その晩伊角と和谷の家でヒカルは二人からいろいろな
話を聞きました。
ヒカルは舞台とは人を笑わせたり楽しませたり
時に感動を与えてくれたりするものだから出演者も
そうなのだと思っていたのです。
そんなことを言ったヒカルを和谷は笑いました。
「そりゃ理想ってやつだな。表は華やかに見える
舞台でも裏ではいろいろあるんだぜ。役を競ったり
他のステージのお客を横取りしようとしたりな。」
「それでお互いをより高めて技を競うんだ・・。
そうやって俺たちは俺たちのパフォーマンスを作って
来たしこれからもそれを極める。」
年長者らしくそう言った伊角に和谷はでもな〜と
ため息をつきました。
「現実はそう甘くねえんだよな。」
「そうなの?」
ヒカルはチラッと横見るとサイも真剣に二人の話を
聞いているようでした。
「お前はよそから来たからわかんねえだろうが
努力や忍耐だけではどうしようもねえことも
あるんだ。」
「どういうこと・・?」
「それはな・・。」
伊角によればこの国は王がいて、
大小すべてのステージをこの王が取りまとめているらしい。
王から認可が下りないと舞台を作る事も
演じる事もできないというのだ。
ところが王が治めているというのは名ばかりで実際は
王の側近の者たちがこれらを執り行い派閥を争っている。
特に今一番大きな派閥は二つで
それが国王の后の出身であるトーヤ派と
現在主宰の座間派だ。
そこまで伊角が説明したところで和谷が言いました。
「上を目指すのに競い合うならオレは本望だって思うぜ。
実力のないやつは落ちていく世界だしな。けどな、
相手を追い落とすためなら何でもするようなそんな
舞台はオレらの目指すもんじゃねえんだ。」
伊角もそれに頷きました。
「だから俺たちはアクロバットミュージックをストリートでやってる。」
「ストリートパフォーマーは国からの認可がいらねえんだ。」
和谷はそういうとテーブルの上にあった皿を人差し指でくるりと
回してひょいっとそれを頭の上に載せました。
「何者にもとらわれず、自分流のスタイルで、それが俺ら流って
わけだ。どうだお前もやってみないか?」
そう問われてヒカルは少し考えました。
この世界がけして綺麗でも華やかでもない事をしってもヒカルの
はわくわくしていました。
さっきお芝居を見た時のように・・。
もしオレが観客でなく演じる方の立場だったらどんな気持ちになるだろう。
たとえどんな舞台であれヒカルはたってみたいと思いました。
きっと今やらなければ後悔すると思ったのです。
「オレやりたい!!」
そう言ったヒカルの頭の上に和谷の皿が飛んできました。
「な なんだよ・・・?」
ヒカルは咄嗟にバランスをとろうとしてもうまくいかず皿は滑って
地面に落ちていきました。
ヒカルは目をつぶりましたが一向に
皿が割れた音はしません。
そっと目を開けると和谷が皿を持って笑っているではありませんか。
「和谷 てめえ〜〜!!」
ヒカルが怒鳴ろうとしたらサイが和谷の皿の上で拍手して笑って
いました。
ヒカルは怒る気もなくして呆然としました。
「わかったか。こういうのもパフォーマンスのうちなんだぜ。」
ヒカルはなんだか可笑しくなって笑いました。
それにつられるように伊角と和谷も笑いだしました。
ヒカルは信じたいと思いました。
伊角と和谷がめざす自分流のパフォーマンス・何者にもとらわれない
スタイルがヒカルの目指す笑顔につながる事を・・・。