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大回しで先玉に当てるのは難しくない(進行方向収束効果)
スリークッションのゲームで、手玉が台上をぐるっと回って玉に当たる場面がしばしば見られる。2つの玉に当たるまでに3回以上クッションに入らねばならないので台上を2周する場合もある。
実際にこのコースを撞いてみると以外と成功することが多いのだ。長年撞いていてもなぜだろうとは思わなかったが、検証プログラムをチェックしているとき、これについてもっと詳しく調べてみようと思い立った。結果は本体解析に比べ比較的容易に得られた。しかし実用上は価値があるものと思われる。
次の図のように左上隅近くの玉に左下隅からの手玉で大回しで当てる場合を調べた。
図のように先玉の両端にぎりぎり当たるコースを確認した。この場合は玉2個分の当たり角度幅になるが当たり易さを評価する上では玉半分を対象としても同じである。
このコースは大回しの代表的なもので撞点が安定していれば初心者でも練習で撞ける。つまり安定であれば何かしらこの辺にくる。この図をよく見ると撞き出しからワンクッションまでは進行方向が開いているがその後はほぼ平行に進んでいることが見てとれる。さらによく見ると各クッションに入るときよりも出るときにその軌跡が狭まっていることが判る。これがクッションによる方向収束効果のもとである。
この効果が現れるメカニズムはワンクッション目で入射角が大きく(入射右側コース)入った玉はクッションとの並行速度差が大きく、跳ね返り後の水平回転成分が他方に比べて大きい。その回転がツークッション目で反射角を広くし他方の反射コースに接近することになる。
このことが第2、第3のクッションにおいても起こっていることが読みとれ、反射後のコースがそれぞれ狭まっている。結果として全体がほぼ平行に進んでいる。つまり直進する場合のように進路が広がっていない。つまり遠くの玉が離れる程に見える大きさが変わらないのだ。
このことを確認するために第1、第2、第3のクッションの手前に先玉を置き、上図と同じように当たるに必要な角度幅を求めた。(この目的にはこのシミュレーターはかなり信用できる 同類誤差が出ないため)
それぞれの場合について出発進行角度差から衝突角度幅を算出した。
その結果は
第一クッション前 3.36°
第二クッション前 3.02°
第三クッション前 2.80°
第四クッション前 2.73°
であった。
これと比較すべきものは、台上の進行距離を一直線にし、その先に先玉があるときの衝突角度幅である。
それぞれの場合について先玉までの距離と衝突角度幅を求めた。
第一クッション前 205cm 3.36°
第二クッション前 324cm 2.12°
第三クッション前 489cm 1.41°
第四クッション前 673cm 1.02°
このように直進した場合の衝突角度幅は当然ながらかなり小さくなる。
これらを図にするとその差と傾向が明白となる。
グラフで一目瞭然だがクッションを経由すると遠くの玉でも当たり幅が20%しか小さくなっていない。直進の場合には1/3にもなり当てることはかなり困難となる。この差は大きい。このことがスリークッションが華麗な技を見せることができる大きな要因の一つとなっている。台上を遠く回った後に当たるのを見せたり、見るのは気持ちのいいものだ。
以上のようなコース解析はこのシュミレーター(検証用プログラム)があって初めてできる結果の一つである。
大回しの典型的なコースの場合について算出したが、大回しである限り少々コースが異なっても結果はあまり変わらない。以上では撞点角度との関係を述べなかった。上記のようなコースでは撞点角度が0~40°ぐらいの範囲では結果はほとんど変わらない。とくに40°ぐらいが最も安定している。それはクッションから跳ね返って転がる玉の回転軸の傾き角度が常に40~50°であるからである。
従って出発時からこの軸角度を与えておくと最初のクッションから安定な跳ね返りが得られその後の跳ね返りも安定する。
とくに出発時の0°から40°の軸角度の範囲において目的が左上の隅のとき、撞点角度が変化しても方向が収束するという特異な結果が下図のように得られる。
図の右上で上クッションから出たとき外側にある軌跡が撞点40°の場合である。
14-10-11 以上
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