10.その後
タタル峡谷に現れたのは『ルーク』に違いない。
でもアッシュともルークとも言いきれないあやふやな印象を持った奴だった。
俺を含むみんなも違和感があって、でもただ『ルーク』の帰還が嬉しくて駆け寄った訳だけど。
「ガイ、ひさしぶりだな」
「ああ、…ルークおまえは…」
俺の、ルークだよな?それを聞く前にルークはティアやナタリアに囲まれた。
アッシュと一つになった、とルークは現状を説明した。
一人として、ここで生きて立っている、と。
それがどういうことなのか、他人である俺たちが理解するには多くの時間が要るだろう。
再会の言葉が一通り終わったところで、一旦どこかに落ち着く方がいいって話になって、俺達は峡谷からファブレの屋敷に行く事にした。
ルークがもどったんだ、ファブレ家とキムラスカ王家を素通りできない。
ルークの墓の前には今、大勢の人間が集まっていることだろう。
帰還を世に知らしめるにはあつらえ向きの機会だ。
なかば鎮魂と葬送の儀式でもある式に当人が現れるんだから、卒倒するほど驚く奴がでるに違いない。
笑いを噛み殺しながら俺は前でティアと歩くルークを見た。
歩きだしたときティアが一番近かったからそのままの隊列で進んでいる。
つもる話を俺が切るのも悪いから、わざわざルークの所へは行きはしない。
でもさっき聞きそびれた問いがそのまま不安になってきた。
気になる、彼がどこまでルークなのか。
俺が教えたことどれだけ覚えてる?俺が語った言葉はどこに残ってる?
その瞳を捕えて確かめたくてたまらない。俺を好いてくれた感情は残っているのかと。
ルークが戻ってきたことで『ルーク成人の儀』は列席者そのままで改めて行われた。
俺達が着いたのは夜も更けはじめた頃だったのに、やれめでたいと祝を夜通し行うことにしたらしい。
せっかくの祝いなんだが、主役であるルークと俺が二人きりになることはなく、他人の目のある場であたりさわりなくルークに接しているうちに会場がくだけた雰囲気になってきた。いいことだ。
俺の女性が苦手なタチはまだ直りきっていない。
開場で布を振ってヒラリと動く淑女方を避けるのが億劫になったんだ。
俺はホールを退散して、テラスに行くと手摺にもたれかかった。
凛と冷えた夜風がわずかな酔いを醒ましていく。
ルークは、来そうにないな。
公爵と公爵夫人の間で上流階級の面々との会話をこなしている。
立派に受け答えするようになったよなぁ。
いくら教えても礼儀に則った話し方をするときは自信なさげでとちっりつっかえていたのに。
単純にここまで精進したのなら親代わりとして誇らしかったにちがいない。
けど遠くからみるルークは、誘拐以前の俺に教わらずに礼儀をこなせたルークに見えた。
結局こうなるなら俺が教えたのは何だったんだかな。
俺の方が年上とはいえ四歳しか離れてない子供にいちから教えるのは大変だったんだぞ、ともう一度ルークを見る。
アッシュ…なのか、やっぱり。
俺に近寄るどころか避けられている気がする。
そりゃ気まずいよなぁ仮にもルークと恋人だったし、奴の記憶がどんな具合になったかも知らないけど、中途な位置にいる俺に近寄りたくないのは当然だ。
はあっと俺は息を吐き出した。
俺への感情が残ってないかなかったことにしたかしてる、そんなあいつを見てるのは正直辛いし居心地が悪い。
三年もあった。ふっきるにはいい頃さ。
祝が終わったら用事が残ってるとか言ってすぐマルクトに帰ろう。
待っているのがブウサギのルークや、エサ係という大層な役職でも。
あ、他にマルクトの宮殿で陛下にルーク帰還を告げるという役もあるか。まんざら悪いもでも……。
『なんだ、それでガイラルディアはルークにフラれてすごすご帰ってきたのか!!おい、気落ちするな俺がいい縁談さがしてやるさ』
……陛下がそういって鷹揚に笑うことは簡単に想像がついた。余計落ち込めそうだ。
少し寄り道して帰ろう…。シェリダンあたりにでも。
新しい譜業やアルビオールの改良を見ればちょっとは立ち直れる。
それなら荷をまとめなきゃな。速攻でバチカルを立つんだから部屋に戻って今から足りないものをチェックしとかなくちゃならない。
人はまばらになってきたし、俺も会場からお暇するとしよう。
胸は痛むが、俺の頭は明日からの旅程でいっぱいになった。とりあえず。
俺はすばやく翻るとホールを素通りしてあてがわれていた部屋に戻ろうとした。
ところが、無理に足取り軽く歩こうとしたせいだろうか、入れ違いにテラスにやってきた人間に方をぶつけてしまった。
身のかわしにはちょっとじゃなく自信がある、普段ならこんなことはないのに。
「おっと、失礼…」
詫びながら見ると、俺が言葉を言う前に相手のほうが口を開いた。
「なんだ。ガイ、か…」
なんてことはない。ぶつかったのはルークだった。
しっかし、この言いようときたらほとほとアッシュだな。
「それは俺の台詞だ、いいのかいルークお坊ちゃん。お客様をほったらかして」
いけない、つい口調が辛くなった。コイツのことアッシュっぽいなって思うのは俺から平静さを奪っちまう。
「……ガイだって、俺の客じゃんか」
ルークの首を傾けてうつむく仕草や、その言葉使いが俺の最愛の記憶と重なった。
ぶつかるまでルークだと気がつかなかったほどシェリダンへの旅程や譜業のことばかり考えていたのに。全て吹き飛ぶ。
「なら、もてなしてくれよ。おまえに聞きたいことたくさんあるし…」
話してくれるよな、と言えばルークはゆっくり頷いた。
「じゃあちょっと移動するか」
テラスじゃいつ人が来るかわからない。
といってホールを抜けて戻るんじゃまたその間にルークが余計な人間に捕まりかねない。
どうせ、一階だ。俺は手すりを飛び越えてルークを向くとあげた手を振ってルークを促した。
こっちへ来い、という大きな声を立てられないときの合図だ。覚えているよな、ルーク。
ルークは手すりを乗り越えて俺の目前に着地した。
覚えているんだ。
なら、気持ちは?
はやる心を抑えて庭の奥へと歩を進めるとルークもそれに従って。
会場の照明ははあっという間に届かなくなって遠くでチラチラ揺れる光になった。
続き
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私の中にガイルク的ルーク帰還ネタは四つあって。
・ルーク&アッシュ二人別で帰ってきてちゃんとハッピーエンド。
・中身完全アッシュにルークの影を求めて鬼畜行為なガイ様切なエンド
・下の方続いてやってる女体化もの。
一番正統なつもりなのがこれです。(ガイルクな時点で正統じゃないけど)
ずばり混合率五分五分真ルーク説。
半分アッシュだとやっぱガイルク的に一悶着あると妄想したんです…。
断っとくと2で終わります。
結局一番長くなるのは……下方の続き物…
2006/1/22
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