[濾過]

21.イオン交換樹脂

分子中にカルボキシル基(−COOH 弱酸性)やスルホ基(−SOH 強酸性)を持つ合成樹脂は、これらの基が固体の表面にあって、水溶液中の他の陽イオンとHを交換し、水溶液中にHを放出します。このような樹脂を陽イオン交換樹脂(酸性樹脂)と言い、また、分子内にアンモニウム塩の構造を多くもつ合成樹脂を、アルカリ水溶液中で水酸化物の構造に変えると、これらの−OH(塩基性)は、水溶液中の他の陰イオンと交換してOHを放出します。このような樹脂を陰イオン交換樹脂(塩基性樹脂)と言います。
 
水道水や地下水のようにいろいろなイオンを含んだ水溶液を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の両方の層に通すと、水溶液中の、陰、陽両イオンは、それぞれ各イオン交換樹脂によって除去され、交換によって生じたHとOHは直ちに中和して水となります。
俗に言う純水になると言うことになるのですが、正確には無イオン水(脱イオン水)であって、非電解質のケイ素や有機物を完全に除去したわけではありません。
 
2つの容器に分かれたものや、1つの容器内に各イオン交換樹脂の細粒の混合物を入れて、同時にイオン交換をするタイプのものもあるようです。
陽イオンを交換して塩の形になった樹脂は、希塩酸や希硫酸によって再び元の陽イオン交換樹脂に戻ります。
陰イオンを交換した樹脂は薄い水酸化ナトリウム溶液を通すと再び元の陰イオン交換樹脂に戻ります。
すなわちどちらも、何回でも再生できるという利点を持っています。
 
以上のような方法にて行うイオン交換をH型(水素イオンを放出する)とOH型(水酸イオンを放出する)と言います。
また、水素イオンの変わりにナトリウムイオンを放出するものをNa型(陽イオン交換)、塩素イオンを放出するものをCL型(陰イオン交換)と言います。
H型、OH型を直列にしてするやり方が最も効果的でありますが、樹脂を再生するには希塩酸や希硫酸、及び、水酸化ナトリウム溶液が必要になります。どちらも簡単に購入することが出来ません。
反面、Na型は食塩水につけるだけで樹脂の再生が可能なことから、アクア業界で販売されているものはこのNa型のようです。
このNa型はおもに総硬度を下げるために使用するのが目的で、ナトリウムイオンを放出する代わりに、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを吸収します。
Na型の代わりにH型を使用することも可能ですが、この場合水素イオンを放出することとなりますのでペーハーが酸性になります。
しかしながらH型やOH型を単独で使用するにはペーハーの変化が伴い(OH型だけを使用すると水酸化イオンを放出しますのでペーハーがアルカリになります。)弊害があることから、これらはセットで処理するべきものです。(ペーハーを酸性やアルカリ性にしたい場合は別ですが)
ちなみにNa型とCL型を合わせて処理しますと、ほんの微量ですが食塩(NaCL)が出来てしまいます。
気にするような割合では発生しませんが通常の水換えはさぼれませんね・・・。
CL型だけですと、さほど役に立つ効果はありません。Na型と合わせて使用するのが基本形です。
 
このようなイオン交換樹脂は先述しましたように水換えのための水を作るのが本来の目的で、濾過槽に入れて使用する物ではありません。
水草水槽の場合には、当然その様な使い方をしても硬度を下げることは出来ますが、その他の栄養分となるイオンも交換してしまいますので、水槽水がかなりの貧栄養になってしまい、水草の生育に支障を来します。
ただし、コケの発生はほとんど見られなくなると思いますが・・・・・。
 
アクア業界では4種類ある内のNa型しか流通していないようですが、その他の樹脂は化学工業用の薬品を取り扱っている薬屋さん(試薬屋)でも入手できるようですので、興味がある方は調べてみられるのもよろしいかと思います。

水作りと言う目的で、アクアリウムにおいては使用するのが一般的ですが、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの吸収を目的とするのであれば、ゼオライトや活性炭などの吸着効果のある物質を使用する方が簡単で投資額も少なくてすみます。

イオン交換樹脂を使用する方法はあまり国内では一般化されていませんが、ヨーロッパ諸国のように非常に硬度やペーハーの高い源水しか得られないような地域やディスカス愛好者の方々には、無くては成らないもののようです。
また、水草水槽においてもペーハーが高い元水しか得られないような地域の方で、ペーハーに変化を与えないような底床やカルシウム分を含んだ大磯砂を購入してしまった場合などには必要になってくる場合もあるでしょう。
 
イオン交換という過程は濾過ではなく、ただ単にどのようなイオンが含まれているか分からない元水を純水に近い状態にし、その上で必要なミネラル分などを添加して、アクアリウムにおいて最適な水を得ようとする手段です。
いわば水換えに使用する水をも作る、と言うことになるでしょうか・・・・。