1.キューで水平に撞かれた玉の挙動      (前ページへ)    (to english mainpage)

キューで玉をうまく撞けるようになるまでにそれなりの時間を要する。うまく撞けるようになっても、その後玉がどんな状態で進んでいくのか通常は想像の域を出ない。以下にいくつかの解析結果を示した。(解析手順は別途挙げてある)

スリークッションで使用する玉は直径が61〜61.5mm、重さが204〜212gとされる。台の寸法は四方のクッション内が142×284cmである。四方にあるエッジ状のクッションの高さは36〜38mmとされる。後述するがこのエッジの高さが台特性の重要なポイントとなっている。

キューで玉を撞いたとき玉のどの位置を撞いたかによって玉の回転の状態が決まる。スリークッションはイメージしたコースに手玉を走らせるゲームであるので想定する回転状態が得られる撞点位置を決定し実行しなければならない。

撞点位置は、中心からの距離を示す離芯率、周方向位置である撞点角度の2つで表せる。離芯率は玉を真後ろから見て玉の半径の40%だけ中心から離れたところを 1 とする。撞点角度は転がる玉を真後ろから見て回転軸が水平なとき、つまり玉の中心より真上を撞くときを0°とし、右回りに角度をとる。従って右端真横を撞けば離芯率 1 、撞点角度 90°となる。

初速度よりもキュー速度の方が実際感覚に近いが、キューの重さによって同じキュー速度でも玉の初速度が変わるため以下では玉初速度を用いた。キューを水平に出すという条件のもとで撞点位置と初速度のサンプル値をとり 解析結果を以下に示す。


 Fig.1-1 回転軸傾き角度の変化 撞点80°  (動作はYouTubeで : タグ Billiard 3C Simulator  又は表紙からダウンロード可))


 Fig..1-1について
・玉を右に向かって離芯率1、撞点角度80°、初速度3.5m/s、で撞いている。緑色部はすべり状態。黒色部は転がり状態。
・大きい円は手玉。 斜め棒は回転軸、赤丸はキュー先、小四角黒点は撞点、を示す。この大円の図は進む玉を後ろから見た図である。
・玉のほぼ右真横を撞かれた玉は3ポイントまで滑っている。その間に回転軸は水平に近づくように移動している。玉の接地点の速度が併進速度に一致したとき黒色部の転がり状態になる。転がり中は回転軸角度は変化せず一定となる。
・滑り距離は、下を撞くほど又強く撞くほど長くなる。撞点角度が0°で離芯率が1である点(中心上40%)を撞くと滑らずに最初から転がる。


 Fig..1-2 回転軸傾き角度の変化 撞点170°   (動作はYouTubeで : タグ Billiard 3C Simulator )


 Fig..1-2について
・Fig..1-1と同じ条件で撞点角度170°とした場合。
・逆転状態でかなりの距離を進み、急激な軸角度の変化があったあと短い順回転すべりを経て転がりに移っている。このような変化は結果を見てみると理解はできるが解析前は容易に想像できるものではなかった。

上の2つの図から、手玉をある状態で的玉に当てようとするとき、これらの変化を加味して撞点位置や強さを決めなければならないことが判る。通常、このことは頭に浮かばずついつい衝突させるときの状態の撞点で撞いてしまう。よほど遠い的玉のときは何となく気が付くが。また、これらの図から転がりに移ったときの回転軸角度が最初の撞点位置によって少し変化していることが判る。撞点80°では高く、撞点170°では小さくなっている。当然撞点0°では0°となり何か極大値をもつことが判る。
 
ショット時の回転軸角度(撞点角度)と転がり時の回転軸角度との関係を求めたのが次の図である。


Fig..1-3 ショット時回転軸角度(撞点角度)と転がり時回転軸角度


 Fig..1-3について
・図では玉の右側を撞いている。左側をつくと横軸角度は負になり縦軸も負になる。
・ショット時回転軸角度(撞点角度)を順次変えていくと、ころがり時の回転軸角度は極大値を持つ。つまり玉をキューで水平に撞くかぎり 56.79°以上 の軸角度で転がることは無い。左側を撞くときは-56.79°以下にはならない。
・この図は離芯率 1 のときの結果。撞く強さ(初速)には関係しない。離芯率が1以下のときは全体に山が小さくなりピークも少し左にずれる。

撞かれた手玉がすべり中に回転軸角度を変えるのを実戦的に経験するのが次図のように引き球で的玉までの距離が変わる場合である。


 Fig..1-4 すべり中の回転軸傾き角度の変化による散乱角への効果  (動作はYouTubeで : タグ Billiard 3C Simulator )


 Fig..1-4について
・的玉を1ポイント乃至は0.5ポイントずつ遠くへずらし、3.3m/s の初速、撞点160°で的玉の中心右 7.1mm を狙っている。衝突時の厚みが同じになるように配置してある。
・すべり中に回転軸角度がだんだん小さくなり手玉の出方が前方に移動している。すべり中の速度減少も同時に効いている。
・転がりはじめると軸角度は一定になるので手玉の出方も一定になる。
・クッションとの衝突(後述)では左回りのスピンが残っているためクッションへの入射角に従いクッションからの出方は大きく異なっている。

次に、撞かれた玉の速度について調べる。玉の下を撞くほどすべり距離が大きくなりその間の減速が効いて転がり始めの速度は小さくなる。


 Fig..1-5 撞点角度と転がり速度


 Fig..1-5 について (11-12-1 文改)
・玉の下を撞くほど転がりはじめの速度が小さくなる関係を示す
・上位のグラフは初速 3.5 m/s  離芯率 1 で撞き、撞点 が80°と 170°のときの結果。ともに同じ減速経過をたどり、撞点が下になるほど遅い速度で転がり始めている。
・下位のグラフは初速 2.5 m/s  離芯率 1 撞点 170°のときの結果。撞点が同じであれば初速(3.5と2.5m/s)に係わらず転がり始め速度が初速に対して同じ比率 43%まで減衰する。
・ちなみに撞点 80°のときは67.5 %の減衰に止まる。
 
撞点角度と、転がり始め速度の初速に対する減衰率の関係を示したのが次図である。


 Fig..1-6 撞点角度と転がり速度の初速度に対する減衰率


 Fig..1-6 について
・撞点を 0°から 180°まで、つまり玉の真上から真右横そして真下近くまでを撞き分けたときの転がり始めの速度を初速と比べた減衰率である。この結果は初速や離芯率の大きさに関係しない。横軸の角度は負のときも同じ結果となる。
・減衰率はコサイン曲線状をなし、下限値 0.43 の値をとる。


この項まとめ
・玉の右側を撞いたとき回転軸は左回りに移動してのち転がりに移る。玉の左側を撞いたときは回転軸は右周りに移動する。
・撞点が±90°以内のときの回転軸移動速度は直線的であるがそれ以外のときは曲線状となる。とくに真下近くを撞いたときは逆回転のまますべったあと瞬時に順回転に移る。この間、回転軸は進行方向に垂直な面内を急速に移動する。
・キューで水平に撞かれた玉は転がったとき回転軸角度は56.8°以上、又は -56.79°以下にはならない。
・玉のほぼ真下を撞いたとき、転がるときには43%まで速度が落ちている。


*日ごろ玉を撞く方々へ
・手玉を撞いた直後からすべりながら回転軸角度が大きく変っていく。 撞く強さには関係しない
・従って離れた的玉に対して手玉の下を撞くときはかなり強く撞かないと当たったあとの手玉の出方が甘くなってしまう
・ころがり状態になれば回転軸角度は一定である 
・出来るだけ上を撞くことにより早く転がり状態とすることによって的玉の遠近に関係なく手玉の出方が同じく得られる


                       11-12-1 文改   15-4-10  文改   以上

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