ヨウキのプライベートルームに着くと、みんなは、早速話し合いを始めました。
「実はね。」 さっきは、サイに悪かったかな。という思いがあったので、ヒカルは、サイが言った事を思い出しながら話始めました。
「祭りの日に俺たち、ステージで、芝居をしたらどうかと思ってるんだ。」
地下迷宮のことで頭がいっぱいだったアキラは、少しむっとした様子で、今はそんなことを話す時ではないのにと思いながら言いました。 「ヒカル。 君はまた唐突に、そんなことを言い出す。」
サイは、芝居の話を始めたヒカルの気持を察したようで、進んでアキラにその意味を説明しました。 それは、準備を急がなければならないし、とても重要なことでもあるのだと。 アキラはサイの話に、じっと耳を傾けました。
伊角は、年長者らしく、落ち着いてこれからの段取りを整理しました。 「一つは、地下牢から、あの方をお助けすること。 もう一つは、そのあとどうするか。 ヒカルが今言ったのは、後のことだな。」 ヒカルは、分かって貰えて、嬉しそうに頷きました。
「なあ、どうしてだと思う? 座間たちは、この迷宮を自由に出入りできるんだ?」 和谷のその言葉は、みんなが疑問に思っていたことでした。
「迷宮の出入り口は、一つじゃないのよ。 おそらく。」 奈瀬が言いました。
「言い伝えでは、王の避難通路は代々王様にだけ伝えられていますけれど、でも双子ならば或いは…。」 ヨウキの言葉でした。
「じゃあ、王様に取って代わった彼が? 今その人はどうしてるのです?」 「国内視察ということで、旅に出ています。 私の近くにいれば、すぐに見破られてしまうと思っているのでしょう。 祭りが終わるまでは、見つからないようにと。 あと3日ほどしたら、戻って来る筈です。」
サイの話を聞き終わったアキラは、決断を下しました。 「一度、僕たちは、和谷君たちの隠れ家に戻ろう。 いつまでもここには、いられない。」 そう言ってから、 「姉さん。 一度僕たちは戻ります。 迷宮を歩く準備も要りますし、必ず連絡に来ますから。 気をしっかり持ってください。」
ヨウキは、無理に微笑を浮かべて、明るく頷いて見せました。
前の道を辿り、ヒカルたちは祠の外へ出ました。 それから、城の裏門の近くを伺っていると、急に背中で、声がしました。
「和谷君。」 驚いて振りかえると、陸力がいました。 それからすぐに、「隠れて。」と一言。 皆が慌てて臥せると、警備の者が近くを通り過ぎていきました。
「話は後だ。 まずは安全なところへ。」
隠れ家へ着くと、陸力は早速説明してくれました。 裏門の井戸の近くに大木があって、その根元に秘密の入り口がある。 そこから行くと、簡単に地下牢へ行けると。
「僕たちは三人組なんだ。 今僕の代わりに王世振が牢にいる。 僕たちは雑技団で、縄抜けや脱出のマジックをやることもあるんだ。 あの地下牢を脱出するのは容易なことだ。 ただあの囚人の仮面を外すのはなかなかできない。」
それから、主の楊海公に言われていることを、そっと、皆に耳打ちしました。
「そうか。では、これで、第一の案件は解決できるな。 もう一つの方をヒカルに説明してもらおう。」 伊角は言いました。
「僕から話そう。 ヒカルは順序だてて言うことは苦手だろう。」 アキラのその言葉に、ヒカルは少しむっとしましたが、黙っていました。 確かにサイの話を説明するのは骨が折れましたから。
「あの方を助け出したら、僕たちは皆で、芝居をする。 それは、ある国の物語。 でも今起こっていることを暗示しているんだ。 そして、それはゴ石の物語でもある。
ゴ石は二つある。 二つ合わさって初めて力を持てるのはなぜか。 その力はどんな力なのか。 それは、権力とか富とか栄光とかじゃないんだ。 そういうものではない、もっと素晴らしい力。
その本当の意味を皆に知ってもらう物語を芝居にする。 それを知ったら、皆きっと、この馬鹿げた争いをやめるに違いない。 そういう話だ。 台本はここにある。」
いつの間にと思いつつ、ヒカルがサイを見ると、サイは 『私は手際がいいのですよ。』と威張って言うのでした。
アキラは。芝居のあらすじを簡単に話しました。
「じゃあ。決めよう。 二組に分かれる。 まずは、陸力に案内してもらって、あの方を救い出すこと。 次に、その芝居の準備とリハーサルだ。」
あかりと奈瀬と伊角と和谷は、早速、芝居の準備に取り掛かりました。 ヒカルとアキラは、二人で陸力の案内で、地下牢へと出かけることになりました。
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