アキヒカ三銃士






     

葉瀬はヒカルの生まれ育った村でした。

葉瀬は山の麓に数十件の集落が集まっただけの
本当に何もない小さな村でしたけれど田園には穂が実り
人々の笑顔が溢れていました。


村から出たことがなかったヒカルは初めて峠で
葉瀬を見下ろしました。

眼中にすっぽりと収まるその風景が今日は一際
鮮やかに見えます。

のどかな村から子供たちが掛けまわる姿がみえて
まるでここまで声が聞こえてきそうでヒカルは耳を
すませました。

葉瀬から旅立つ自分がなんだかまだ夢の出来事に
感じます。


ヒカルのポケットから小さな妖精サイ・ロシナンテが
顔を出して回りをきょろきょろ見回しました。

「ヒカルどうかしたのですか?」

「しばらく葉瀬ともお別れなんだな〜って思うとさ。」

眼下を見渡すヒカルの肩に座るとサイも一緒に
その風景を眺めました。


妖精のサイはヒカルにしか見る事が出来ないし
話す事もできません。



この二人の出会いは2ヶ月前にさかのぼります。

祖父の蔵の中で本に挟まって抜けられなくなった
ドジな妖精をヒカルが助けたのです。

全くあのままヒカルが蔵に入らなかったらずっ〜と
本の間に挟まったままだったに違いません。

その時のことを思い出しヒカルは笑い出しました。

「ヒカル何が可笑しいんですか?」

さっぱりわからないというサイをヒカルは手の平に
のせました。

「だってあの時のお前のカッコってばさ〜。」

1000年前から生きてるサイは長い烏帽子に
引きずるほど長い衣を纏っていました。

その烏帽子が本の角に引っかかり逆さむきでぶら下がっていた
んです。

そんなわけでヒカルは初めてサイを見た時てっきり人形かと
思ったのです。

「ヒカル 私はステージの精なんですよ。
私を笑うと罰があたりますよ。」

「それはもう何度も聞いたって。」


サイが主張するには自分はステージの精だというのです。

それでその精霊が見えるのは
ステージに選ばれたものだけなんだそうです。

ヒカルはステージなんてよくわからなかったけれど
サイはヒカルには人を楽しませる素質があるって言うから
なんとなく騙されたつもりでやってみようかな〜

なんてようするにサイにのせられたわけです。

それにヒカルは何より人の笑顔が好きでしたし。


ヒカルは亡くなった親父も舞台役者だったっということを
お母さんから聞いていました。
ですからそこがどういう世界かと言う事も知りたかったのです。

舞台を目指すにしては多少なりといいかげんな所がある
ヒカルにサイは苦笑しました。

街に出て芸人になるというのは半端でない事を
サイは知っていたのです。


数百年と舞台を見てきたサイでも
その中に一流の芸人といえる人物はホンの一握り
しかいませんでした。

しかもその道を極めたものはとなると・・・。


舞台の上は華やかできらびやかでも、裏ではライバル相手
への妬み はったり こけおどし・・(?)
そんな事が日常で行われている世界です。

それでも、ヒカルの天性と持ち前の笑顔があれば
サイの目指す舞台があるのではないか・・?

かなえられるのではないか。

サイがヒカルを見た時感じた直感をサイは信じていました。


たとえそれが夢でもヒカルとなら目指してみる価値は
あると・・。






1話は緋色担当。ロールプレイングゲームのように勇者?ヒカル
はお供の妖精サイを引き連れて出発です。この先どんな珍道中が待つのやら〜。

 


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