SAI〜 この手が君に届くまで 11



ヒカルは僕のほんの目の前に着地して鼻を鳴らした。


「へへっ」

「君は一体ここがどこだかわかっているのか!!」

僕は大声を張り上げていた。本当はこんなことをいいたかったわけじゃ
ない。
彼に会ったら言いたい事がいっぱいあったのに・・。
それは全て飛んでしまったいた。

「んな、怒鳴んなくたってわかるって。」

ヒカルはため息をつくとサイを仰いだその時だった。
誰かがこの格納庫に入ってくる気配がした。

僕は慌ててヒカルを人目のつかぬところに移動させようと手を引いたが
肝心のヒカルは動かない。
ヒカルは心を読む能力がある。
僕は繋いだ手からテレパシーを送るようにヒカルに念を送った。

『君はここにいてはいけない。すぐテレポートして逃げるんだ。』

だが、ヒカルは動じず足音の主の方が一歩早かった。

「塔矢お前、体の方はもういいのか?こんな所でなにしてんだ。」

入ってきたのは同じ候補生の和谷だった。

「ああうん。急にサイに会いたくなって・・。」

僕はこの期に及んで言い訳はしなかった。
和谷は珍しく目を細めると先ほどのヒカルと同じようにサイを仰いだ

「お前でもそんなことがあるんだな。」

「君も・・?」

僕は先日伊角と和谷との一件を思い出していた。
2人の間にはまだわだかまりがあるのだろう。

「それより、そっちのやつ見たことねえやつだけど新入りか?」

当然聞かれるだろうと思って和谷に声を掛けられた時からある程度の
返答は考えていた・・が僕より先にヒカルの方が和谷に話しかけた。

「オレ進藤ヒカル。入ったばっかの新入りでCクラスなんだ。
よろしくな。」

まるでウソをついてるとは思えない口ぶりでヒカルは和谷に
手をさし出した。和谷は差し出された手をぎゅっと握り返すと
笑った。

「オレは和谷。オレの方こそよろしくな。」

「じゃあまたな。」

ヒカルは和谷の手を放すと今度はせかすように僕の腕をひっぱった。

「塔矢今度はあっちにいこうぜ。」

「えっ?ああ?」

僕がヒカルに強引に引っ張られていくのを和谷は苦笑してみていた。
たぶん僕が誰かにこんな風に振り回されるのは珍しいんだ。
僕だってどうしていいのかわからないのだから。

足早に格納庫から出た僕は小さくため息をつくと彼に言った。

「それで君はこれからどうするつもりなんだ。」

これ以上ここにいるとまた誰に遭遇するとも限らない。
それに候補者の中には実態の本質を見抜く能力者もいる。

「う〜ん、そうだな。この間お前と・・・それとも・・。」

ヒカルは口の中でぶつぶつ独り言をつぶやいていたが、「よし決めた!!」
と一人何かを決めてしまったようだった。
僕には全く彼の考えていることなど理解できそうになかった。

「アキラ・・・行くぜ。つかまってろよ。」

あの時と同じように空間が僕とヒカルを取り巻いた。
また唐突にワープするのだろう。
今度はどこに連れて行かれるのか・・・?
期待と不安の入り混じったまま空間のトンネルにヒカルと入った。

けれど、今感じてる不安は救護室にいた時に感じていたものとは明らかに
違うものだ。
むしろ今の僕は満たされた気持ちでいっぱいだった。

彼が堕天使であることは百も承知してる。
またすぐ別れが来てしまうのだという事もわかってる・・・

握られたヒカルの手に力強く指を絡めるとヒカルが笑った。

「アキラって意外と怖がりなのな。オレの手を放さねえかぎり
落ちたりしないから。」

僕はそれを聞いて苦笑してしまった。

「そうだな。落ちないように君の手をしっかり握っているよ。」

やがて暗闇の先に小さな光がさし始める。

「アキラ、もうすぐだぜ。」

トンネルを抜けてたどり着いたのは見慣れた僕の部屋だった。






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