2017/9 2018/8 2020/10 一部追加
このサイトにおける長年の検討を纏めた下記書籍は2020/10をもってアマゾン及び店頭での販売を終了しました。
「ビリヤードの解析とシミュレーター」 A5 129P
アプリ4本を含むCD付き PC Windows 10対応
創英社/三省堂書店 2000円+税
ISBN : 4-88142-158-1
(2017/10記)
このサイトで記述を始めて約10年が経過し、当初に見通しの無かったマッセについても結果が得られ、大きな区切りとなりました。この間においては前に進むことに注力したため既述部分の一部にチェック漏れや記号の不統一がありました。その点につき、このページの詳細を見ていただいた方々にはお詫びしなければなりません。出版に際し当該箇所を訂正し、加筆しました。一部のアプリについては公開した時期もありましたが、解析本論のまとめ結果となるスリークッションシミュレーターとマッセシミュレーターを添付しています。
(2018/8/30 加筆)
上記自著に書き切れなかったことの一つに、マキシマムイングリッシュの利用に関するものがあった。以下のページに書き出しました。
マキシマムイングリッシュの利用のページへ
マキシマムイングリッシュは手玉の右か左の端を撞いて最大の回転を与えて走らせることを言い、最初の衝突までの距離がある場合にはその距離に応じてやや玉の下を撞く。この撞き方はある条件の玉配置のときにはかなり有効なものとなります。
(2018/8/30 加筆完)
以下に「ビリヤードの解析とシミュレーター」に添付の4つアプリの動作例と各章の概要を示します。
添付アプリの概要
アプリ1 ショット後の回転軸傾き角度
このアプリはキューで撞かれた手玉の回転軸傾き角度の変化を表示する。
Fig.3-1
Fig.3-2
これらの結果はアプリの3つの設定値 「離心率」 「撞点角度」 「初速度」 を与え、「Set」 と 「Start」 のボタンをクリックすることによりPC画面のスリークッション台上を左から右へ手玉の速度で回転軸傾き角度の変化を描く。
Fig.3-1 は玉の右を撞いた場合で、回転軸は鉛直方向でスタートし、軸角度は滑りながら徐々に小さくなっている。軌跡がすべり状態の緑から黒になるところから転がり始め、軸角度は一定になる。
Fig.3-2 は玉の下近くを撞いた場合で、玉は逆回転状態で滑り始める。すべりの後半で回転軸の向きが急激な変化をすることが分かる。計算結果は納得できるが予想は難しいケースといえる。
これらの手玉の挙動を知ることはスリークッションでは重要。的玉に手玉が当たる瞬間の回転軸のあり方がその後の手玉のコースを大きく支配するためである。
アプリ2 KOBA-8 mod.3
このアプリは手玉が的玉に衝突した場合、及びクッションに衝突した場合の解析結果の全てを含む軌跡を示している。かつ滑り中の手玉の回転で進もうとする方向を線分で表示している。これにより玉の挙動がより理解できる。
図の設定枠の通り、的玉の位置、手玉の位置、手玉を撞く方向(衝突厚み)、撞く強さ、撞点位置などが台上枠内で任意に設定できる。但し上限下限がある。
Fig.W-1-5 Fig.W-1-8
KOBA-8 mod.3 はインストール後 「Set」 「Start」 で軌跡例を描く。・キューで撞かれた手玉の解析結果 ・的玉に衝突した後の手玉の解析結果 ・クッションに衝突した時の手玉の解析結果 などを全て含んだ結果を表示している。
更に衝突直後の滑り中の回転方向とその大きさを線分によって表しており、より挙動の詳細が分かる。
Fig.IV-1-5 は手玉の右上を撞いて的玉に厚く当てている。的玉に衝突後、手玉は大きな前回転をしながら滑っていることが線分の大きさと方向からわかる。クッションに衝突後は前回転が右方向回転に瞬時に変わっている。
Fig.IV-1-8 は手玉の下を撞く引き玉の例。衝突後大きな逆回転でカーブを描きながら滑っている。図中の撞点位置でわかるように撞点位置が+160°でも-160°でも同じ軌跡を描く。但し上から見た回転方向が逆であるためクッションに当たった後の出方が全く異なる。このアプリでは右クッションからの跳ね返りは省略してある。
アプリ3 KOBA-9a
KOBA-9a はスリークッション台を玉の大きさと共に模擬し、全ての計算結果と少しの補正を含めている。3つの玉は台上で任意の位置をとることができ、手玉も任意の方向に撞くことができる。
Fig.W-2-0
Fig.W-2-0 はスリークッションの初球の配置で、このアプリの初期設定になっている。インストール後「Set」 「Start」 でこの軌跡を描く。続けて得点ができる後玉配置が得られるように、的玉への厚みや当てる強さが調整される。その結果、図のように的玉に衝突後にカーブを描くコースをとることになる。
入力枠の数値を設定することにより各玉の配置、当てる厚み、手玉の速度、撞点位置が任意に設定できる。但し「白赤角度」 「白黄角度」 は「Set」後に表示される。この数値を基に「進行角度」を決め、当てる厚みを決める。「Set」で厚みは図中に表示される。
CD内の添付説明にもある通りこのアプリにはいくつかの制約事項がる。・的玉の軌跡は同時に描けない ・玉クッションは不可 ・クッションに連続接触の転がりは不可 等。
「Rand」 で3つの玉をばらまくことができ「白赤角度」 「白黄角度」から狙う玉への「進行角度」を決め新しいトライができる。新しい取り方が見つかるときがある。
Fig.IV-2-1
Fig.IV-2-1 は手玉が的玉に当たった後にクッションに当たるとき、最初の撞点位置がその跳ね返り方向にどの程度影響するかを表したもの。この例では撞点角度を10°と40°の場合を示している。上クッションからの出方に大きな差が見られる。初速度が同じで回転が大きい程エネルギーが大きく、40°撞点の方が大きな走り距離が出ている。
Fig.IV-2-3
Fig.IV-2-3 はやや高度な取り方のコースであり、左上を強く撞き、厚く当てている。このような難しい回転変化をする場合も現実に合う軌跡が得られている。但しこの配置は右利きの人には撞きにくい。撞点図の関係で右側配置とした。
実際にこのようなコースを撞く場合、撞いている人は的玉を狙って低く構えて、かつ早い玉を撞くので手玉の微妙な動きを見ることが出来ない。その点でシミュレーターは真上から見た軌跡を知ることができるのでプレーヤーに大きな満足感を与える面がある。
Fig.IV-2-7
Fig.IV-2-7 は手玉をクッション近くにある的玉に、前回転で強く当ててその大きな前回転で、跳ね返り後にもう一度クッションに向かわせて狭いところで3つの跳ね返りを得て、最終コース上にある第2的玉に当てて得点する。
このコースなどが再現できることは的玉に衝突後の手玉、及びクッションに衝突後の手玉の各要素の解析がかなりうまく行っている査証であると言える。
アプリ4 KOBA-M-3a
このアプリはマッセのシミュレーターであり、長年の解析の中では後半までその手掛かりがつかめなかった代物であった。マッセはキューを立てて鉛直方向からやや角度をつけて手玉の上面を撞く。撞点は決まるとしても鉛直に対して角度が付いているため、どういった力の成分がどのように玉に併進速度と回転を与えるのか把握できるまでかなりの時間を要した。
マッセは上級者でも撞く機会は少ない。ましてや中級以下の人は一般に撞かせてもらえない。それ故そのシミュレーターを作る意欲は絶えなかった。またそれはビリヤードで最高の技量を必要とするからとも言える。マッセがシミュレート出来ればこれ以外のシミュレーターもその解析手順の妥当性を感じてらえると判断した。
マッセの技量を争うときには規定の配置玉位置で規定回数内で成功するかどうかで勝敗を決める。以下にwebで得られた標準コースの再現例を挙げる。
Fig.IV-3-1
Fig.IV-3-1 はKOBA-M-3aに初期設定されている。インストール後「Set」 「Start」でこの軌跡が描かれる。このコースはデモンストレーションでよく見られるようだ。
このコースを走るには手玉を上から見て右回転、かつ左下方向に滑り回転させながら、近接の赤玉に薄く当てたあと左上方向に手玉を大きな速度で飛び出させなくてはならない。これらの最適バランスをとるのはかなり難しい。上記の設定値のどれかを僅かに変えることにより、その設定値の効き方をよく知ることが出来る。
Fig.IV-3-4
Fig.IV-3-5
Fig.IV-3-4 と Fig.IV-3-5 は共にクッションに向かう大きな回転力を与えられ、前者は右クッションで、後者は下クッションでダブルクッションとなったあとに第2的玉に当たっている。
それぞれの撞点が向かうクッション側にあることが分かる。またこの程度の走りのときは(打撃)強さもそれほど大きくないことがわかる。つまり要領さえ得れば撞きやすいと言える。
Fig.IV-3-6
Fig.IV-3-7
Fig.IV-3-11
Fig.IV-3-6 と Fig.IV-3-7 と Fig.IV-3-11 はともにスリークッションの取り方ではなく、マッセのコントロール力を競うもの。いずれのコースも設定値に敏感であり、それは上記設定値を僅かに変動させて軌跡を描かせたときその利き方がわかる。
とくにFig.IV-3-11 は実際のコントロールは難しい。図では不鮮明であるがX=6.5 Y=3.5のところにピンが立っており、それに触れないで回り込まなければならない。
解析本文各章の概要
T ビリヤードの力学的解析とシミュレーター
1.転がり
1−1. 単純転がり
回転軸が水平な状態で転がるとき単純転がりとした。転がりの基本であり、初速度、転がり距離、転がり時間等の関係式を示した。
1−2. 一般的転がり
通常の転がりは回転軸が傾いて転がっている。その傾きが大きい程玉の進み方はゆっくりと見える。つまり見かけの転がり抵抗が小さくなる。軌跡を描く上ではこの見かけの転がり抵抗が必要であり、その値を導出しその計算過程を示した。
2.すべり
2−1. 単純すべり
回転軸を含む面が進行方向に垂直で回転軸が水平なまますべり状態にあるものを単純すべりとした。これも基本形であるのでこの状態における初速度、すべり距離、すべり時間、回転各速度の変化等の関係式を示した。
これらの関係式から導かれるすべり摩擦によって失われるエネルギーについては注意すべき点があり関係式で示した。つまり滑っている中で玉が加速状態か減速状態かによって、球表面上の滑り長さが実際の滑り距離に加算するか減算するかが決まり、その上で滑りによるエネルギーロスを評価しなければ初期エネルギーと滑り終り時の合算エネルギーが一致しない。
3. キューで撞かれた玉の挙動
3−1. ショットの3要素
3−1−1. 離心率
キューで玉を水平に撞くときその撞点が中心からどれだけ離れているかの指標を作った。玉の中心から上方向で半径の40%のところ、または下端から70%のところに水平に打撃を与えると玉が初めから滑らずに転がりで飛び出すことは一般に知られている。
この点を中心からの離れ度合いとして1の値をとる指標を作り、離心率=1とした。このようにすると、玉の半径、初期回転角速度、離心率、初速度の関係が簡潔に表記できた。その算出過程を示した。
3−1−2.撞点角度
撞点角度は撞点が玉の中心から見てどの方向にあるかを示す。真上方向を0°とし、時計回りを正、反時計回りを負とした。従って玉の真下は±180°となる。
3−1−3. 強さ
ビリヤードは撞く力加減の調整がいつも必要となる。残り玉配置を有利にするためである。熟練者ほどこの点が優れている。場合よっては最大限の力で撞かねばならないときがあり、この時に正確な撞点でつくには熟練度が高く要求される。
これら3つの要素の他に手玉を走らせる方向がある。つまり的玉に当てる厚みを決めるキュー出しの方向精度である。この要素は玉自体のすべりや回転や速度とは異なるので主要要素には含めなかった。ただ実戦上は的玉が遠くにあるときには最も難しい要素であることは確かである。
3−2. ショットとすべり
キューで撞かれた玉は撞点位置(離心率、撞点角度)と強さで決まる初速度、初期回転角速度、回転軸傾き角度で滑り始める。但し特定の撞点位置の場合のみ転がりでスタートする。これらの各要素を一般式で導出した。
但し撞く強さはキュー重みなどで打撃量が異なるので一般的取扱いは難しい。そのため結果として現れる初速度を初期値とした。この項の最大成果はすべり中の回転軸の傾き角度の変化であり次のように表わされる。
滑りながら進む玉の回転軸傾き角度が撞点位置によってどのように違いがでるかを見られるようにしたのがアプリ1である。
4. 玉同士の衝突
4−1. 衝突前後の玉の各要素
玉同士の衝突ではまず手玉の衝突後の進む方向を知る必要がある。その方向は次のように求められ、その手順を示した。
同時にその時の初速度も知る必要があり、以下の通りとなった。
×
これらを手間を掛けて一般式で求めたことによって、台上で玉の衝突を考えるとき手玉の進む方向に制限がなくなり、シミュレーターの台上において手玉をどの方向にも撞くことができる。
衝突直後の方向と速度の他に、手玉方向と的玉進行方向の軸が水平な回転成分の算出手順を示した。
4−2. 衝突後のすべり
衝突後のすべり中の手玉が進む方向は次のように表される。その手順を示した。
同様にその間の速度と回転各速度も示した。またその間の回転軸の傾き角度も次式を算出した。
すべり終わったときの速度と回転角速度は以下となりその手順を示した。
手玉方向
的玉方向
これらの結果ではすべり終るまでの時間に2方向で差が出た。初期の解析では先に終了値に達した方が他方が終了するまでその終了値を維持するとした。通常の軌跡描画では問題は無かったが、平行して考えていたマッセの軌跡において不連続性が表れた。
対処方としてより自然な手法を見つけ2方向が同時に終了値に達するようにできた。これでマッセについても問題が解決しスムーズな軌跡となった。現実の摩擦面の現象は複雑でより現実に近づいた処置であると考えている。その詳細を記述した。この処置はクッションからの跳ね返りの際にも採用した。
4−3. 衝突後の回転軸の移動
的玉に衝突したあとの手玉の各要素は、手玉進行方向と的玉進行方向のそれぞれの各要素が合成されたものになる。従って進行方向、回転角速度などが連続的に変化する。これら変化の原動力になっているのが各瞬時のラシャとの摩擦である。
これらの結果として現れる特異なものに回転軸を含む大円の向きの変化がある。玉の下を撞いて衝突させたとき、ある条件内においてこの大円が進行方向に対して裏返ることがある。これも含めて衝突後の回転軸の位置変化は3次元的なものとなる。
これらの原動力となるラシャとの摩擦力方向とその大きさを表示させたのがアプリ2である。これにはクッションとの衝突後も含んでいる。瞬時のすべり力方向を知ることによって、手玉の複雑な方向変化の力の源を知ることが出来る。そのすべり方向は次のように表される。
5. ビリヤード台の特性
5−1. ビリヤード台と玉の特性
5−2. ビリヤード台の特性の算出
ビリヤード台の転がり摩擦係数、すべり摩擦係数、クッションの跳ね返り係数などは公表されておらず、玉の軌跡を求めるためには何らかの方法で算出せざるを得ない。再現性もあり最も利用価値があったのはweb上のスリークッションの初球映像であった。その算出手順の詳細を示した。
その計算過程の中でクッションの高さがいかに重要な要素であるかを計算例で示した。ポケット台の特性の違いもその跳ね返り特性に大きな差があることを詳細に示した。
6. クッションへの衝突と跳ね返り
玉がクッション当たったとき、玉にどのような力が働き、どのように各要素に変化を与えるのか。衝突時に任意の値をとる玉の要素(入射角、回転角速度、回転軸傾き角度、併進速度)が多く、瞬時の打撃がこれらの要素をどのように変化させるのかは、その解析は困難と見られてきた。かなりの思考錯誤と時間を費やしなんとか現実と合う手順を見出し詳しく記した。
6−1. クッションに垂直な打撃
まず玉がクッションに垂直に当たり跳ね返る場合を扱う。回転軸が水平でかつクッションに平行な回転成分を扱う。跳ね返る瞬間の回転角速度が以下のようになる計算過程を示した。
この結果は、クッションに向かっていた回転の約1割の回転を残して跳ね返ってくることを示している。約9割の回転が瞬時に失われ約1割の前向き回転、つまり逆回転で滑り出すことを示している。本論では右辺左辺の符号や計算過程を詳しく示している。その中でクッションの高さが大きな要因となることが示される。
参考としてポケット台の場合の状況を計算している。ポケット台では玉の大きさに対してクッション高さが大きい。結果は次のようになる。
ここでは右辺が負となっていて、衝突前とは逆回転、つまり順回転で跳ね返ることを示している。ポケット台の跳ね返りが早いことはこのことでわかる。
6−2. クッションに平行な打撃
前項ではクッションに垂直に当たる回転成分について跳ね返り時の挙動について調べた。一般に玉がクッションに当たるときは、玉のクッションとの接点は必ず必ずクッションに平行な方向の打撃を受ける。その原因となるのは、玉のクッションへの入射角、玉の角速度、玉の回転軸の向きと傾き角度、そして衝突時の速度など多くの要素がからんでいる。
玉へのクッションに平行な力成分を最も大きく構成する要素は、衝突時のクッションと玉の接点との速度差である。この玉の接点の球表面上の水平速度成分が求められれば大半は解決する。試行錯誤の結果、入射角に依存しないで球表面上の接点の水平速度速度が得られた。これと玉の併進速度の水平成分との差が求めるものであった。
この速度差とクッションに垂直に加わる力の積によって玉とクッションとの摩擦力、即ち玉がクッションから受ける打撃力の関係式が得られた。
6−3. 任意条件でクッションへの衝突
6−3−1. クッションへの衝突前後の各要素
前項で得られたクッションに平行な打撃力による運動量、及びモーメントについてクッションとの衝突時前後の関係は以下となる。
他方のクッションに垂直な速度成分は跳ね返り係数のみでの表示となる。
これらより跳ね返り直後の角速度鉛直成分も算出される。つまり衝突直後に玉を上から見てどちら向きにどれくらい回転しているかを表すことが出来た。
その他に、クッションに垂直な方向に跳ね返る速度成分、回転軸傾き角度、及び滑り方向などの初期値を算出した。更にクッションに平行な速度変化も算出し、跳ね返り直後の飛び出し方向を捉えることができた。
最後の式はクッションに平行な速度が衝突前後の鉛直方向を軸とする回転角度の変化に依存することをしめしたいる。つまり跳ね返り後に方向に大きな変化があればそれは回転各速度に変化に対応していることを示している。この式とクッションに垂直な速度変化を合わせると跳ね返り直後の方向が定まる
6−3−2. 跳ね返り直後のすべり
クッションから跳ね返り直後の玉は必ず滑り状態にある。その速度と回転についてクッションに垂直な方向と並行な方向の成分について時間的変化を求めた。それぞれは衝突前に比べて増大する場合と減少する場合がある。その内の一つであるクッションに平行に転がる速度と回転角速度は以下のようになる。
sgnはその中の値の符号のみを取り出し、減速か加速かを決める。一方のクッションに垂直な方向の同様の2つの式と合成することにより、跳ね返り後のカーブした軌跡が描かれる。
またこれらより、跳ね返り直後に玉が滑り進もうとする方向とその強さも算出され、それを軌跡と共に表示したのがアプリ2である。表示される滑り方向は予想しがたいものが含まれ、跳ね返り時に難しいコースを取る玉についてより深い知見が得られる。
更にすべり中の回転軸傾き角度も次式のように算出される。
6−3−3. すべり中の回転進行方向の変化
すべり中の玉の回転方向は進行方向、つまり転がっていこうとする方向は実際に進んでいる方向とは異なる。その初期値は次式で表される。
この右辺カッコ内の分子はクッションへの衝突で9割方無くなる値であるので、衝突直後は玉のすべり方向は水平に近くなることを示している。そしてすべり中のその方向は次式で表される。
これがアプリ2で表示されるすべり方向線分の方向を決めている値である。
6−3−4. すべり終了と転がり始め
跳ね返り後の玉のすべり方向は徐々に実際の進行方向に近づいていき、一致したところで転がり始める。これもアプリ2で確認できる。
実際には2方向に分けたそれぞれの滑りが同時に終了するよう記述のように係数を決めている。この終了時刻によって、全ての要素の終了値が算出できる。これらの値が転がりの初期値となり、本論冒頭の転がりの扱いに戻る。
7. 補記
これまで気付かれなかったことを数式化できたこと。各項目毎の検証プログラムがシミュレーターになったこと。但しそれには玉クッションのようにいくつか制限のあること。シミュレーターにはいくつかの現実的な補正が必要であったこと。などを記した。
Tー1 図解:キューで水平に撞かれた玉の挙動
アプリ1の3つの動作例と他の解析図を用いて詳しい解説をした。
Tー2 図解:的玉に衝突した手玉の挙動
手玉が的玉に衝突したあとの挙動について5つの図を用いて詳しい解説をした。
Tー3 図解:クッションから跳ね返るときの挙動
手玉がクッションから跳ね返る際の複雑な各要素の変化を5つの図を用いて解説をした。
U 力学解析別項
1.マッセ
マッセは的玉に当てたあとにカーブさせたいとき、第1的玉が近過ぎて水平撞きが出来ないときなどに手玉の上面を撞く手法。実際に撞くにはかなりの経験を必要とし、解析に当たっても上からのキューが振り角度をもっているため玉に与える回転力が複雑となっている。その為、当初は解析の予定に入っていなかった。解析のメドが立つまで数年が経過した。
1−1. マッセの5要素
1−2. 打撃の鉛直方向と水平方向成分
1−3. 初速度
1−4. 打撃による初期回転角速度
1−4−1. 鉛直方向打撃成分による回転
1−4−2. 水平方向打撃成分による回転
1−4−3. 3軸周りの初期回転角速度 :前2項の各軸周り回転を3軸について集計する。
1−5. すべりと各要素の変化
以上の各要素の説明と打撃力の分解の仕方と考え方、及び必要な速度、回転などの関係式の導出を記した。
2.ポケットビリヤードのスローを生じさせない撞き方
ポケットビリヤードは的玉が主役であり、その進む方向を決める衝突の厚みが重要事項となる。当てられた的玉は衝突点の反対方向よりも手玉に引きずられた方向に僅かにずれる。重大な方向ずれであるので、これを防ぐ方法も重要なテーマである。これを防ぐ理論的解は手玉の衝突点の水平方向速度成分が0になることである。
以上の考えで手玉が的玉に当たったとき、上記の条件を満たす撞点位置を求める手順を示した。これには本論冒頭で既述した撞かれた玉のすべり中の回転軸の移動についての考慮が必要となる。
結果として、的玉を進めたい方向角度と撞点位置は2つの関係式を経由することになったがおよその解は得ることができた。
V 力学解析余話
1.転がり摩擦力の5:2への配分
2.すべり摩擦力は配分しない
3.玉位置の計算サイクルは0.0003秒以下が必要
4.惑わせる運動方程式
5.張り替え直後のコンディションと慣れ時間
6.解析の難関は玉とクッションの相互作用
7.面倒な三角関数
8.クッション経由による進行方向の収束
9.初球の取り方
10.単純転がりで的玉に正面衝突したときの挙動
11.検証プログラムからシミュレーターへ
12.転がりが停止するときの挙動
以上の項目についての説明した。多くは解析作業中に時間を取られたテーマであったり、一般的なことの数式による裏付けであったりである。
W 添付CD内のシミュレーターと設定例について
1.KOBA−8 mod.3の設定例
2.KOBA−9aの設定例
3.KOBA−M−3aの設定例
以上