約束した日・・・塔矢の家に着いたのは8時を回った頃だった。
何度かインターホンを鳴らしてはみたものの反応はなく 俺は玄関の扉に凭れるように座り込んだ。
ふと空を見上げる今晩はと雲一つなく東京の空にくすんだ星が
ぼんやり浮かび上がっていた。
今日は月の影さえ見当たらない。 新月の空は星だけのものなのだ。
ふと格子戸の向こうから人の気配がした。
「進藤なのか?」
俺は見えない相手としばらく対峙する。
「ああ、俺」
塔矢は俺の声を待っていたとばかりに急いで戸をあける気配に 俺は慌てて立ち上がった。
「進藤ごめん。風呂に入ってた。まさかこんなに早く来るとは 思わなくて・・・」
俺は頭を振った。
「良いんだ。なんだかこの間の逆みたいだよな」
「そうだね」
「でもさ、この間と違って今日は東京の空に星があるんだぜ。 ほら、珍しいだろ。」
塔矢は俺の言葉に目を細めて空を仰いだ。
「本当だ。本来ならいつもそこにあってあたり前の星なのにね。 かすんで見えなくなると忘れてしまう。」
「そっだな。雲に隠れても霞んで見えなくても星は確かにそこに 存在してるんだよな。
なあ、星って宇宙の碁盤に浮かべた碁石みたいだと思わねえ?」
塔矢はくすりと笑った。
「君は意外にロマンチストなんだな」
俺は口を尖らせる。
「なんだよ。ガラじゃなくて悪かったな。」
「いいや。悪くないよ。そんな君も好きだ」
塔矢はそっと俺を包み込むように抱きしめた。
塔矢に部屋へと招かれて俺はおずおずと塔矢に聞いた。
「なあ。俺、風呂借りていい?」
塔矢は驚いたように振り返った。
「構わないよ。風呂場は・・・」
「ああ、知ってる。この間の合宿の時使ったからさ、」
風呂場へと向かおうとした俺に塔矢が戸惑いがちに聞いてきた。
「進藤着替えある?」
俺は振り向くこともせずにこくんと頷いた。 着替えなんて本当は持っていない。
「わかったバスタオルを後で持っていく。」
風呂からあがった俺は塔矢が用意してくれていたバスタオル を腰から巻きつけた。
自然と早くなる心臓を落ち着けるように自分の腕を胸に押し付け
深呼吸をする。
風呂場を出て物音のする客間に入ると丁度塔矢が布団を敷い ていて、これから俺がしようとしている事が何であるのか 再認識させられたようで羞恥で体中が熱くなった。
それでも俺はもう逃げだそうとは思わなかった。
俺の姿に驚いた塔矢が目のやり場に困ったように目線を
外した。
「塔矢俺を抱いてくれないか。」
「進藤・・・・君は無理をしてるんじゃないのか。」
俺は塔矢との距離を詰めながら顔を横に振った。
「無理なんてしてない」
「それじゃあ中国棋院への留学に後ろめたさがあるから僕に
抱かれようと思ったんじゃないのか」
「なんでそんな事言うんだよ。」
俺は悲しくなって塔矢を見た。
けれど塔矢はいまだ俺から目線を外したままだ。
「なんでわからない。俺はお前に抱かれたいんだ。それは理屈 なんかじゃねえ。俺は塔矢が好きだから愛してるからだから 抱いて欲しい。」
ようやく俺の瞳をみた塔矢に俺はその身をそっと預けた。
「塔矢俺をお前のものにしろよ、」
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