[コケ]

35.光とコケ

水草が生長する上で光は無くては成らないものです。
しかし、その必要量というのは水草の種類によっても異なり、把握することは非常に難しいものです。
強い光を必要とするものとそうでないもの、または、長時間の光が必要なものとそうでないもの、様々です。
光を必要とするものは水草ばかりではなく、コケもまた生きていくためには光が必要なのです。
今回はコケと光の関係について「水草水槽における照明とはどうあるべきなのか」を考えていきたいと思います。

<時間>

水草とコケは親戚のようなもので、水草が育つ環境であればコケは必ず現れてきます。
それはコケも水草と同じように水中の栄養素を吸収し光を取り入れ生長していくからです。
しかもコケは水草よりも生命力が強く、その繁殖スピードも水草に勝るものがあるかも知れません。
水草水槽においてコケが発生する原因は無数にあり、またそれが正常な状態であると私は思っています。
コケが全く発生していない環境というものは、水草の生命を維持する上でも紙一重の状態に成ってしまうのではないでしょうか。
 
私達水草愛好家が自慢の水槽において育成に挑んでいる水草の本来の自生地というものは、なかなかお目にかかることも出来ず、そのほとんどは水上葉として生育している物が多いと聞きます。
時々、雑誌などでアマゾンのとある川の流域で自生している水草の写真などを目にすることがありますが、その様な自生地での1日の環境の変化などは想像するよりすべがありません。
しかしながら、川遊びに行った経験や子供の頃の思い出などからその1日は容易に想像できるはずです。
 
いつ日が昇りいつ沈んでいくのか?これが今回のキーポイントです。
 
自然の世界では、日之出と共にうっすらと明るさが現れその光の量は次第に増えていきやがてピークを迎えます。
ピークを迎えた後は徐々にその光の量は減少していき日の入りと共に暗黒の世界、月明かりの世界となるはずです。
水草の自生地の紹介などで目にする写真にはコケまみれになっているような水草はほとんど目にすることはありません。(泥などをかぶって汚く見えるものはありますが・・・)
当然水質やその自然の濾過能力、その安定性は水槽の中とは比較できるものではありません。
同じようには出来ないのは百も承知しています。
自然の環境でたくましく生育している水草にコケまみれのものがないのは、その様な基本的な条件の他に「光」と言う要因が、私達の水槽環境とは大きく異なっているように思います。
 
私達の水槽ではおそらく一般的な環境として、60センチ水槽であるならば20ワットの蛍光灯を4本、言い替えれば水槽上部に設置できる限りのスペースを利用して照明とします。
自分が鑑賞する時間を考えて点灯時間を決め、タイマーを用いて制御しているのが普通ではないでしょうか?
時間にしておおよそ8時間から10時間ぐらいが限度でしよう。
これは自然の環境とは大きく異なっている環境であると言うのはおわかりになると思います。
 
自然の世界で水草が自生している環境は大きく分けて2通りあります。
陰性植物は河川の周囲をうっそうと繁る熱帯雨林のなかに自生し、陽性植物はパンタナルなどの大湿原に自生しています。
陰性植物の自生地では太陽が真上近くに来たときにわずかな隙間などから光が射し込み、または光を遮断する障害物のないところへ太陽が来たときにしか直射日光は受けられません。1日の内のほとんどは間接的な光しか受けていないはずです。
これらの水草にとっては直射日光のような強烈な光は必要ではなく、逆に害になることもありうることになります。

一方、パンタナルなどの大湿原に自生する陽性植物は強烈な太陽光をたくさん必要とする植物です。
アクアリウムに使用する照明器具とは比べものにならないほどの強い光を大量に消費します。
また、それを根底から支える自然環境も水槽とは大きく異なります。
水の浄化作用、変わらぬCO2濃度、ミネラルたっぷりの水質、等々すべてにおいてバランスが取れた変わらぬ環境なのです。

私たちの世界での水槽では、事実、いつも直射日光が当たるような南向きの窓辺に設置した水草水槽などは必ずコケまみれになって崩壊していきます。
水槽内において光量だけが特化した環境になれば、植栽した水草が吸収しきれない光量が全てコケのために存在することとなるからです。
直射日光の光量というものは私達が想像するよりも遙かに強烈で、水草育成に使用する高照度の照明器具を持ってきてもかなうものではありません。
特に閉ざされた環境である水槽、しかも美的要素やレイアウトセンスなどを必要とする、見せる水槽では直射日光を利用した育成は困難なものがあります。
ですからこのような水草レイアウト水槽では水槽内をいかにバランスの取れた環境にし維持していくかがキーポイントとなります。

<暗黒の世界> 

さてここからが本題です。
自然の世界では日の入りと共に全ての光が失われます。
そう、ほとんどの水草自生地は真っ暗闇となるのです。
当然晴れた夜であれば月明かりにさらされる場所もあるでしょうが、おおむね真っ暗闇と言うことになるでしょう。
当然水草も光が無くなると同時に光合成を終え、単純な呼吸を行い眠りにつきます。
 
ここが最大のキーポイントです。
私達の水槽設置環境では果たして真っ暗闇の時間がいかほどあるでしょうか?
照明時間を8時間と設定し、鑑賞時間が帰宅後になるからと言うことで午後4時から12時まで設定したとします。
水草もこれに合わせて1日のサイクルを送るようになってきます。
これはこれで大正解なのですが、果たしてそれ以外の時間は水槽内は真っ暗闇でしょうか?
自然界では季節によって多少の時間差はあるでしょうが、熱帯雨林では1年を通じてさほど変化もないでしょう。
午前5時頃から明るくなって、午後7時ぐらいにはもう真っ暗闇かも知れませんね。
と言うことは、1日の内、約10時間は真っ暗闇、と言うことになります。

さて、あなたの水槽の真っ暗闇の時間は?

例え午後4時からしか照明のスイッチが入らないように設定していたとしても、水槽のある環境が明るかったり、窓から射し込む光や部屋の照明器具などの光が水槽に入っていないでしょうか?
水槽の照明を消した後でも部屋の照明器具の光が射し込むようでは、例えその光量は少ないものだとしても、その光は水草やコケが必要とすれば摂取します。
光に敏感な有茎草などは非常に弱い光でもそれが射し込む方向に頂芽を向けてより多くの光を摂取しようとします。
照明をつけているときはまっすぐになっているのに照明をつける直前はとんでもない方向に曲がっているような場合はまさにそれです。
人間の目で前面から見て真っ暗に見えても案外光が射し込んでいるものです。
出来るなら両サイドから水槽内を覗いてみて下さい。
暗さに目が慣れてくるとよく観察できます。
前面を何かで隠したりはずしたりすれば一目瞭然で分かって頂けると思います。
特に水槽前面のガラスや底床とガラスの間、または前景草などがすぐにコケにやられてしまうような状況でしたら、今一度チェックされてみてはいかがでしょうか?
 
水草水槽において、その育成のこつとしてよく言われていることに「強く短い光」と言うのがあります。
これはまさに自生地を考慮した、的を得たアドバイスであると思います。
照明時間が終わり水草も眠りについたならば水槽を何かで覆ったり、前面に何かを張り付けたりして「遮光」する事が必要です。
特に水槽前面とガラスの間、またはすみの方に発生したらん藻などはその部分に2〜3日全く光が当たらないようにしてやるだけで綺麗になってしまうことは良くあります。
また、旅行や帰省のためにやむなく数日間留守にし、偶然にも水槽内にほとんど光が入らなかったために、それまで至るところで発生していたコケが帰ってきて照明のスイッチを入れてみたらずいぶんと綺麗になっていた、なんて事は良く聞く笑い話です。
水草は光が無くては生きていけませんがコケもまた光をたたれると無くなってしまうのです。
コケが良く出る原因はいろいろな要素や環境があり一概に解決できるものではありませんが、光とコケの関係はその原因の大きな要素の1つです。
照明時間以外は出来る限りに光が入らないように工夫してやることで大きく状況が変化することもあるように思います。
 
「真っ暗闇の時間を正しく作る」と言うことは水草水槽を上手に維持していく1つの方法であるのかもしれませんね。
 
濾過システムや水質に気を使ってもコケに悩まされるようであるなら一度おためし下さい。・・・・・・・・・・