05.仇の息子







ガイルク話なんですが最初の方ヴァンガイぽいとこがあります。
今更気にしない
全然構わない、むしろ来いっ
そういう方だけ下へどうぞ










 仇である人間の屋敷にもぐりこんで、もう十を超える季節が巡った。
 子守は使用人に代わり、それまでの使う側としての生活よりも使われる側としての生活のほうが長くなってしまった。
 金髪をかきあげながら、ガイは自室から廊下へと出る。
 今日は来客がある。ヴァンが軟禁されたルークに剣の指南にやってくる日。
 本当の目的は剣の指南などではないのだろうが。
 ファブレ公爵の動向を監視すること、隙あらば知らせること、ガイがヴァンと故郷の復讐を誓った時に課せられた役目だ。
 ルークの使用人をやってファブレ公爵の動向を探るには無理があるから、彼の役目は主にルークの動向を監視することになったが。
 中庭に出ればルークとヴァンはすでに稽古の準備をしている。
 ガイはルークを見守るという名目で、中庭のベンチに腰掛けた。
 ルークが稽古に夢中になった時に、あらかじめ決めていたサインをヴァンに出して報告をすます。
 それが、定時連絡のやり方だ。
 稽古が始まる、と思えばヴァンが声をかけてくる。
「ガイ、稽古用の人形の足が壊れている。替えを持ってきてはくれまいか」
 おや、とガイは思った。人形に別段悪いところは見当たらない。
 席をはずせ、ということなのだろうか。今までになかったことだ。
 しかし逡巡を微塵も感じさせず、ガイは人形を担いで倉庫へと運びにいった。

「元気そうだな、ガイ」
 倉庫で新しい稽古人形の調整をしているとヴァンが現れた。 
 タイミングからしてガイを追い払って程なく来たことになる。
「なんで来たんだ。ルークを待たせていいのか?」
 いくらヴァンが神託の盾の主席総長でルークの師でも、屋敷内を自由に動けはしない。
 屋敷中を見回る護衛がヴァンを見張っている。ルークを放って、こんなところで自分と接触しているところを見られるのはマズい。
「ルークは、例の頭痛がひどくなって寝込んでいる。…そういうことで部屋に引きこもってもらった」
 ルークは本当にヴァンによくなついている、その彼だからヴァンの頼みならよく聞くだろう。しかし。
「あいつはあんたとの稽古をそれは楽しみにしてるんだ。そう簡単に休んでくれるとは思えない。そんなにまでしてここに来る必要があるのか?」
 ガイの指摘にヴァンはくぐもった笑いを見せる。
「貴公も、大分鋭くなったものだな」
「なら、いよいよ…」
 秘めていた企みを実行に移すのだろうか、その中でガイが果たす役割を伝えに、ルークをうまく離してここで自分と二人になる機会を得たと。
「残念ながら、まだ実行に移すことはない」
 それを聞いて落ち込んだというよりはほっとした感情のほうが多かった。
 ガイの賭けはまだ決着していない。今、自分の立ち位置を決めることは少しだけ、困難なことだ。
「あまり、残念そうではないな」
「それは…」
 わかっている、とヴァンは視線をガイへと流した。
「貴公とルークは、まるでかつての我々のようだ。貴公がルークに愛着を持つ気持ち、わからんでもない」
「ヴァン…」
「それでこそ、私からの祝いも気に入ってもらえることだろう」
「祝い…?」
 その言葉が気になった。ヴァンが自分に物を贈ることは表向きできない。
 一体何の祝いに何を贈るのか。
「そう不思議そうな顔をするな、貴公は先日、十八になっただろう?ホドでは成人に近い扱いを受ける区切りの一つだった」
「そうか、でも…」
 ガイの問いに付き合うきはないらしく、ヴァンは倉庫の出口へと向かい始めた。
「今夜、皆が寝静まったら改めて中庭に来なさい」
「待てよ!そんな時間でもあんたと二人で会うって事は……」
 このつながりが発覚する危険は少しでも減らさなければ。
「安心しろ、公爵夫妻の旅行に兵は出払っている。外からの進入を厳重に防ぐが中までは手が回らん、屋敷の奥に当たるルークの寝室付近などは特にな」
「でも」
 露見したときに失うものは大きい。十年かけて欺き得た信頼や、便利な立場や、無垢な心根が可愛らしい主…。
「この屋敷を追い出されると未練が残るのか?心配要らない。私に任せろ」
 ガイはこれ以上この屋敷や、特にルークに未練がある所をヴァンに見せたくなかった。
 だから、ヴァンの言葉に従うことにする。
「わかりました。では今夜」
 ガイの返事を確認するとヴァンは悠々と倉庫を立ち去った。
 

「ヴァン謡将、いますか?」
 夜、薄い壁の隣から音が聞こえなくなったのを見計らって、ガイは中庭へと出てきた。
 万一聞きとがめられた時を考えて、人前での呼び方でヴァンを呼ぶ。
「おお、ガイ。よく来てくれた。さあ、こちらへ」
 手招きされて、壁際の隅に寄る。ここならそう目立ちはしない。
 ふと、ルークの部屋から全く光が漏れていないことに気づいた。
 普段、寝るときでも枕もとのランプだけはつけているはずだ。
 いぶかしんでいるとガイの腕がヴァンに引かれた。
 壁を背負ったガイの頭の横にヴァンの手がどんと音をたててつけられる。
「ガイ、実は今日、貴公に与える祝いは物ではない」
「…なら…」
 それなら何なのか。とガイが問いかけようとした時、ヴァンの片手が思いも寄らぬところに触れてきた。
「何処触ってっ…」
「使える側の身とあっては羽を伸ばすことも困難でしょう。御労しいですな、ガイラルディア様」
 ここで暮らす間は出してはならない名前で呼ばれる。
「…っその、名前で呼ぶな…」
 羞恥と異質な感覚で戸惑いながらもガイはしっかり釘を刺した。
 しかし構いもせず、なおもヴァンの手は蠢く。
「…っ」
 かつて兄貴分だった人間とはいえこれ以上の侮辱は許せない。
「…ヴァン、やめろ」
 かつて、命を下していた頃の口調で声をかけるとヴァンの動きはすぐさま止まった。
「これで、よろしいですかな?」
 手は放しても壁際にガイを追い詰めた体勢は外さない。
「これが祝いだとでも言うのか、ヴァン」
 月を背景にヴァンは不敵に笑う。
「その一環とお取り願いましょうか、ガイラルディア様」
「だから、その名前で呼ぶな!そんな祝いなら俺は降りる」
 この場を去るため、無理にでもヴァンの体を押しのけようとしたが、ガイの細身な体ではヴァンはびくともしなかった。
「高貴な男児は成人する際、添い臥しを置き、一夜を共にする。それが古くからの慣わしでした。このような境遇に置かれていても貴公にもその義務が…」
「降りるって言っているだろう!!あとその敬語もよせ、普段通りでいい。知ってるだろ俺は女性に近づけもしないんだ」
「だからこそ、私が今夜ここに居る」
 敬語をやめたヴァンは淡々と言った。こういう時の彼は絶対に引きはしない。長い付き合いでガイはそのことをよく知っていた。
 こうなったら剣を抜くことになっても自分の部屋へ戻る、と決心してガイはヴァンを睨み付ける。
「俺はヴァンにどうこうされるなんてまっぴら御免だからな!」
「もちろん。私が貴公にやれというのは男としての努めなのだ。今夜の私の役目は指南とお膳立て」
「どちらも必要ない、俺は」
 ガイの言葉を最後まで待たずに、ヴァンは指差した。
 その先はルークの私室。
「女性恐怖症の件は承知している。しかし、あれなら問題あるまい。何、貴公を女性恐怖症にした責任を本人に代わって息子にとって貰うだけのこと」
「馬鹿馬鹿しい、俺はしきたりなんてどうでもいいんだから…おい、放せ」
 唐突にガイの首はヴァンに押さえられ、開かれた口から奥へ何かの粉末を流し込まれた。
 ようやくヴァンから開放されたが、喉奥が粉っぽく、むせ返って膝をつく。
涙目でヴァンを睨もうとしたらヴァンに襟首を掴まれた。
扉を開く音がして室内へと放りこまれる。
 ルークの部屋だ。
「おいヴァン、いい加減に…」
 ドアノブを回しても扉はびくともしない。
「指南のほうが途中だが仕方あるまい。先ほど私がした要領を思い出せ」
「いいから、ここを開けろ!!」
「貴公は『それ』にただならぬ愛着をお持ちになっている。媚薬入りの体で一晩過ごせば目的は達せられましょう。後武運を」
「媚…っ」
 先ほど飲まされた粉末か。
 思惑通りにいってたまるものか、ガイはしばらく出口を叩き続けたが厳重なだけあって扉は硬く、頑丈で開くことも破ることも無理そうだ。
 ならば窓から。
 振り返って窓に向かおうとすると、部屋の中央に置かれたベッドが嫌でも目に入る。
 そこにはあどけない顔で眠るルークの姿があった。
 寝巻きではなく稽古のときに着ていた服のままだ。
 昼からずっとヴァンに眠らされていたのだろうか。
 巻き込んじまって悪いな、ルーク。
 心の中で詫びながら、ガイは窓を目指してベッドの横を通り過ぎた。
 しかし窓に手が届くことはなかった。
 裾が何かにひっかかって前に進めない。
 散らかりすぎだぞ。とルークに毒づいて後ろを向くと、ベッドから伸ばされた手がガイの服の裾をしっかり握っていた。
「ルーク!!これには理由があってだな、今はまずい。後で説明する、窓から出たいんだ離してくれ!」
 一気にまくし立ててガイは裾を掴むルークの指を丁寧に解いた。
 薬が効いてきたのか体が内側から熱い。急いでここから出なければ。
 ルークの手から裾を取り返して、ガイはようやく念願の出口へと向かえるようになった。
「じゃあな、ルーク」
 ガイはキョトンと見つめてくるルークを残して窓辺に足をかけようとした。
 しかしそれより早くルークがガイめがけて倒れこんできた。
「ちょっ、ルーク!!」
 気絶したわけではない、少し虚ろにガイを見つめている。倒れたというより全身の力を預けた状態、らしい。
「おーいルーク、寝ぼけてんのか?」
 いい加減に退散しないと洒落にならないことになる。
 ガイがルークの身を引き剥がそうと肩に手をやると、ルークは手を上げてガイの手にそっと添わせた。
 これはなんだか尋常じゃない。
 ガイはしっかりとルークの顔を覗き込んでみた。
 寝ぼけてるというか半覚醒というか、本人も意識をまとめることが困難らしい。
 さっきから何度も頭をふったり目をこすったりしている。
「ヴァンの奴、おまえにもなにか仕掛けたのか…」
 用意周到な彼ならば、ルークをただ眠らせるだけで済ますとは思えない。
「師匠…」
 思いがけずルークが反応を見せた。ガイは心底ルークの部屋から立ち去りたくなっていたけれど、ルークの状態を確認しなくてはならない。
「何された?ヴァン謡将は何か言ってたか?」
「…師匠、いい夢を見れるようにしてやるって。朝になったらほとんど覚えていられないけど、俺の好きな夢が見れるからガイと一緒にいろって…」
 言い終わるとルークはガイの肩にもたれていた頭を動かして、ガイの胸に転がり込んできた。
「ルーク!!しっかりしろ。ほら、自分で立ってベッドまで行け。そんでそのまま寝ちまえ」
 ガイはルークから離れようとルークの肩を押し出す、ところがルークはガイの背に腕を  伸ばし、組んだまま離さなかった。



続き ---------------------------


酔った勢いで書いちゃったよ話。
ホドのしきたりは大捏造。
妄想爆発…何だよ添い臥して…。
長くなったから切りました。
続きは近々。

2006/1/5
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