キミの帰還 4




   傷の手当に絆創膏とアップルグミをもらって、ガイはルークの勧められるままテーブルについた。
 しばらくして食卓に親子丼が運ばれる。ルークはたまご丼を作るとチキンを加えずにはいられない。その性質に変化はないようだ。
 ルークの好みへの執着を思い出してガイは不安になる。
 偏った食事ばかりしているのではないだろうかと。
 こいつなら魚類を無視しそうだし、安い食材を十分取るより足りなくても高級食材を取りそうだよなあ。
 現に、ルーク作の親子丼はかなり高級品な材料が使用されている。
「おまえのとこ、こんな贅沢してやってけるのか…?」
 ガイと、ルークと、子供の親子丼を盛ってもなお、丼にご飯を盛るルークが答える。
「今日は俺が作ったから豪勢なんだよ、いつもは材料がイケテナイ」
 つまり、いつも他につくる人間がいるということか。
 所帯に入っている妻、という風情のルークにガイは肝を冷やす。
 いくらコブ付きとはいえルークはこんなに可愛らしくて、今や立派に女性なんだから記憶のないままに誰か別の男と所帯を持っていても不思議はない。
 記憶はないし世間知らずなのも変わらないだろう、そんな女が一人、子連れで生きていくには有効な方法だ。
 だが、ルークと所帯を持つ相手と顔を合わせて平静でいられる自信がガイにはなかった。
 恐る恐る探りを入れてみる。
「あー、他にもまだ食べる奴がいるのかい?」
「うん、もうすぐ帰ってくるぜ、ここで庭番をしてるんだ」
「………そうか」
 ガイの心にどす黒い嫉妬が湧き出して広がった。
 こんなすぐ足元で、ルークを手中におさめた奴がいるなんて、何たる不覚。
 でもこの場所はまさにガイの庭。ガイのもの。
 庭番なんてクビにして、たたき出してやる、すぐにでも。
 職を失って養えなくなったらルークと子供を抱えてはいられまい。
 ルークと子供は屋敷に掻っ攫ってやる。
 いや、その程度でガイの気持ちが晴れればもうけものだ、噴出する瘴気のような怒りは鎮まる気配がない。
 いっそ切り殺してやろうか。もみ消すことなんて容易い。
「…………」
 不気味に沈黙するガイへの接し方に戸惑って、ルークは聞きそびれていたな、と話題を切り出す。
「あのさ、おまえは俺を知ってるよな、でも俺、おまえの名前も知らないんだけど」
 会話をつなごうとルークが必死で繰り出した問いは最悪だった。
 俺は今、名前さえ知られていない人間なんだ。とガイの心をより一層黒く、底冷えさせる。
「ああ、俺ね。俺はガイラルディア・ガラン・ガルディオス」
 だから、ここは全部自分の自由になる、してやるとも。自然とつりあがる口元はガイの笑顔を酷薄にした。
「そっか、ガイラルディアっていうのか。でも別にピンとこないなあ…。まいっか、よろしくなガイラルディア!」
 ガイラルディア、とルークに呼ばれたことはない。それは復讐者の名前でもあったから。
 違和感がガイの心に突き刺さり、思考を引き戻す。
 俺は、なんて恐ろしいことを。
 頭を振って心に巣食った憎悪を隔離した。
 ルークまで自分の自由にできると思い上がるなんて、なんて横暴な考えだろうか。
 ルークにとってのガイとは対等、あるいは下の立場であるべきなのだ。そう約束したのだから。
「いや、ルーク…俺はっ…」
 ガイラルディアではなく、ガイと呼べと。訂正のためにガイは声をかけようとしたが、同時に扉が開いて人が入ってきた。

「じーさん、ばーさん!おかえり。ちょっと早いな」
「今日はルークの離れでご飯の日だからねえ、…おや。こちらさんは?」
 やってきたのは人のよさそうな老夫婦だった。
 なんだ、夫とかじゃなかったのか。
 ほっとしたガイは老夫婦に対しさわやかに微笑んで会釈した。ガイから名乗る前に、ルークが紹介を始める。
「こいつはガイラルディア。ガイラルディア・ガラン・ガルディオスって言うんだって、さっき急にここにきてさ…」
 ルークは料理をガイに出して先に食事を始めた事を詫びたが、謝罪が老夫婦には届いていない、彼らはただ真っ青に震えていた。
「だ、旦那様じゃないですかい!ああ、ついにお叱りを受ける日が来ちまったねぇ」
「……じーさん、なんの話?」
「ルーク、この庭はこの方の土地なんじゃよ。旦那様は普段居られないし、小屋はあまってるし、わしらの給金も十分にあったから主事長に話は通したけれど、今まで旦那様には無断でルークを置かせてもらっていたんじゃ」
 長い間ガイはガルディオス邸の人事件を適当にしていた。
 だから、庭番手伝いが一人くらい増えてもいいと老夫婦はルークを匿っていて、  それが今回発覚し、叱りにきたと老夫婦は勘違いしているらしい。
「あの、俺はルークを追い出しにきたんじゃありませんから」
 ルークを粗末に扱うわけがないからご安心を、と説得すると。老夫婦はようやく一息して椅子についた。
「ありがとうございます旦那様。いえ、この子もとっても可哀想な身の上でして。
妊娠した挙句に相手の男に捨てられて、殺されかけて海に放られてしまったようで。
辛かっただろうに、その上生き延びたかと思ったらショックで名前以外とんと忘れたらしく。
旦那様のお許しが出て本当に良かったですよ」
 胸を撫で下ろす老紳士からルークの『哀れな境遇』を聞かされて、ガイはカップを取り落としかけた。
 なんだよ!ソレっ!!!!
「相手の男は並でない人でなしに違いないよ。見つけたらわたしゃ首根っこ掴んで懲らしめてやるんだから」
「…………」 
 是非ともご勘弁願いたい。それはあきらかな濡れ衣だ。ガイは戦慄を感じながらルークを見る。
「ルーク、お前もそう思ってんの…?」
 『子供まで作った仲の男』が自分を捨てた人でなしと思ってる…?
 違うよなと、すがるような思いでガイがルークを見てもルークはうーんと唸るだけだった。
「うん、そーかも」
 そりゃないだろルーク!!
 すぐに説明しきれない色々な事情があるけれど、自分は決してルークを捨てたりなんてしないのに。
 そこはちゃんと言っておかなければ、ガイがルークへ身を乗り出そうとしたらルークは明るく笑って続けた。
「でもかえって俺を捨てた鬼畜のがいいんだよ。だってほら下手に会う心配ねぇし?」
「え……?」
「俺が全っ然覚えてねぇのに会って感情ぶつけられても困るしなー、そういうのマジ引く、無理!!!」
 ルークの言葉でガイはすっかり意気消沈してしまった。
 覚えていないルークには、ローレライ解放後ずっと想ってきたガイの気持ちは受け止めきれないのだ。
「……………」
 沈黙するガイにルークはまずいことをしたと悟ったらしい、慌ててガイへ寄る。
「そっか、ガイラルディアは俺のこと知ってんだよなっ!ひょっとして…」
「ああ、俺が…」
「俺の相手と知り合いとか?でも頼む!そいつには俺のこと絶対秘密にしといてくれ!!!!」
 やっとちゃんと自分の説明ができると思ったガイの言葉はルークの必死の願いにさえぎられてしまった。
 秘密も何も当人なんだよっ!!
 叫ばずにはいられなかったガイだが口をルークに押さえられた。
「聞ーきーたくねぇ――!!」
 話そうとしても声はくぐもって音にならない。
「いい奴だ、とか悪い奴だ、とか俺が実感ねぇのに聞かされたくねえ!!
だから俺の相手の話もゼッテーするな!そのうち思い出したら俺が解決すっから、な?」
 必死に懇願する緑の瞳。 
 ああ、自分はなんてこれに弱いんだか。徹底的に逆らえないようになっている。
 ガイはついルークの要求を呑んで首を縦に振ってしまった。



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続き ---------------------------

なんかガイ様すごく悲惨です。
鬼畜なガイ様もかなり好みなんですが
私的にゲームの画面中で
・華麗に登場後ティアに震える。
・シンクに当たられて地面に這いつくばる。
・領事館でカースロットを感じてうずくまる。
・初アルビオール登場前、必死でドアを押さえる。
・剣イベントでルークに跪く。
以上のガイに激しく萌えたので
楽しくかくとこんな傾向に
あ、むしろ鬼畜は私か…

2006/1/23
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