとんど水草のない状況での考えですので、次は、実際の水草水槽において考えてみます。
 
流木や石や水草によってレイアウトされた水草水槽では、硝化作用によって生成される硝酸イオンは貴重な水草の栄養素となることは先に記述した通りです。
硝酸(NO)をそのまま吸収するのではなく、NOのNの部分、つまり窒素を栄養素として利用します。
水草に必要な栄養素としては窒素、リン、カリウムの3大栄養素とその他の微量元素があります。
リンは魚の老廃物に多く含まれ、そして窒素は硝酸イオンから吸収するそうです。
よって、水草水槽において添加されるべき液体栄養素はカリウムとその他の鉄分などの微量元素だけが必要なのです。
横道にそれますが、窒素やリンを含んだ栄養素を添加しすぎるとすぐにコケの大発生を招きます。
水草水槽において、「液体栄養素はなくては成らないもの、必ず添加しなくてはいけないもの、そうで無ければ雑誌に掲載されているような素晴らしい水景の水槽は出来ないのだ」、と言うように宣伝しているものを良く読んだりしますが、液体栄養素を使いこなすにはかなりの経験と知識が必要で、水草水槽には大敵であるコケの発生という大きなリスクと背中合わせであることは念頭に置いておかなくてはいけません。
もちろん、効率よく水草が栄養素を吸収するためには3大栄養素のバランスが最も大切であり、1部分が突出したような状態でもコケの発生につながります。
 
話を元に戻して、実質的な水草水槽における硝酸イオンの除去という目的での水換えは、突き詰めれば1日に生成される硝酸イオンと水草が1日に消費する量との引き算によって考えることとなります。
当然水草の種類によって葉面からの栄養素吸収の度合いは違いますから、レイアウトに用いた水草の種類やその量によって違ってきます。
健全で良好な水草水槽であれば必ずこの計算が基本的になるはずです。
また、水草の生長度合いによっても変わってきます。
買ってきたばかりの水草をいっぱい植際した状態と、それらの水草が大いに生長し森を形成しているような状態とではずいぶんと違ってきます。 難しいことに、その時点での判断が必要になってくるのです。
 
よって、硝酸イオンの除去を目的とした水換えを行うためには、まず一定期間の硝酸イオン濃度のデーターを取りそれを元に、水換え後何日で警戒値近くに成る、と言う予測と1日の生成される量を把握し、それからの水換えの予定を決めていきます。
そしてある程度の期間が過ぎた時点で一度「全換水」、と言う作業を行い、またそれまでのペースでのメンテナンスとなるのが最も好ましいと考えています。(全換水ではなくとも数日間続けて1/2の水換えを繰り返すと言う手段でも良いかと思います)
 
当然のこととして、何度も記述しますが、アンモニアを生み出す生体の数と与える餌の質、そして量が何よりも一番大切なことです。
過密飼育をさけ良質の餌を少量与えることにより、アンモニアの生成を抑制する。
それによって、生体に十分な遊泳スペースを確保することができ、生体の発育や発色も良くなり、水質も維持しやすくなります。
気に入った水草をレイアウトし、その水草の硝酸イオンの吸収分を予測する。
余分な硝酸イオンが蓄積する以前に水換えを行う。
全てのバランスが取れてこそ、コケの発生が少ない、優れたひとつの「水草水槽」となるのだと思います。
 
余談ですが、以前60センチ水槽で、一面リシアとケヤリソウのレイアウトを維持していたときには、グッピーを始めとする小魚と沼エビで40匹ぐらいの飼育の時がありました。
ご存じのようにリシアは葉面よりの栄養吸収が最も盛んな水草として知られています。
この時のこの水槽での硝酸イオンの蓄積は2mg/l前後を境に一定期間、と言ってもリシアが浮き上がってしまうのを抑えるために小石を重石代わりに乗せていた時期には、それ以上の蓄積がほとんど見られませんでした。
1/2水換え後1週間たった時点で2mg/l、10日後に測定しても2mg/lでした。
2週間後にやっと気持ち+1mg/l蓄積されたかな?と言う程度で、全く持って週に1回の水換えの必要がなかった経験があります。
一方、別の水槽では、リシアの生育をかねてリシアストーンにくくりつけた状態のものと少しの水草しか入っていませんでした。
この水槽では45センチにしては、かなり過密飼育である30匹以上の小魚が入っていました。
この水槽では1/2の水換えをした翌日にはすでに元の硝酸イオン濃度に戻っているという状態が続き、あわてて魚の量を減らした経験もあります。
当然の事ながら、この水槽ではひげコケの発生が次から次に見られ、同じようなシステムや環境でもずいぶんと変わると言うことを、思い知らされた経験があります。
この時ばかりは、水質を測定していて(硝酸イオン濃度)良かったと思いました。
 
このように、その時の水草の成育状況や生体の状態、濾過システムや経過時間などのいろいろな要因によって、数え切れないぐらいのパターンやケースが存在するのです。
故に、掟のような「週に1度の1/3の水換え」に惑わされることなく、我が家の水換え、または今回のレイアウトでの水換えは・・・・、と言うように考えて頂きたいと思います。