デジタル邪馬台国

1.神獣鏡の図像学 (2) 唐草文帯

この鏡作神社の鏡と同型の唐草文帯の鏡が、愛知県犬山市の東之宮古墳から出土しています。外区の無いこの鏡作神社の鏡の周囲にも、同様の唐草文帯がめぐっていたことが想像されます。

鏡作神社鏡と東之宮古墳出土三角縁三神二獣鏡

ここであらためて唐草文に注目してみましょう。内区を取り巻くこの「帯」と呼ばれる区画には、「銘帯」、「獣帯」、「唐草文帯」という種類があります。「銘帯」には鏡の効能が記入されたり、「獣帯」では、神獣の図像が描かれたりします。つまりこの区画は、制作者にとって大きな意味のある区画だったと考えられます。にもかかわらず、「唐草文帯」の意味が問われることは、あまり無かったように思われます。「唐草文帯」とはいったい何なのでしょうか?

ところで、9個の乳を均等に配置するのは、けっしてたやすくありません。事実この鏡の様式を継承したと考えられる鏡群では、乳は10の倍数になっています。難易度の高いものをあえて造型しているわけですから、この9個の乳には意味があると考えられます。

東之宮古墳
9個
東車塚古墳 紫金山古墳 泉屋博古館 福島大塚山古墳
10個 20個

三角縁唐草文帯三神二獣鏡の乳の数

帛画には、9個の太陽とそれを捕らえている樹木が描かれています。曽布川寛氏は、これを「10個の太陽と扶桑の伝説」に基づいていると説明されています。「10個の太陽と扶桑の伝説」とは、太陽は10個存在し、見えない9個は扶桑の木の下枝に居り、残る1個が天空を運行すると考えられていたようです。神獣鏡の9個の乳と唐草文帯-それは、馬王堆1号墓の帛画に見える9個の太陽と扶桑の図像を継承しているのではないでしょうか。それが、三角縁神獣鏡に見られる「唐草文帯」のもともとの存在理由だったのではないでしょうか。

内区のみ:奈良県田原本町鏡作神社蔵鏡
全体:愛知県犬山市東之宮古墳出土鏡
(京都国立博物館蔵)

そういう目で神獣鏡を見直すと、獣も、騎乗用の馬具をつけているようであり、帛画中央の獣人のまたがる獣との共通点が見出されます。この三神二獣鏡のデザインを構成する要素は、馬王堆1号墓出土の帛画に見られるということができます。帛画とこの三神二獣鏡の年代差は400年はあると考えられますが、帛画の図像の様式を継承しているように思えます。

この鏡作神社の神獣鏡の図像は、中国本土の漢代の神仙思想の図像と多くの共通点を持ちます。そこでは崑崙山の神仙世界が、一般的な三角縁神獣鏡よりいっそう忠実に描かれている、ということができます。


(*1)小林行雄 「三角縁神獣鏡」 (『古墳文化論考』所収) 平凡社 1976年
(*2)曽布川寛『崑崙山への昇仙』p100 中央公論社 1981年

1.神獣鏡の図像学 (2) 唐草文帯

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