続・BOY&GIRL

19









     
ヒカルが目を開けたときベッドに寝ていて傍の椅子に塔矢が座ってた。

「えっと・・・。」

周りを見回すとホテルではない。
元の世界に戻ったのかどうかこの時はまだ半信半疑だった。
オレは部屋を見回した。部屋には見覚えがあった。

「目が覚めた?」

「ああ・・。その」

オレは布団の中でもそもそした。胸に触れてオレはホッとしたと同時に
この状況がよくわからなかった。
ベッドから起き上がろうとしたら体がくらっとして塔矢が布団に
ヒカルを押し戻した。

「まだ寝ていた方がいい。
君は時々こういうことがあるの?」

塔矢は顔を歪めていた。ヒカルはこちらの状況がわからなかったから
下手に返事を返さなかった。

「急に気を失って心配したんだ。声を何度もかけても目を覚をまさないし
また救急車を呼ばなければいけないかと思った。」

「ごめん。心配かけちまったな。」

「僕が傍にいる時でよかったよ。」


前回も今回もこっちに戻ってきた時は塔矢が傍にいる時だった。
窓辺に置かれたベッドからオレは雨の降る空を街のネオンを
見上げた。

それはここ数日見慣れたものだった。


ここあいつらのマンションの部屋と同じ場所だ。
それで塔矢の部屋だよな?

違うことと言えばベッドがシングルサイズで小さいことと、外は
雨が降っていたことだ。
向こうは雨の予報なんてなかったと思う。ただヒカルは大阪に行ってた
から東京の天気まではわからないが。



「塔矢、お前どうしてここに住もうと思ったんだ?」

当然の疑問だったと思う。
でも塔矢は困ったように笑った。

「進藤倒れる前の事覚えてない?さっきもその話をしたよ。」

ヒカルが思ったぐらいだからあいつだって疑問に思ったろう。
オレは内心ヒヤッとした。

「ええ?ああ、そうだっけか。ごめん、なんかオレ夢と現実がごっちゃに
なってるみたいな。なんかまだ夢の中な感じなんだよな。」

なんとか誤魔化したが塔矢は盛大に溜息をついた。

「それでまた誤魔化されてしまうのか?」

あいつと塔矢との間に何があったかヒカルにはわからないが、
それでも察しはついた。
それにヒカルが戻ってこれたのはきっとヒカル自身が気持を認めたからだ。

「もう誤魔化さねえよ。オレの気持ちは・・・。」

塔矢はそれに微笑んだ。

「僕の都合のいい思い違いじゃないんだな。」


ヒカルは塔矢のものいいに苦笑した。そして内心オレは「あの野郎」と思った。
あいつまたオレより先に告りやがったな。

でも、ヒカルも向こうのアキラと散々いろいろやっちまったし、
結局ヒカルも告っちまったわけで。
心の中で悪態をつきながらも怒ってはいない。


「やっぱオレ、今夢と現実がよくわかんねえや。」

「どんな夢だったの?」

「それは・・・。」

ヒカルは笑って誤魔化そうとした。そもそも向こうの出来事を夢に
しちまうのもって思う。
返事に困ると塔矢が笑った。

「ひょっとして、僕と君が結婚してここで一緒に暮らしてる夢とか。」

「なっ?!お前まさか・・・?」

ヒカルはあまりの衝撃に思考が一瞬固まった。
まさか塔矢も入れ替わったとか?じゃなければそんな発想
ありえねえじゃないか。

そう思った瞬間ヒカルはぞっともした。
もし・・だったら今目の前にいる塔矢は本当にこっちの塔矢なのか?

目の前にいる塔矢はいつもの塔矢のように思う。ってヒカルには
大よそ見分けなんかつかない。

ヒカルはおそろおそる聞いた。

「お前・・・塔矢だよな?アキラじゃねえよな。」

塔矢とオレの間に一瞬の沈黙が流れた後塔矢が噴出した。

「ってオレ何言ってるんだ。」

向こうに行った時よりもパニックになってるかもしれなかった。


「進藤落ち着いて。
前に君が気を失った時もその直前の記憶を無くして
いただろう。もしかして今日もそうじゃないのか?
進藤今日僕と打った棋譜覚えてる?」

覚えているも何もヒカルが打ったわけじゃないから当然わからなかった。
ヒカルが横に首を振ると塔矢が小さく溜息をついた。

「あんな名譜を覚えていないなんて勿体ないな。」

「そうなのか?だったら後で見せてくれよ。
思い出すかもしれねえし。」

思い出すことはないだろうが、塔矢とあいつが打った棋譜には興味
があった。まして塔矢が名譜というぐらいなら見ておきたい。

「さっきの夢の話だけど。
僕は最近、君と暮らしてる夢を見るんだ。
夢の中の君は・・その女性で僕と君は・・・。」

塔矢は言い淀んだ。

「結婚してるんだ。
夢の記憶の通り辿ったらこのマンションがあったんだ。ただの夢だと
思えなくてここで暮らしてる。
君にその話をしたら笑われるか呆れるだろうと思っていた。
けれど君は僕に「オレはそんな生活を知ってる」と言ってた。

だから君も同じ夢を見ていたんじゃないかと思ったんだ。」


自笑するように笑う塔矢にオレは安堵した。

塔矢はウソはついてないと思う。
ただ塔矢にとっては『向こうの世界』は夢でその域は出ていない。
向こうとはやはりどこかでリンクしてる。


「君は夢の話をしてくれないのか?」

話をしてもいいかもしれないと思った。がやっぱりそれを告白しようとしても
言葉にならなかった。
おそらく今じゃないんだ。

「ごめん。今はまだ話せないんだ。」

「でもいつか話をしてくるんだろ?」

「ああ。」


笑い話でも塔矢には知ってて欲しい。もう一人のオレとお前の事を。
そしてオレがあっちの世界に言ったことも。
お前が女のヒカルに会ったことも。

塔矢は小さく溜息をついて苦笑した。オレがそう言うだろうと
察していたんだと思う。

「でも君が覚えてないならもう1度最初からやり直した方がいいな。」

塔矢はそういうと布団越しにオレに覆いかぶさってきた。

ゆっくりと塔矢が近づく。
キスに応えると深くなった。


「君を愛してる。」

「ああ、」

塔矢はオレの髪を優しくかきあげた。

「・・・ダメだな。どうしようもなく舞い上がってる。
君の体調が悪くなかったらこのまま・・・押し倒していたかもしれない。」

オレは向こうで塔矢に「欲しい」と言われて押し倒された
ことを思い出して噴出した。

「それは残念だ。」

オレは寝ていた布団の端を上げた。

「ちっと狭いけど一緒に寝ようぜ。」


塔矢は少し躊躇していたが着ていたシャツを脱いで電気を消した。
自分で誘っておきながら照れ臭くなってオレは視線を天井に移した。

塔矢がベッドに入ってきて並ぶように天井を見上げた。
塔矢の気持ちにオレはちゃんと答えなきゃな。


「塔矢、オレこの前お前を殴っただろ?」

「ああ」

「本当はさ、あの時オレ期待してたっていうか、」

オレは照れ臭くなって顔を布団に埋めた。

「その・・・・嬉しかったっていうか。けどそんな風に一瞬でも思った
オレが許せなかったっていうか・・・。
お前のせいじゃねえのに・・・。お前への想いを認めたく
なくて。矛盾ばかりオレやってて。」

塔矢はオレの手を握ってくれた。その手は温かかった。
繋いだ手からこの想いも伝わっていきそうな気がしてオレは繋いだ手に
ぎゅっと力を込めた。

「もう迷いはない?」

「認めたらすっきりした。」

向こうの世界に行って気づかされた。
繋いでいた手が離れて塔矢がオレを抱きしめた。
オレはそれに応えるように背に手を回した。

「オレもお前を愛してる。」

そう言った瞬間ますます塔矢への想いが加速していく気がした。

「進藤。」

密着した互いの心臓の音が伝わってくる。
きつく抱きしめられ胸が苦しくなる。

だからもっともっとと塔矢を乞うようにしがみついたのに
その痛みはどんどん増してくようだった。

まるでお互いが足りないというように・・・。

「そんなことを言われたら制御できなくなるだろ。」

オレは意地悪く言ってやった。

「オレの体調が悪いからしねえんだろ?」

オレの挑発に塔矢が噛みつくようなキスをした

「すまない。もう限界なんだ。」

オレだってそうだった。




塔矢を受け入れるように目を閉じると
ホテルであいつらが抱き合ってる姿が脳裏に見えた。

なんかすげえ複雑な心境だ。

・・・・たく、お互いの対局前はしねえんじゃなかったのかよ。
悪態をつきながらオレは苦笑した。

そもそもなんで今そんなものが見えちまったのかわからなかったけれど、
覗き見てしまったような気分だ。

けどお前らも仲直りしたんだ。
オレだって少しは役にたったんだな。

ひょっとしたらあいつもオレたちがこんなことしてるの見てる
かもしれない。
オレはこれ以上覗くのも悪趣味な気がして目を開けた。


暗闇の中、塔矢がまっすぐにオレを見ていた。


「塔矢、オレももう限界。」

「進藤・・・。」




だったら負けじと見せつけてやればいいとオレは塔矢にしがみついた。

そしたらあいつが「ようやく素直になったか」と笑ったような気がした。


                         



                                    2012 10 END
   

                                





あとがきだったり・・・。


最後まで読んでいただけて光栄デス。
途中更新が1年も開いてしまいましたが。
前作からだと6年越し完結?になるんですよ。長〜い
8か月だったな〜と今更ながら思ってます(苦笑)

今作も相変わらず女だったり男だったり忙しい話で。
でも描いててすごく楽しかったデス。
次回作が暗いお話の予定なので気分転換にも頂いたリクエスト
でこちらの2人(4人)の短編なども書けたらいいな〜と思ってます
ので気長に待って頂けたら嬉しいです。

それでは次回作でもお会いできることを祈って。
                         2012 10 17  堤緋色
   


碁部屋へ


ブログへ