かがくののおと 12
構造の調べ方
刺激と応答
何か物を見るためには,照明がなければ,我々の目には見えない.箱とボールに照明を当てると,形の違いによって,我々に届く光は異なった情報をもって,我々の目に入り,箱とボールを識別する事ができる.コウモリは,夜の光のない世界でも,自由に空を飛んでいる.コウモリは,前方に音波を出し,前方からの反射音を聞き分けて,障害物や餌を識別しているのは,良く知られている.何かを観測しようとすれば,何らかの刺激を与え,その応答をみることになる.
分子の世界の情報を得ようとするとき,光は極めて重要である.それは,物質と光は,様々な相互作用を起こすからである.
分子に光りを当てたとき,何も相互作用がなければ,最初の光のまま通過する.相互作用は,光のエネルギーを吸収することである.光を吸収するためには,そのエネルギーに対応したエネルギーの仕組みが,分子になければならない.
電子エネルギー ~10 -18 J (~6x10 2 kJ / mol )
振動エネルギー ~10 -20 J (~6x10 0 kJ / mol )
回転エネルギー ~10 -23 J (~6x10 -3 kJ / mol )
並進エネルギー ~10 -35 J (~6x10 -15 kJ / mol )
紫外可視領域の吸収
電子遷移
図 分子の電子遷移.分子の電子遷移は,分子の電子準位に振動準位が(場合によっては,回転準位も) 加わったものとなる.そのため,吸収スペクトルは,幅の広い吸収となり,原子スペクトルのような線スペクトルとはならない.
図 β-カロテンの吸収スペクトル
表 t-ポリエンの吸収波長 (π - π* 遷移)
n | 波長 λ ( nm) | エネルギー ( kJ / mol) |
1 | 174 | 690 |
2 | 227 | 529 |
3 | 275 | 437 |
4 | 310 | 387 |
5 | 342 | 351 |
6 | 380 | 316 |
p 軌道の数が増えると,結合性軌道と反結合性軌道の数が増え,エネルギー準位の数も増える.n の数が増えるに従って,電子が満たされている軌道と空の軌道のエネルギー差が減少する.すなわち,吸収波長が長くなる.
紫外可視領域の吸収の吸収は,光源の光を 回折格子により単色光にして,波長を変化させながら,試料に照射し,入射光と透過光の光の強度の比を測定する.
液体試料に用いられる試料セルを図に示す.入射光と透過光の比の対数を吸光度という.吸光度と試料濃度の関係は, ランバート-ベールの法則で示される.
A = ε L c ( A = log I0 /I )
A は吸光度,εは,吸光係数, L は,光路長, cは,濃度である.分光光度計には,吸光度が表示される.吸光度は,濃度に比例しているということが,ランバート-ベールの式の重要な点である.
図 測定用試料セル. 光路長 1 cm の石英製セルを,溶液の吸収を測定するときに通常用いる.
関連ページ 化学実験 分光光度計の実験
赤外吸収法
図 分子の振動モードの例.分子の振動モードには様々な種類があり,それぞれ特徴的な吸収を,赤外領域に示す.そのため,分子の構造を知るのに役立つ.
関連ページ 化学実験 赤外吸収法の実験
ICP発光分析 (原子スペクトル)
アルゴンプラズマ炎中で,原子を発光させ,元素の原子スペクトルを測定する方法を,ICP発光分析法と呼ぶ.同時に多数の元素の微量分析ができることから,現在,金属元素分析の主流の方法である.発光強度は,試料の濃度に比例する.
x線の発生
金属(ターゲット)に加速した電子(イオン化エネルギー以上のエネルギー)をあてると,内殻の電子は,原子の束縛を離れ飛んでいく.電子の空きができた,内殻の軌道は,すぐさま上位のエネルギー準位の電子が移ってくる.しかし,通常の電子遷移に伴う発光とは異なり,エネルギーが極めて大きい光,X 線が出てくる.このX 線のエネルギーは,電子のエネルギー準位間の差であるので,極めて波長の幅が狭く,元素によって固有の値である.そのため,こうして発光されるX 線を特性x線とよぶ.
加速した電子によりX 線を発光されるランプを,X 線発生管とよぶ.X 線発生管の効率はあまり良くないので,熱伝導がいいか,耐熱性の高い金属がターゲットに用いられる.銅をターゲットに用いた場合,X 線の波長は,0.1542 nm であり,モリブデンを用いた場合には,波長は,0.0711 nm である.いずれも,電子が,第2周期から,第1周期の軌道に遷移することに伴って発光するので,Kαと呼んで識別される.
光電子効果
光のエネルギーのすべてが,電子に与えられる効果.X 線 のように,高エネルギー光の場合には,電子が原子の軌道を飛び出す.
蛍光X 線
高エネルギー光によって,電子が飛び出した後,空の軌道に,上位の軌道から電子が遷移し,X 線を発光する.
x線回折法
格子間隔を d として,入射角をθ としたら,
2 d sinθ = n λ
x線光電子分光 (ESCA)
固体に,x線を照射したとき,光電子効果で飛び出してくる,2次電子を測定するのが,x線光電子分光法である.2次電子は,原子のエネルギー準位に依存した運動エネルギーを持つが,原子が結合してる状況によって,エネルギーが変化する.この変化量から,原子の化学結合の様子がわかる.
NMR
質量数が奇数である,原子核はスピンを持っている.原子核は電荷をもつので,原子核がスピンを持つと,磁気モーメントを生じる.核が磁場の中に置かれると,スピンの向きによって,エネルギー準位に差が生じる.これを,ゼーマン効果という.このような性質を示す原子として,1H ,13C などが,化学分析で利用される.物質を磁場におき,電磁波を照射して,電磁波の応答を測定する.有機物の構造解析の主流の分析方法である.
ESR
参考書 R.M. Silverstein, el.al., ( 著),荒木 峻ら,(訳),有機化合物のスペクトルによる同定法,東京化学同人,1992.
関連ページ 近畿大学共同利用センター
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