続・BOY&GIRL

(GIRL’S SIDE03)









     
ヒカルは浅い眠りの中声を掛けられた。




『おい、』


自分の声に起こされてヒカルは夢の中で目を覚ました。
男のヒカルが目の前に立っていた。
いつみてもそれは不思議な光景だ。

「久しぶり・・・。ってほどでもないか」

会いに来てくれたヒカルが嬉しかった。

「そうだな、それにお前とは久しぶりでも久しぶり
じゃねえ気がするし」

「それであの後はうまく行ったのか?」

予想は出来たが興味本位とからかい半分もあった。

「うっせえ、」

男のヒカルは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「お前がそういう意地張るからオレたち入れかわっちまう
んだと思うけどな。」

「オレのせいだけじゃないだろ?お前だって色々あったじゃ
ねえか、」

「ああ、まあそうだけど、」

「それよりお前らは仲直りしたのか?」

逆に男のヒカルに聞き返されてヒカルは頭を掻いた。

「仲直りは出来たけど、ちっとな。」

「何かあったのか?」

ヒカルは小さく頷いた。
相手が「男のオレ」なら本音を漏らすことが出来そうだ。

「お前はさ、ソリーのペア碁には出ないの?」

「オレ?ああ、申し込んでるけど。
クジだから当たらないかもだろ?」

「お前のアキラも出るのか?」

「ええ塔矢?ゴメンちっとわかんねえな。お前は
アキラと出るのか?」

ヒカルは首を横に振った。

「アキラは棋戦が忙しすぎて出場できないんだ。
それで緒方先生と伊角さんからペアを申し込まれてさ。」

男のヒカルはそれで察しがついたようだった。

「アキラに何か言われたりしたのか?」

ヒカルは首を振った。

「いや、別に。けど言ってくれた方が
よかったかもしれない。」

「言わねえけど内心はわからないってことか?」

「ああ」

「あいつの事だからな。嫉妬してて
そういうのも押し込んでるかもしれねえよな。」

先ほどのアキラの様子からそれを計ることはことはでき
なかったが、本心はわからない。

「それでお前はどうしたいんだ。」

「案内が来た時にアキラと出場出来たらって思ったし
今だってそう思ってるさ。
けどオレが無理言うわけ行かねえから、」

「それって無理言ってることになるのか?塔矢とペア
を組めるかどうかはともかく。
お前が塔矢と出場したいと思うならまず
塔矢にそう言うべきだったんじゃねえか?」

男のヒカルに言われたことはもっともな気がした。

「それにチャンスなんじゃねえの?今年ぐらいだろ。
クジでペア決めしなくていいのって、」

「そうだけど・・・。」

男のヒカルは盛大な溜息を吐いた。

「お前ら夫婦なのになんでそんなにお互い遠慮するんだよ。
オレにはわかんねえよ。」

「夫婦だから言えないこともあるんだよ。」

まして先日のような失敗もある。
同性の二人のように遠慮のない関係というわけにはいかない


「そうなのか?」

「そうだよ。」

男のヒカルは皆目わからないと言った感じだった。

「けど、ありがとう。なんか吹っ切れた気がする。
アキラにオレの気持ち伝えてみるよ。」

「おう、それでダメだったら、お前のペアはオレが
引き受けてやるよ。」

そんな事は出来ないことはわかっていても
「最強コンビだっ」と笑って言ってくれた事がすごく
嬉しかった。

「お前って実はすげえいいヤツだったんだな。」

そう言ったヒカルに男のヒカルは噴出した。

「何言ってんだよ。」

「ちっと今惚れちまいそうになった。」

「シャレにもなんねえこと言うなよ。」

そう言って笑うとお互いの距離が開きだした。

「またこうやって会えるよな?」

名残惜しさがあった。いつももう一人のオレとは
もっと話していたいと思うし直接会って話が出来たら
と思う。
でもオレたちが繋がれるのは夢の中だけだ。

「ああ、でもオレたちは会えなくてもちゃんと繋がって
ると思う。オレはずっとこの道を進んで行くことでお前にも
エールを送ってるし。ライバルだとも思ってるんだぜ?」

「そうだな、恋敵としてもお前とはライバルだったな、」

お互いにぷっと噴出して思い切り笑った。



そしてその後にはもう男のヒカルはいなかった。
寂しさはある。でもあいつの言ったことはちゃんとこの胸に
残ってる。




夢から醒めてヒカルは一人ごちた。
もう朝まで眠れそうな気がしなかった。

起き上がってリビングに入り深呼吸をして、
棋譜でも並べようかと思った時アキラがリビングに
顔を出した。



「ごめん、起こしちまったか?」

「いや、僕も眠れなかったから。」

アキラも眠れなかったなんてヒカルは知らなかった。

「何か淹れようか?」

「いや、いいよ。」

二人の会話が途切れた。

「ヒカル」「アキラ・・。」

2人で同時に声を掛けてまた途切れた。
アキラはそれに微かに笑った。

「僕から話してもいいだろうか?」

ヒカルは頷いた。

「君はもう伊角さんとペアを組むことに決めたの?」

「そのことなんだけど・・・。」

ヒカルは一瞬言葉を濁して、けれど心を決めてアキラをまっすぐに
見た。

「オレ、お前と組みたいんだ。
無茶言ってるのわかってるけど、もうこんなチャンス
あるかどうかわからねえし、自分を試したいんだ。」

アキラの表情が読めなくてヒカルは語尾を失う。
呆れられたかもしれなかった。

「ホント無茶言ってるなオレ、悪い。」

そう言うとアキラがヒカルの肩を抱き寄せた。

「えっ?」

驚くヒカルにアキラはますます力を込める。
何がどうしてこうなったのかヒカルにはわからなかった。

「僕の方こそすまない。」

「他人事じゃない」といいながら君の判断に任せて
諦めようとした。
スポンサーや棋院と検討もしないで出場できないと始めから決め
つけていた。
なんとか頭を下げてでも頼んでスケジュールを調整する。だから
僕から改めてお願いする。
僕と組んでほしい。他の誰とも組んで欲しくないんだ。」

「ア・・・キラ?」

嬉しくて胸がジンと熱くなる。
涙が出そうになって鼻をすすった。

「あ、ありがとうって何かオレ悩んでたのバカバカしくなった。」

「悩んでたの?」

「えっ?あはは、」

笑って誤魔化すとアキラが耳元でささやいた。

「今すぐ君が欲しい。」

「ええっまさか 今から?」

アキラは至って真面目でヒカルは狼狽えた。

「でも、お前明日から遠征だろ?」

「明日は移動だけだし、それにしばらく君には会えないから」

「だったら何で寝るときに・・・。」

そこまで言ってヒカルは失言だったと顔をしかめた。

「ひょっとして期待していた?」

案の定アキラに突っ込まれてヒカルは顔を赤くした。

「な、お前だって意地張ってたんだろう?」

「ああ。本心を隠してお互い意地を張って。
僕たちは本当に・・・。」

「バカだ。」と言ってアキラは苦笑してヒカルの腕を取った。

「君を愛してる・・・。」

ヒカルは恥ずかしくなってアキラの腕を振りほどいた。

「オレもう寝るし、」

「返事は?」

かっと体が熱くなる。
返事の代わりにヒカルは背伸びしてアキラに
キスした。

「ああ、絶対オレたち代表になろうぜ。」


アキラはヒカルを捉えるとその体の心のすべてで抱きしめた。
そのあとの事はこの二人しか知らない。




                                 END
   

                                



ここまで読んで下さった皆様に感謝。そしてリクエスト下さった
とぴさんにスペシャルサンクス〜!!女性化ヒカルはこのシリーズ
ぐらいでないと書けないと思うので書いてて楽しかったデス。

またリクエスト作品は自分の発想だけでは生まれないので
こうやって書かせてもらえることはとっても嬉しいです。そこから皆様に
空想や妄想?を膨らませてもらえたらこれ以上嬉しいことはないです。

それでは次の作品でも縁のあることを願って。  緋色
   


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