誤差型式(error form) は、`2.3 +/- 0.12' のように、 標準偏差が付随する数値です。 表記 `x +/- @c{$\sigma$} σ' は、 正規分布またはガウス分布に従う不確かな値の平均 x と、 標準偏差または誤差 @c{$\sigma$} σ を表します。 平均や誤差は、数値でも式でも構いません。 これらは一般に実数ですが、平均は複素数にもなり得ます。 誤差が負や複素数の値をとる場合は、その絶対値に変えられます。 誤差がゼロの誤差型式は、Calc によって普通の数値に変換されます。
全ての算術関数や超越関数は、誤差型式を入力として受付けます。 平均部分についての演算は、普通の数値についての演算とまったく同じように働きます。 任意の関数 f(x) (例えば @c{$\sin x$} sin(x)) の誤差部分は、 「x の誤差」と「x の平均における f(x) の導関数」の積であると定義されます。 2引数の関数 f(x,y) (例えば加算) では、 x と y に起因する各誤差の 2乗和平方根です。
| df(x)| f(x ±σ) = f(x) ±σ・|------| | dx | ____________________________________ | |∂f(x,y)| 2 |∂f(x,y)| 2 f(x ±σ , y ±σ) = f(x,y) ± |(σ・|--------|) + (σ・|--------|) x y \| x | ∂x | y | ∂y |
この定義は、x と y の誤差に相互相関が無い と仮定していることに注意してください。 この定義の副作用は、 `(2 +/- 1) * (2 +/- 1)' と `(2 +/- 1)^2' が 同じにならないことです。 前者は2つの独立な値が偶然同じ分布をした場合の積を表し、 後者はひとつのランダム値の自乗です。 2つの独立な誤差は平均値付近でうち消しあうと予想されるので、 前者が生成する答は後者より小さな誤差となります。
標準偏差の適切な使い方の議論については、 誤差解析に関する教科書をあたってください。 現実の誤差は、しばしばガウス分布でも独立でもなかったりするし、 しかも上の式は誤差が小さいときにのみ成立します。 例として、`sin(x +/- @c{$\sigma$} σ)' の誤差は `@c{$\sigma$\nobreak} σ abs(cos(x))' です。 x がゼロに近づくと、@c{$\cos x$} cos(x) は 1に近づくので、サインの誤差は @c{$\sigma$} σ に近づきます。 ゼロ付近で、@c{$\sin x$} sin(x) は x とほぼ同じなので、 x の誤差とサインの誤差はほぼ同じになるのが判ります。 同様に 90°付近では、@c{$\cos x$} cos(x) がほぼゼロなので、計算値の誤差は小さくなります。 この領域ではサインカーブはほぼ平らなので、 x の誤差は、@c{$\sin x$} sin(x) に大した影響を与えません。 しかし `sin(90 +/- 1000)' だとどうでしょう。 コサイン90°はゼロですから、Calc は誤差ゼロと報告してしまいます! 誤差解析の底流にある、微少誤差の前提を破ったために、 明らかに間違った結果を得てしまいました。 もし x の誤差が小さかったなら、@c{$\sin x$} sin(x) の誤差は本当に無視できました。
普通の数値入力中に誤差型式を入力するには、 p ("plus-or-minus") キーを使って `+/-' 記号を入力します。 (もし実際に `+/-' をタイプしようとしたら、 + キーを + コマンドと解釈されてしまいます。) 代数式の中では、M-p を押して `+/-' 記号を入力するか、 あるいは手動で入力します。
誤差型式と複素数は混在できます。 上に挙げた式は複素数でも使用されます。 もし誤差部分の評価結果が複素数になったら、その絶対値 (各変数の誤差寄与の絶対値の2乗和の平方根)が採用されます。 数学的に、これは複素平面上で等方的なガウス分布に相当します。 しかしながら、実数成分からなる誤差型式については、 Calc はこれを実数を表していると見なし、 実数周辺の複素的分布を考慮しないので注意してください。 (訳注: 誤差型式の誤差部分は常に実数なので見分けられない、ということか。)
誤差型式は時分秒型式とも組合わせることができます。 時分秒型式は、平均と誤差の両方に使うことを推奨します。
代数関数 `sdev(a, b)' は、誤差型式 `a +/- b' をつくります。
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