2.的玉に衝突した手玉の挙動 (前ページへ) (to english mainpage)
衝突の解析は一般に摩擦のない面上での弾性球が扱われる。これにラシャとの摩擦と玉の任意の回転が加わるとかなり面倒になる。
2−1.手玉が回転軸が水平な状態で転がり、的玉に真正面に衝突する場合
通常この最も単純な場合が扱われるが、現実はこのように軸が水平で真正面に衝突することは極まれなことである。
Fig. 2-1 的玉に真正面衝突した手玉の速度変化
(緑色のラシャは2844mm×1422mm)
Fig. 2-1について
・手玉(白)が的玉(赤)に衝突して速度が0になった後、回転力で加速し転がりに移っている。
・初速 1.3m/s、撞点角度 0°、離芯率 0.9、右方向に撞いている。
・離芯率が0.9であるので真上の端近くを撞いている。さらに上の離芯率1のところを撞けば、撞き初めのすべり(緑色)は無く最初から転がる。
・図のように衝突直前の速度と衝突後の転がり始めの速度とには一定の関係があり1:0.286という値をとる。同様に手玉、的玉の走行距離にも一定の関係がある。
2−2.一般的衝突における手玉の挙動
玉同士の衝突はラシャとの摩擦、任意な玉の回転、任意な進行方向、が加わると扱いはかなり煩雑である。衝突直後に90°の開き角度で手玉と的玉が別れたあとそのまま進むことは現実には極まれなことで、普通に撞けば手玉は前方向にカーブし、下を強く撞けば手前方向にカーブする。
Fig.2-2-1 的玉に厚く当ったたときの手玉の出方と回転軸角度の増加
Fig.2-2-1について
・通常、玉同士が衝突するとこのように横方向には行かず前方向に流れたように進む。
・図では初速 2m/s、撞点角度 10°、離芯率 0.9、で撞き、的玉を狙う角度を先玉中心から1°(的玉上で3mm)ずつずらしている。狙い角度が中心からずれるほどこの範囲においてカーブが大きくなっている。
・的玉への衝突で併進速度が大半失われることによりその後の回転軸角度は大きくなる。つまり回転軸が立つようになる。
・回転軸角度の変化をみると、撞き始めが10°すべって衝突前に9.89°になり、衝突後のすべりが終わって転がるときには図のように 29.2° 27.8°24.7°21.3°となっている。順次小さくはなっているが撞き始めの10°からはかなり大きくなっている。手玉の上端近くを小さな撞点角度で強く撞くという押し玉の基本はここにある。十分な強さで撞けるとスピンだけで大回しも可となる。
・真上方向の真正面衝突は的玉がまっすぐに跳ね返って来てキスとなるので現実にはなく参考。
Fig.2-2-2 手玉の右下を強く撞いて厚く当てたときの手玉の出方
Fig.2-2-2について
・手玉の下を撞いて厚く衝突させると(引き玉)その厚みに応じた飛出し方向とカーブの大きさで手前方向にすべりながら曲がる。
・図では初速3.5m/s、撞点角度 150°、離芯率 0.9、で撞き、的玉中心から右へ1°3°5°のところを狙っている(的玉上6mm間隔)
・引き球は的玉に当たるときまで逆スピンを保持させるために強く撞く。当然ながら上図のようにすべり状態で衝突している。
・クッションに入って後の軌跡は図が煩雑になるので省略した(後述)
・回転軸角度は144.3°で衝突しているが転がったときには60°前後となっている。かなりスピンの効いた状態で転がり進む。
・衝突後のすべり中に回転軸は3次元的に移り進み、転がるときには進行方向に垂直な面内で一定角度に落ち着く。
的玉に衝突した直後にすべりながらカーブしているときの玉の状態の解析はかなり面倒であった。結果として回転軸が3次元的に移り変わっていたのであるが、その算出結果の内容を把握するのに時間を要した。視覚化できる検証プログラムなしではおよそ中身の把握は望めなかった。
次に回転軸角度の変化を見る。
Fig.2-2-3 玉と衝突直後の回転軸角度の変化
Fig.2-2-3 について
・初速3.5m/s、撞点角度 140°、離芯率 0.9、で(真上方向よりも3°右)87°方向に撞いている。
・1ポイント離れた的玉に当たるときには軸角度は133°になっている。玉同士の衝突においては一般に衝突の前後で回転軸角度は変わらない。つまり衝突直後も同じ133°の軸角度のまますべり始めている。
・回転軸角度は133°から111°へ少しのオーバーシュート(誤差?)を経て変化している。その変化は逆すべりを少なくする方向への移動である。(このことはキューで撞かれた玉の挙動の項参照)
Fig.2-2-4 玉と衝突直後の各要素の変化
Fig.2-2-4 について
・Fig.2-2-3 と同じ条件で撞いている。玉の実際の進行方向と、玉がラシャを蹴って転がろうとしている回転進行方向、回転軸が含まれる平面の方向(回転進行方向+90°)の3つの変化を示している。
・回転進行方向は衝突直後に-93°方向に向いている。この角度は手玉が87°方向で的玉に衝突したために決まる角度で、ほとんど手前方向にバックスピン状態であることが判る。しばらくこの状態が続き、その後下方向から右下方向に変わっていき実際の玉の進行方向と一致(-27°)したところで転がりに移っている。
・回転進行方向に90°を加えた回転軸面角度の変化を描いた理由は、このグラフと実際の進行方向のグラフが交差していることに意味がある。この交点においては回転軸を含む面が実際の進行方向と平行となって、進行方向との関係において回転軸を含む面の表裏が入れ替わる瞬間である。
・回転軸傾き角度の定義は、転がり状態において玉の後ろから見て水平を0°とし、右回りに角度をとった。この関係はキューで撞かれて的玉に当たるまでの手玉についてはすべりを含めて通用する。つまり回転軸を含む面と進行方向とは直交し、その面を進行方向の後ろから見ている。
・しかし引き玉の衝突後のすべり中において、回転軸を含む面は上図のように進行方向とは大きく異なるところからスタートし、途中で裏返ってしまう。その後転がりに移るが、その時点で、回転軸角度は進行方向の後ろから見たものになっていなければならない。そうでなければ次のクッションからの跳ね返り計算が正常にできない。
・この裏返り現象は衝突時におけるある条件を境に起こらない。この点も解析を難しくする要因であった。検証プログラムが平行して出来上がっていないとその把握は難しい。
*日ごろ玉を撞く方々へ
・的玉への厚みが大きいほど強く撞かないと手玉の必要速度が得られない。当然のことだが撞いてから気づくことがある。
・押し玉は撞点角度はせいぜい±20°ぐらいの範囲にとどめ、前回転を与えることを意識して、強く撞けば大回しも可となる
・引き玉によるカーブの大きさは熟練者でなければ前もって想定は難しい。多くは強く撞くことに加え撞点、厚みにも敏感であるため体で覚えなければ再現は難しい。
11-12-1 文改 15-4-10 文改 以上
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