アキヒカ三銃士




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サイが光の中に薄れていくと、深い吐息のようなものが、舞台の上にも観客席にも流れました。

ヒカルは、殆ど倒れそうでした。アキラがしっかりヒカルを支えていました。

「僕はサイとは違う。 君のパートナーなんだ。 君の隣で君を支えることができるんだ。 これからもずっと、そうしたい。」

ヒカルは弱々しく微笑みました。

緒方がやってきました。
「いいか。 サイが最高の舞台にしか上らないというなら、お前は、今、その舞台にいるのだ。  あいつの名を汚さないように最高の舞台を最後まで作ることをわすれるな!」

ヒカルは、その言葉にしっかりと頷き、息を吸い込み、言いました。

「俺。 完成させるよ。 あいつの望んでいた舞台を。」

 

出演者全員が、舞台に登場するフィナーレとなりました。


それぞれが、数人づつ、舞台の中央に出て、それぞれに挨拶を述べました。
和谷と伊角たちは、得意のジャグジーをしながら舞台の中央に進み、深々とお辞儀をしました。

アキラとヒカルとオチは、三人手をつなぎ、登場です。

「伝統のある、このステージを受け継いで、今回最高のステージを皆さんに見て頂けたことを嬉しく思っています。」

「僕は、今回、ステージを作る最高のパートナーを得ました。これからも、二人で、このような舞台をずっと一緒に作って行きたいと思っています。」

アキラは、フィナーレの場でも、どうどうと公言したのです。
ヒカルはやや困惑気味に、アキラに微笑みかえしました。

「俺は、今回、初めてステージに立って、それが最高のステージだという幸運を貰ったと思う。
多くの人に助けられた。
俺が、この最高のステージの隅にいられたことは、本当の始まりに過ぎない。 この先、俺はずっとステージに立ち続けたい。今の気持を忘れずに。 
サイ、いや、ステージの精の名に恥じぬ演技をずっと目指す。 そして、それを次に繋いでゆきたいと思っている。」

それでもヒカルは、そう力強く宣言しました。


最後に登場したのは、緒方、座間、コウヨウ、桑原でした。

「わしたちは、もう、何も言うことはない。 
若い者がステージをしっかり引き継いでいく、それをこの目で見ることができて、満足をしている。
どうか、皆さん。これからも暖かく厳しく見守ってやって頂きたい。」
桑原の言葉に三人は頷き、深々と客席にお辞儀をしました。


それから、右手でヨウキの手を取ったヨンハは、兄弟を左手で導き、中央に立ちました。


「ゴ石とは、ステージにとって必要なものをその都度思い起こさせる力を持つ。その力が必要な時に、石は、ステージの精を呼ぶという。
この舞台に立った者の中に、その精を呼び寄せた者がいるのだろう。
そういう者が出る限り、この国はステージのある国として栄える。  
ありがとう。 ステージを成功に導いた舞台人と目の肥えた観客の皆さんにお礼を言いたい。」


ステージは、大成功をおさめ、カーニバルは興奮のうちに終了しました。
何よりも素晴らしいことは、国王と兄弟が、和解をし、国の雰囲気がガラッと変わったことでしょうか。

国王の兄弟は、オチの招きで、オチのステージに落ち着きました。


ヒカルは、明るく芝居の稽古に励んでいます。

「ヒカル。 君はまた。 その解釈は違うよ。 僕は…。」
「おっと、待てよ。お前はそうかもしれないけどな…。俺は、これでいいんだ。」
「どこが…。」

周囲の者はまたかと溜息。

ヒカルが無理に繕っているのか、本当に明るくなったのか、時々、アキラは疑問を抱くのです。

「緒方さんは、気にならないのですか。」
「俺は、じっと待つのに慣れていてな。
アキラ君のように、ことを急ぐつもりはないんだ。
俺はヒカルの守護神なのは舞台を降りた今も変わりはない。」
「ヒカルは僕のパートナーです!」
「ふん。」

でもその緒方とアキラのにらみ合いは、中断することもしばしば…。何故なら、大御所たちが…。

「小僧。どうだ。少し相手をしてやるぞ。」

「ヒカル君。 君は中々面白い味を出すな。」

「ううむ。俺には届かないが、なかなかやるじゃないか。」
何と、座間までが、ヒカルと親しいのですから…。

ステージの精に見出されたヒカルは、みんなの人気の的なのでした。
 

ヒカルは、本当はどうなのでしょうか?
天性の明るさが、ヒカルにあるのは確かですが…。

俺は芝居を続けるよ。皆に夢と笑いを与える芝居を。
芝居をしていれば、いつも、そこにサイがいる。
ヒカルはそう感じていたのです。

芝居が俺の全てだと。素晴らしい仲間も大勢いるもんな。

ヒカルは、ある日夢を見ました。
「サイ。お前。夢に出てくれたんだ。」
夢の中で、ヒカルはそう言ったのです。

サイは、にっこりと微笑みました。

「お前、何で、俺にもっとちゃんと言ってくれなかったんだよ。 俺は、いつもステージに立つと、お前を感じることができる。ステージを見るとお前の声が聞こえるんだ。」

サイは、何も言いませんでした。
ただ、嬉しそうに、微笑みました。

サイは夢の中で演じてくれました。

妖精は滅多に人前には出ないもの。
最高の舞台でのみ、演じることができる、その時に人に、初めて姿を見せられるのだと。
妖精は皆優れたパフォーマーだから、いつも演じたいと思っている…その思いを託せる人を求めているのです。
私はあなたに私のパフォーマンスの夢を託したい…と。

サイは、それからじっと、ヒカルを見つめました。
ヒカルもじっとサイを見つめました。
サイは、黙ってヒカルにそっと光り輝く妖精のゴ石を差し出しました。
それは、サイ自身のお守りでした。
ヒカルは、しっかりとサイの手からそれを受け取ったのです。

ヒカルは、明るい朝の日の光に、目が覚めました。
目を開けたヒカルは、心穏やかな何とも幸せな気持で満たされていました。
しっかり握りしめていた手を開いても、勿論石はありませんでしたけれど。


「さあ。 いくぞ。 今日も。」



朝の光の中を、ヒカルは、嬉しそうに、稽古場に向かって駆け出していきました。


 


                             END

あとがきです。

ラストはさびる様がしめて下さいました。

まずここまでお話を読んで下さった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。

私も今いちど最初から読み返しましたらなんと2時間近く
掛かりました。(自分で半分は書いたはずなんですが、次どうな
るんだっけ?ってドキドキしましたし 笑)

ですが私とさびる様がこのお話を書くために費やした時間はとうてい計れないものだと思っています。
さびる様と楽しく貴重な時間を費やした事、素敵なお話を一緒に書くことができた事に非常に感謝してます。

そして二人は完結したばかりだというのにすでに番外編へと気持ちが飛んでおります(笑)

これからもアキヒカ三銃士の世界どんどん広がっていくんじゃないかと思ってます。
これからもどうぞよろしくお願いします。 
                              堤 緋色






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