非情なり監督采配


先日のラグビー日本選手権、1回戦社会人チームの圧勝におわった。
アタック、ディフェンスともこれだけ科学され、研究されていたら、学生の若さだけでは、最早
社会人の相手ではなくなった。
私が、大学生の頃はまだ、学生が健闘したし、優勝することもあった。(たまに)

春、ある程度基礎練習が終わり、夏のオフに向かう2ヵ月間程、練習の合間にゲームをする。
関東の学生が遠征してきて、ゲームする場合もあったが、1度は、同リーグの大学とゲームをした。
また、関西にある企業チームとも練習ゲームをすることもあった。その日は社会人チームとの
春のオープン戦最後のゲームだった。
私は、まだ1年生で数ヵ月前までは高校生だった私にとって、社会人チームは、雲の上のチーム
だったし、案の定、大学にやってきた、関西社会人Aリーグのそのチームは、「おっさん」だった。

ゲームが始まり、その荒っぽさに私はびっくりした。ラフープレーと言っても良いくらいだった。
社会人は、「学生になんか負けてたまるか、なめられてたまるか」と闘志剥出しだった。
「学生もエキサイトし、不穏な雰囲気の中ゲームは、終了に近付いてきた。
その時、学生の一人が倒れた。キャプテンだっだ。
起き上がれない、キャプテンは物静かな人だったが気丈な性格で、起き上がれないという事は
かなりの怪我であることは想像できた。
救急車が呼ばれ、病院に運ばれた、診断は「アキレス腱断れつ」だった。
キャプテンのポジションは、プロップでスクラムの最前列で組む人だった。
スクラムも強く、走力もあったので、100人部員がいたが、レギュラーから外せない人だった。
早速、3年生のWさんが、代役になった。
キャプテンと比べるとスクラムにひ弱さがあったし、総合力でもかなり劣った。(あたりまえだが)
3年生のWさんは、自分でも認識しており、その穴を少しでも埋めるべく、練習した。
他大学とのスクラム練習、社会人とのスクラム練習と進んで、スクラムを組んだ。
スクラムが、相手チームに押されると、セットプレーが安定せず、かなり不利な試合展開になる。
キャプテンは、秋のリーグ戦に間に合いそうにないので、Wさんは必死だった。
夏合宿も、キャプテンは参加したが、ほとんどリハビリメニューで、練習らしい、練習はしなかった。

秋のリーグ戦の前に、監督が所属していた社会人チームで、日本一になったこともあるチームに
スクラムの胸を借りにいった。
Wさんは、ぼろぼろにやられながらも、交替せず進んでスクラムを組んだ。
「自分が、スクラムが弱いことを知っていたので、リーグが始まり、
少しでも迷惑を掛けたく無い気持ちだったのだろう。
相変わらず、キャプテンはリハビリをしていたが、走れる程度まで回復していたが、スクラムの
練習は、怪我以後していなかった。

いよいよ、明日から大学選手権につながるリーグ戦の開幕だった。
軽い、練習が終わり、最終のサインプレーの確認や、コンビネーションの確認がなされた。
練習終了後、部員達は監督の元に集まり、訓話があった。
その後、監督より一人一人に、公式戦用のジャージー(ユニフォーム)が配られる。
当然、最終チェックのコンビネーションに参加した15人に配られるのだ。
当然、Wさんもその中に、入っていた。

訓話が終わり、100人あまりの部員が輪になった。
監督が、「1番プロップXX」とWさんの名ではなく、キャプテンの名を呼んだ。
部員は、一様に(えっと驚きの、表情と小さく声を上げた)
呼ばれた、キャプテン自身(俺?ってみたいな顔して不思議そうな顔をしていた。)
私は、とっさにWさんの顔を見た。殆どの部員もそうしたからだ。
なにかに、耐えるようにWさんは、苦痛に顔を歪めていた。
部員達も、恒例の拍手はしたが、心なしかまばらだった。
ジャージーが配り終え、解散後Wさんは、同学年の人に抱えられるようにボックスに入っていった。
しばらくしてから、私がボックスの前を通りかかると、中からWさんが大声を出して泣いている声が
ボックスの外に漏れてきた。

前年、3位になった、私の大学は、大学選手権代表決定戦で、中京大学に負けたのだった。
(当時、大学選手権は、全国8チームで、関西3位のチームは、東海リーグ優勝チームと
 代表決定戦を行なっていた。)
監督は、大切な開幕戦をやはりキャプテン不在では不安だったのだろう。
この年、チームのモチベーションは、さがり5位に沈んだ。

私も、少なからず高校、大学のコーチを数年経験したので、振り返ってみると、この決定は失敗だったと思う。
このシーズン完敗したのは、同志社戦だけで、後は競り負けたのだった。
1試合はWさんに任せ、後をキャプテンに替えても良かったのではないかと思うのだ。
これは、同情論ではなく、チームを構築する上でのモチベーションの問題なのだ。

次の年、Wさんは選手として死んでしまった。

その後、Wさんをテレビでよく拝見する。

「おっと、長島監督、今の判定でグランドへ飛び出しました。」
「激しく抗議知しております。」
「江川さん、かなり長島監督は、今のストライクの判定に抗議していますね。」
「そうですねーー、その前から色々伏線があったみたいですから」
「球審のWさんは、なにか説明しているみたいですね。」

そこに、楕円のボールから、プロ野球の審判に変身した、Wさんの姿があった。