空を行く雲


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俺は対局を終えた後、塔矢を待って呼び止めていた。

「塔矢 話があるんだけど。」

「ああ。いいよ。」

塔矢と俺が個人的に話をするのはもう7ヶ月ぶりのことだった。

俺は塔矢と話しをするために棋院近くの公園を選んだ。
木枯らしが舞う公園に二人きり。
ここは以前中国に俺が留学する前にも塔矢と来た事があった。

あの時から2年以上がたっていて、ここの景色は変わって
はないのに俺と塔矢は随分変わってしまったような気がする。

俺はつとめて明るく切り出した。





「あのさ、塔矢、緒方先生に一緒に住まねえかって持ちかけられてる。」

「それで・・・」

アキラの表情も声色も普段と変わりなくてほっとした反面、
寂しいとオレは思っちまう。



「お前が反対するならやめようと思ったんだ。」

「僕が反対?君の事だろう。反対などしない。」


塔矢に・・・

本当は反対して欲しかった。やめろ!といわれればやめるつもりで
いた。

今の返事で俺はもう塔矢に必要なんてされてないんだと
いう事を理解して俺は乾いた自分の心に笑った。


「そっか。悪かったな。つき合わせて、じゃあな。」


それ以上塔矢の傍にいるのが辛くて俺は公園の中を一人さ迷い歩いた。
この時、俺には本当の塔矢の気持ちなんてわかってなかった。









本因坊リーグ32戦目 俺は緒方先生との勝負に僅差で負けた。

俺の連勝記録は37勝でストップがかかり、本因坊挑戦者へ残るには後1戦も
落とせなくなった。


だが、俺はこれで決心が付かなかった事を決断した。
緒方先生と一緒に同居する事。

塔矢を諦めたわけじゃない。俺はまだずっとどこかで塔矢を待っている。
塔矢を愛してる。


今でも俺の大地は塔矢だけだと信じてる。


だからこそ緒方先生と同居する事を決意したのだ。
あいつを待つために。あいつが本気になってくれるために。



以前佐為を追いかけて来たあの瞳をもう一度俺に向けさせるために・・・・・




対局を終えた後 俺は緒方先生を呼び止めた。



「緒方先生。この間俺に言ったことってまだ有効?」

「一緒に住む話ならいつでも有効だ。」

「なら俺 先生と一緒に住むよ。」

「俺と打って強さがわかったか。」

その言葉に俺は内心苦笑する。緒方先生は確かに強かった。
だが、次は何故だか負けない自信が俺にはあった。



「ああ。先生は強かった。だけど俺次は負けるつもりねえけどな。」

「負け惜しみに聞こえるがな。お前が俺のマンションに
来ると言うなら部屋を開けておく。今度の日曜なんてどうだ?」

次の日曜まで後5日。丁度いいかもしれない。

「わかった。荷物あんまり多くない方がいいよな。」

「そうだな。」

「今度の日曜日に行くよ。」

         

     
      

性急すぎる展開ですが・・・(苦笑)
次からヒカル緒方狼(笑)と同居です。




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