◆【山行日時】 2008年3月29日 曇のち晴れ、朝のうち小雪
◆【コース・タイム】
氷山命水=20分=桑ガ乢・林道分岐=75分=林道別れ・尾根取付き=55分=陣鉢山山頂
=35分=林道出合=60分=桑ガ乢・国道出合=10分=氷山命水
(コースタイムはシール歩行・登高時間と滑走時間が混在しています)
◆【詳細】
鳥取県南東部に位置する陣鉢山(標高1,207メートル)は標高こそそう高くないものの、その端正な山容から中国山地東部の山に登ればほぼどのピークからも望め、そればかりか、わかさ氷ノ山スキー場や氷ノ山、三ノ丸といったすぐそこともいえる稜線からなら、舂米の谷を隔てただけの至近な距離に位置するごく身近な山でありながら、これまで足を向けたことがなかった。
雪が消えてしまうと他のこの地域の山同様、厄介者となるネマガリ竹に行く手を阻まれるようなので、残雪期を狙って出かけてきた。

ルートはわかさ氷ノ山上部の『氷山命水』から国道を県境の桑ガ乢まで歩き、ここからは東因幡林道を西進。
鳥取・兵庫県境尾根の南側に付けられたこの林道を歩き、陣鉢山から東へ延びる尾根に取り付き山頂へと達するもの。
林道歩きが少々長いが、陣鉢山へはこれがもっとも一般的なようだ。
歩き出すと、確かに林道歩きは短くはないが、ここは高所につけられた林道であり植生豊かで南側の展望も利き、進むほどに正面にはこれから向かう陣鉢山も姿を現せるので、あたりの雰囲気を楽しみながら歩けばあまり退屈することはない。
桑ヶ仙(1,059.
6)を巻ききったあたりで右手の県境の稜線が低くなったのをさいわいに、尾根に上がってみる。(二本のブナの木の幹にテープあり)
鳥取側は自然林、兵庫側は植林なので鳥取側しか展望はないが、先人の記録に思いを馳せ歩けば、なかなか趣があっていい。
ナツラ山(1,082)は再度、林道歩きで回り込み、右手の尾根が低くなると、やがて陣鉢山から東へ延びる尾根上の切り通しに出る。
個人的には今日の山行のハイライトはここで目にした光景だった。
今日ここで初めて、これまで県境尾根に遮られ展望のなかった北側の風景を目にしたが、目に飛び込んできた光景は当初ここが何処なのか、自分がいったい何処へ来てしまったのか理解できないほどのものだった。

正面右に山頂部を真っ白にした台形状の山と、左手手前には広々と大きく裾野を伸ばした高原とその奥に大きな山。
これを目の当たりしたとき、自分がまったく知らない場所に足を踏み入れてしまった感覚に陥ってしまった。
この感覚は、かつて、扇ノ山の稜線から
仏の尾〜青が丸稜線を見たときにも感じたような気がするから、この一帯は中国地方にありながら、そうではない場所であるかのような光景を持ち合わせている数少ない場所にちがいなさそうだ。
よくよく考えてみるとそれは
青が丸(1,239.
3)と
広留野高原、
扇ノ山だったのだが、そう悟るのにしばらく時間を要するほど想像だにできない光景が目の前には広がっていた。
もちろん、扇ノ山はこの風景にあって雄大な景観を演出するうえで大きな存在であることや、他所から眺めたなら大きく立派な姿を見せてくれることに異論はないのだが、ここでの主役はあくまで右手に見える台形状の白い山、青が丸。
その青が丸をはじめて間近に目にしたのは今とはまったく正反対の位置の、この山の北に位置する美方町佐坊集落上部からで、そのときも真っ白な雪を戴いた山頂部の美しさに目を奪われたものだ。
そして、南から望んでもその美しさになんら変わりはなく、やはり目をひきつけられてしまう。
青が丸の山頂部には真っ白な雪の部分があり、ひときわ目立つ存在であることや、天候がさほど優れないなか日の光は他の箇所には射していないにもかかわらず、なぜかこの山の山頂部だけは日が射し、絶えず明るく白く輝いていたことも目を奪われた要因ともとれるが、それらを抜きにしても、とにかくこの山は崇高で気高く、美しいことに何の疑いもない。

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ここからはようやく林道歩きから開放され、尾根を雪の繋がった北側から回り込むようにして稜線に上がる。
(切り通し北側にピンクの吹き流しテープあり)
右手にブナやナラ、その他潅木の梢の先に雄大な扇ノ山〜青が丸を望みながら歩く。左手にも時折視界が開け三ノ丸方面が見通せるが、こちらは天候不良で展望はあまりよくない。
1,123の先の雪庇が崩れたような箇所ではスキーを脱ぎ、ツボ足で短く歩く。
ブナの点在する最後の急斜面はそう長くないので斜登高でこなせば、やがて山頂に到着だ。
山頂に着いてみるとそこは
先日の沖ノ山の山頂部と似ている気がした。スケールをもう少し小さくしたような感じだろうか。
あいにく、山頂の南面にはスギ林、扇ノ山や青が丸を望める北面も潅木の枝が邪魔をして展望は総じて良いとはいえない。
いつものとおり山頂でゆっくりするつもりだったが天候、展望ともにあまり優れず、おまけに最後の急斜面を登高中、愛用のサングラスを林道別れに忘れてきたことに気付いていたので、腰を下ろすことなく早々に山頂をあとにする。
ようやくシールを剥がし滑走だ。
山頂直下の急斜面の滑降に多少不安があったが、思いのほか気持ちよく滑れたことで短い滑走にも充分満足できた。
上りでも板を脱いだ箇所で板を脱ぎ、1,123の短い登りもツボ足で上がる。
潅木の枝に気を付けながら自分のトレースを追えば、山頂から30分ほどでやがて林道に出合った。
まずは、サングラス。ここまで下山して、
「もしなかったら、どうしよう・・・。」
これまで誰にも出遭っていなかったので、
「きっと、あるはず。」
雪上にポツンとあるそれを見つけたことで、ずいぶん気持ちが落ち着いた。
天候も回復傾向で、朝は吹き抜ける風が身に冷たく感じられた切り通しのここも、春の日差しが降り注げばずいぶん暖かく感じられるようになっていた。

北向きに腰をすえ、白く輝く青が丸を正面に見ながら昼食とする。
背後にはカーブミラーの遥か向こう、三ノ丸西尾根が横たわりその奥に見える三角錐は三室山だろうか。

あわよくば、目の前に見えている県境尾根上の小陣鉢山(1,077)に上がることも考えていたが、割愛。
しばらくのんびりしたら、あとは林道を帰るのみ。
ほぼ等高線に沿って延びるこの林道は、行きも帰りもスキーはほとんど走らない。
それでも、進むほどに朝はわずかしか見えなかった氷ノ山〜三ノ丸方面が、まるで、その大きさを誇示する障壁であるかのように目の前に聳え立って見えるようになる。
景色を楽しみながらのんびり歩けば退屈感も少しは和らぐ。それにしても、三ノ丸からさらに西へと続く西尾根の大きさには驚かされるばかり。

ナツラ山・南の尾根が張り出したカーブのところでは、赤倉山〜氷ノ山〜三ノ丸〜西尾根が障害物なしに一望できるようになる。
他方から望んだなら、氷ノ山の脇役になることの多い陰の存在の赤倉山も、ここから見れば立派な山容の独立した山。
腰を下ろし、先日新調したばかりのケータイでこの風景を撮り、妻に向け送信してみた。
・・・、しばらく待ったが返事はなかったので帰路に着く。
この先、国道出合いの桑ガ乢までが意外と長かった。
出合いからは道路の傾斜にも助けられ、ようやく少しばかりスキーが走り、氷山命水までは10分ほどだった。
過去にほとんど記憶にない、山中で誰にも遭わないとても静かな山行だった。
朝にも短く話をしていた氷山命水の番人のおじさんと、加藤文太郎や氷ノ山のルートについてしばらく談笑したあと家路に着いた。