かがくののおと 16


物質の状態と変化

  1. 分子(粒子) 1個

     ここまでの講義で扱ってきた分子は,基本的には,気体である.つまり,分子が 1 個しかない,理想的な状態である.液体や固体に話しを進めるためには,集団としての扱いを取り入れなければならない.ここでは,特に断らない限り,集団を構成する分子は,同じ挙動をすると考える.ただし,分子が 1 個しかない場合や,分子がすべて同じ挙動をとると,温度という概念はなくなってしまうので注意すること.(集団の挙動についての,より正しい取り扱いは,もう少し先におこなう)

    表 3つの相の比較     
    体積その他
    気体容器に依存ない限りなく自由に膨張する 
    液体あるない相互の位置は一定でない 
    固体あるある結晶 非結晶 過冷却液体

     ガラスは固体であるか.実は,液体の性質を残した,固体である.
     臨界点における,水は,液体と気体の区別ができない.
     つまり,すべての物質を,単純に3つの相に分類することはできない.あくまでも目安である.
     ゼリーは,個体であるか.

     

  2. 分子間力

     自由に飛びまわり,運動している分子が,エネルギーを失っていくと,どうなるか.分子と分子の間に何らかの力がなければ,やはり気体のままである.しかし,実際の分子と分子の間には力が働く.この結果,気体は,液体もしくは,固体となる.分子と分子の間に働く力は,分子間力もしくは,ファン デア ワールス力という.永久的な双極子モーメントによる力と瞬間的な双極子モーメントによる力による.いずれも,静電気力である.

  3. 気体

     気体を扱う式として,理想気体の状態方程式がある.理想気体の状態方程式は,エネルギーについての方程式であることに注意すること.すなわち,気体の体積と圧力の積は,エネルギーの次元を持っている.

        p V = n R T

     p は,圧力(N/m2),V は,体積(m3), n は,モル数(mol ), R は,気体定数(8.315 J / K mol) , Tは,温度 (K).理想気体とは,気体分子に大きさがなく,分子間力もない,粒子の集団である.

     実在気体にあわせる式として,ファン デア ワールスの式がある.

       (p - an2/V2 )( V - bn) = n R T

     aは,気体分子同士の引力による補正項bは,気体分子自身の体積による補正項である.

     より実際の挙動にあわせるため,実験値を基にした式が各種ある.

  4. 液体

     水蒸気を冷却していくと,液体の水になる.これは,凝縮である.(結露という場合もある.) この反対は,蒸発である.沸点は,液体の蒸気圧が,大気圧に等しくなる温度である.沸点は,気圧が下がると,低くなる.山の上では,水は,100℃以下で沸騰する.(沸点と温度の関係は,後期に扱う)

     気液平衡状態では,蒸発により液相から気相に飛び出していく分子と,気相から液相に飛び込んでくる分子の数が等しくなっている.

     固相も含めて,気相-液相-固相で,平衡状態にある場合を,3重点とよぶ.

  5. 固体

     我々の生活している状態,1気圧で,ある種の気体は,冷却していくと,気体から,固体になる物質がある.これも,凝縮という.この物質は,加熱により,気化する.この変化は,昇華である.

     気体を冷却すると,分子間力により,液体か固体になる.この違いは,流動性があるか,ないかである.また,固体になる場合は,たいてい,分子の並び方に規則性がある.

     水は,特異的な物質である.
     水が規則的に配列した場合は,氷である.氷は,水が水素結合で,規則的に配列した状態である.液体の水でも,水素結合によって,水分子相互に結びつきがあるが,お互いの位置関係は,変わることができ,したがって,流動性がある.
     固体の水は,水素結合をもとに配列してしまうが,分子の隙間が液体よりも大きくなくなる.このため,水は固体になることで,液体よりも体積が増加する.このような特異性のおかげで,われわれは,スキーやスケートを楽しむことができるのである.

  6. 結晶

     分子(粒子)が規則的に配列した場合を,結晶と呼び,そうでない場合は,非結晶と呼ぶ.その両方が含まれる場合もある.

     1つの結晶からなる場合は,単結晶.多数の結晶から構成される場合は,多結晶.我々が目にする,ダイヤモンドやルビー,サファイアなどの宝石は,単結晶である.一般に,多結晶は,不透明である.一方,非結晶は,ガラスがそうであるように,透明である.

    結晶には,

      
     
      図 16.6 シリコンの結晶(ウエファー) 図 16.7 NaCl の単結晶
     

     


  7.   
     
      図 16.5 アイスコーヒーの中にもドラマがある.(大げさやけど.) アイスコーヒーは,1つの固相と2つの液相で構成されている.

    混合物

     ここでは,複数の成分からなる系を扱う.また,複数の相も出現する.(こういった系を扱う場合,相律が役に立つ.)

     

  8. 相 phase

     相とは,物理的化学的に同じ性質をもつ,均質な物質の領域である.と書けば,なんだかややこしい.氷の浮かんだ,アイスミルク(ミルクの入ったアイスコーヒーでもよい)でみれば,氷は,固相であり,牛乳は,液相である.ただし,牛乳は,白い液体であるが,小さな油の粒子が水の中に分散している,水と油の相に分かれる.液相は,2つの相に分かれている.水の相には,糖分やタンパク質が溶解しているので,水溶液である.液相は,純物質とは限らない.

     物質の分離や精製は,相の違いや性質をうまく利用することにより行われる.濾過,抽出,蒸留,再結晶などは,実験室で頻繁に行われている.

    今回は,複数の相が存在している系を扱う.
  9. 固体と液体の相

     2つの物質の混合物において,観察される固体と液体の間での相変化を示す状態図(相図)のもっとも簡単な場合を,図16.6に示す.

      
    図 16.6 共晶系の相状態図
  10. 液体と液体の相

      
    図 16.7 2種類のドレッシング.左は,セパレートドレッシング,右は,フレンチドレッシング.両方とも,2つの液相が存在する.
  11. 気液平衡

     水の入ったコップでは,ミクロに見ると,どんなことが起きているのか.液体の水分子が飛び出し,空気中に存在する,気体の水分子が飛び込んで来る.気液平衡状態では,同じ時間内に,飛び出す水分子の数と,飛び込む水分子の数が一致する.これは,雨の日のように,湿度100%の時に相当する.こんな日には,洗濯物は,乾かない.

      
     
      図 16.1 液体分子と気体分子の入れ替わり 図 16.2 湿度が下がると,蒸発する分子の方が優勢になる.

     ある温度で,ある物質の液相と気相が,釣り合っているとき,気液平衡状態にある.このときの,その物質について,気相の圧力を蒸気圧という.

  12. 溶液の場合

     高沸点物質が解けている,溶液の場合は,どうなるであろうか.

      
     
      図 16.3 蒸発しない分子が溶けている溶液 図 16.4 市販の乾燥剤.中身は,塩化カルシュウム

     気液平衡が成り立っているとき,ミクロ的には,飛び出す水分子と飛び込んでくる水分子の数は等しい.液相の水に,蒸発しにくい成分が加わると,その量に応じて,飛び出す水分子の数が減少する.減少する割合は,表面に現れる分子の比に依存する.すなわち,モル分率に比例する.

  13. 確率的問題

     2種類の物質が混じり合う溶液の性質は,多くの場合,確率的問題として扱える.溶液中の分子が,液体から気体へと飛び出すとき,2種類の物質のうち,いずれの分子が飛び出すかは,確率的問題である.すなわち,表面に存在する分子の数の比率で決まる.分子の数の比率は,溶液中のそれぞれの分子のモル濃度の比に,当然,等しい.この比のことを,モル分率という.

     液体Aが第二成分を含まないときに示す蒸気圧を p0 とすると,第二成分の含むときの,液体Aの蒸気圧 p は,ラウルトの式で示される.

           

     実際の溶液は,物質の組み合わせによっては,ラウルトの式から多少はずれる.

    物質が何であるかに関係なく議論できる性質を,束一的性質という.


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Last updated, Feb. 7, 2009