キミの帰還 6
いくつものガラスを使ったシャンデリアが、水槽で溢れかえる南国の魚の鱗に照りを与えた。
ルークとの約束を律儀に守り、ガイは広間で『ルーク面会事前会議』なるものを催していた。
豪奢なソファに身を投げ出してアニスがガイの話の趣旨をまとめる。
「それってつまりぃ〜、ガイがルークの恋人だったってことは全部伏せちゃうってこと?」
「ああ、あとレプリカとかヴァンのことや、男だったこと全部」
ジェイドが深いため息をつく。
「アクゼリュスの件も、ですか?いただけませんね」
ルークは街を一つ滅ぼした。その張本人がからっと全てを忘れたことに苛立ちを感じているようだ。
「…死んだアクゼリュスの人達に申し訳ないことはわかってる。でも自然に思い出すまでの間だけ、あいつに休暇を与えてやってくれないか?」
世界のために貢献してきてもルークはずっと自分のことを責めていた。
うなされる日も多かったし、子供ができたとわかった時も「こんな大罪人の子供として生きていくのは可哀相だ」といって生むことを諦めようとする時期もあった。
「事実だけ突き出したら、あいつ今度こそ潰れちまう。あの自己嫌悪ぶりは尋常じゃなかったろ?」
子供の目の前で、再度ルークを自己嫌悪の輪に陥らせたくない。
「でもガイ、このままの状態がずっと続いたら?二年以上たつのにルークは思い出していないのよ?話してはいけないことが多すぎるわよ。そんな情報量でルークの記憶を刺激するなんて無理なんじゃないかしら」
「それはやってみないとわからない。ルークの気が和んできたら事態も少しはマシになっていくはずだ。だから今回はその条件でいってくれないか」
一番ルークに全てを伝えたいであろうガイがそう主張するのなら、と一同は再会についた条件を守ることとなった。
昼からみんなを連れて行くから心の準備をするように。と庭の奥へ召使を伝言にやって、ガイは仲間をランチに誘った。
「きゃわ〜これがお昼ご飯!!!ガイラルディア伯爵様〜隠し子付きでもいいから、ルークの記憶戻んなかったらあたしとかどぉ〜?」
「アニス!縁起でもないこというな!だいたい、マリィを隠し子になんてさせるか!!」
「…ちゃんと、認知する気はあるのね?」
淡々と肉を切り分けてティアがそうこぼした。
「…おいおい、ティア…」
「いくらルークに頼まれたからって、いつまでも親子の名乗りを上げないというのはだめよ」
「ははは、ティア。ガイはまだまだ父親としてはレベルが足りないんですから。いじめないであげて下さい」
「…ジェイドに父親を語られたくないねぇ…旦那もそろそろ結婚したらどうだ?」
「どこかのへたれ貴族が認知したくてもできない、という状況を打破できたら考えますよ。当分それで手一杯です」
「へたれ、ですの〜?」
「ええ、実はマルクトの上流階級には好きな女性がいてもここぞというところで押し切れないヘたれが多いんです。ひょっとしたらミュウの半径5メートル以内にもいるかもしれませんよ?」
「……」
へたれがいるですのー、とわめいて回転を繰り返すミュウをながめて、一同はランチを終えた。
粗末な木の扉をノックすると返事が返ってきて、ガイの引き連れたルークの仲間一行は無事ルークに出迎えられた。
赤い髪が日光に当たって燃えるように輝く。
「ご主人様ですのー!!!」
一目散に飛び出していったのはミュウだった。
「あ、おまえ。なんだっけか、えーと」
「ミュウですの〜」
「そう?んーなんか馴染みないなあ」
「ご主人様は、ブタザルとも呼んでくれたですのー!」
ルークが表情を輝かせる。
「おお、おまえかあ。見覚えあるぞ!!マリィ見ろよこれだぜ、ブタザル」
「みゅうう〜」
あっという間にミュウは摘まれてマリィに与えられてしまった。
「………かわいい…、小さい子が小さい生き物で遊んでる……」
感嘆するティアにルークの興味が移る。
「あ…おまえは…」
「ティアよ、覚えていないのでしょうけど」
「ん…なんとなくわかる気もするんだけど。ティアには色々、相談しやすそうだな」
「…ゆっくりでいいから、話したいことがまとまった時は呼んで」
「…うん」
しっとりと再会の余韻に浸るティアを追い越して、アニスがルークに近づいた。
「マジルークだぁ、もうほんとひっさびさじゃん!!」
「そうそう、久々に見たよ」
ルークがアニスの肩を懐かしそうに掴んで、ひっくり返した。
「このヌイグルミ!あー、なんか懐かしい気がしてきた」
「…ちょっとぉヒドくない?あたしのことはっ」
「んー名前がどうも…」
「未来の導師アニスちゃんだよっルークにはたっぷり援助してもらうんだからねっ!」
それきりアニスは後ろを向いてルークの近くから離れた。
「さて、私にはどういう反応を返してもらえるんでしょうか」
ジェイドは立ち位置を動かず眼鏡だけずらしてルークを見る。
射抜かんばかりの強い視線だ。
「……えと…あ…」
ルークは口をパクパク動かした。何か出たことがあるようだが、本能でそれを口に出すのは非常に良くないと悟ったらしい。
「ジェイドと申します。思い出してはいただけないですか、私とあなたの縁は結構ただならないものなのですがね…」
「……ってまさか…」
「ああ、もちろんあなたと深い関係になんかなっていませんよ。そのような相手については聞きたくないとのことでしたが、……実は知りたいんですか?」
「いや、全然!!絶対だめ。みんなわかってくれてるんだろ?」
「……まあ、思い出してくれれば済むのですから我々はそうなるよう善処するだけです」
ため息をついたり渋った顔をしたりではあるが、全員が了解しているということを示したと確認してルークは小屋へ一行を招きいれた。
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すいません、どんどんガイがヘたれてもどかしくなってます…。
2006/1/25
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