夢伝説1






     
「なあアキラ今日は梅雨なのにすげえ天気が
いいんだぜ。快晴だ」

アキラからの返事はない。
ヒカルは渇いた空に話しかけるように続ける。

「明日も晴れるといいな〜。七夕だもんな。
・・・お前の体も拭いてやんないと。」

眠り続けるアキラに優しく声を紡いでく。


アキラが閉じこもってからもう2年。
閉じこもっていてもヒカルの声は届いてる、そう信じて
ヒカルはアキラに語り続ける。





『塔矢のバカ。お前は作り物のオレで満足してたのか。
忠実で利口なダッチワイフがいいのかよ!!起きて返事しろ、
俺はここにいるだろう。俺と一生夢の中で暮らすのかよ。
俺は絶対に許さねえからな!!』


アキラがここに戻ってきた当時ヒカルはそう言って
怒鳴り、叫び、泣いてアキラを揺さぶった。

だが、あれから2年たった今 ヒカルの考え方も変わってきていた。
人は変われるのだ。オレがそうであったように、

だから『塔矢を信じて待とう』と。






いつもと同じ何の変哲もない今日という1日。



『・・・・ヒカル』

声のするほうをヒカルは振り返る。

目を開けたアキラがこちらを見ていたのだ。
この瞬間をどれ程に待ち続けたろう。


「塔矢」


ヒカルは慌てて駆け寄るとアキラを強く抱きしめた。

「塔矢のバカ バカ野郎 オレがどれだけ心配したと思ってんだ」

起き上がったアキラもヒカルの背に手を回したがその違和感に
気づきヒカルを突き放した。


『ヒカル』は『塔矢』などと僕を呼ばない。
それだけじゃない。心音があった。息も、あった。
それにアキラを罵るような言葉遣い。
こんなものを覚えさせた記憶はなかった。


「君は ヒカルじゃない」

「なんだよ。お前はまだ夢を見てるのか。それともまた
現実から逃げるつもりなのか!!」

「何の事だ。お前は誰だ。僕のヒカルをどこにやった」

2年間アキラに叫び続けてきた言葉は届かなかったのだろうか。
すべてアキラのアンドロイドに打ち消されてきたのだろうか。
ヒカルは悔しくて肩を落とし唇を噛んだ。

「鏡を見てみろよ」

アキラは手渡された鏡を覗き込み驚愕した。
鏡の中にはヒカルがいたからだ。
それは間違いなくアキラの作ったヒューマロイドのヒカルだった。

「なぜ 僕が?」

アキラの腕から鏡が滑り落ちた。
それは床に落ち砕け散った。


「お前のヒカルはお前のボディになったんだ。」

「ヒカルが僕のボディに・・・」



アキラは愛おしそうに自分の体をぎゅっと抱きしめ嗚咽した。
ヒカルはそんなアキラの腕を掴むと無理やりベットへと押し倒した。

「まだお前はわからないのかよ」

ヒカルがアキラの唇を激しく奪う。
ヒカルの手はアキラの服を肌蹴させアキラの肌に触れたはずだった。

だが、アキラはキスもその触感も感じなかった。

「やめろ。僕のヒカルはこんな事、」

「お前のヒカルはこんなことはしないよな。お前の言うとおり
抵抗もせず、忠実にお前に従い、そしてお前と一緒に死んだんだ。
もういいかげん理解しろ」

「ヒカルは死んでなどいない。僕もここにいる。」

アキラはヒカルをもう1度突き飛ばし、耳を塞ぐ。

「ああ、そうかよ。それなら勝手にしろ。いつまでもいつまでも
夢の中だけのアンドロイドを抱いてろ!」




夢から覚めてもなお アキラはヒューマノイドのヒカルを
想う。



自分の理想は夢の中にあったのだ。
ヒカルと一つになった体を抱きしめる。
醒めない夢ならどんなによかったのかと。




     










碁部屋へ


ブログへ