RAIN

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改札を出ると容赦なく雨が叩きつけた。
でも後戻りはしない。

アキラが向かう先はただ一つだ。

この雨のせいか夜の住宅街は人影もなく、
アキラはその家の2階を見上げた。
進藤の部屋の電気は付いていなかった。

・・・いないかもしれない。
後先考えずに行動をした事をアキラは少しも悔いていなかった。


傘をさしたままアキラは携帯を握る。
雨粒の音でコールも曇っていた。

「もしもし・・・。」』

背後から近づいた足音に振り返るとそこに同じように傘をさした
まま携帯を握る進藤がいた。

「塔矢?」

握りしめた携帯の通話を切り、ポケットへと押し込む。

「お前また・・・唐突だな」

進藤は口を尖らせて憎まれ口を叩く。
だがそんな進藤も愛しいと思う。今ここで会えたことが堪らなく
嬉しい。


「ああ、どうしても君に逢いたくて」

「衝動的すぎだろ!?」

「時々、抑えられなくなるんだ。こと君に関しては」

アキラが苦笑すると進藤は露骨に溜息を吐いた。

「少し歩かないか?」

「この雨でか?」

「いいじゃないか、雨の中も」

アキラが歩きだすと、渋々でも後を追ってくる所が
進藤らしい気がした。

「それでこの雨でどこに行くんだよ?」

「この間の公園はどうだろう?」

先日座ったベンチには簡単な雨除け(日よけ)があった記憶があった。

「ええ、あそこ?びしょ濡れでぬかるんでるぜ」

「砂浜とそう変わらないよ」

「絶対違うだろう!!」

進藤は怒鳴ったが。

先日進藤と歩いた砂浜を引き合いに出した
のは、あの日の苦い記憶を吹き飛ばしたかったからだ。

「そう?あの後靴に砂が入って大変だったんだ。替えのシューズを持っててよかったよ。あの砂だらけの革靴で対局に臨むわけにはいかないだろう、」

アキラはあえて含んだ言い方をした。
進藤はあの時の靴のまま対局に来ていた。
もちろん進藤が砂を落としたのはわかったが、細かな砂粒が
残っていた。

「お前・・・サイテーだな」

小さくつぶやいた進藤にアキラは苦笑した。
すでに公園は目の前だった。

案の定この雨で公園には人はいなかった。
思った以上にぬかるんだ地面に足を取られ、泥の間を抜けて目的の場所についた。

幾分雨除けにはなっているがベンチは濡れていて座ることは
出来なかったし、雨除けは「トントントン」と雨音が足早に
叩きつけ周りの音をかき消すようだった。

それでも進藤と話が出来ればいいとアキラは傘を畳んで、ベンチに立てかけた。
進藤はそのままだったが・・・。



「わざわざこの雨で、一体なんだよ」

雨だからこそ出来ることもある。
伝えることも出来ることもある。

「どうして君はいつも喧嘩越しなんだ」

「今のオレとお前は慣れあう状態じゃないだろ?」


沈黙が流れる。お互いそこから動くことが出来なくて、アキラは
傘を伝う雨を・・・進藤を見つめた。

「君が好きなんだ」

ふいを突かれたように進藤の傘が揺らいだ。

「応えられないって言ったろ」

「わかってる」

「だったら諦めろよ」

「諦めることなんて出来ない」

アキラは雨音に負けないように声を張り上げた。

「僕は絶対に諦めない」

2度目は噛みしめるように・・・届けとばかりに言った。

「君は僕の想いに応えなくてもいい。
それでも僕は君を愛し続けるし、想い続ける」

「何言って・・・」

「僕は今幸せなんだ。君を想う気持ちで」

僕は心を示した。

「満たされてる」

傍にいるのに見えない進藤に
アキラは傘を持つその手を掴んだ。

「とう・・」



進藤はホテルで抱きしめた時のように震えていた。
暗くて表情が見えなくても、掴んだ腕からその想いは伝わってくる。

掴んだその手に飛び込みアキラはその震えを全身に抱き寄せた
一瞬払おうとした手は払われず、かわりに傘が転がった。

「バカ野郎!!」

「ああ、どうしようもなく、君が好きだ」

進藤の溢れる涙を胸で受け止めながら、アキラ自身も涙が伝い落ちそうで、進藤の温もりを自分の体温で抱きしめる。

「バっ・・・」

再度バカと言いかけて、飲み込んだ進藤のその口元が肩が僅かに揺れた。



「す・・・・・きだ」

微かに動いたその唇が、それでも振り絞ってくれたのだと思うとこみ上げ来た想いのままアキラは唇を奪った。




冷え切っていたはずの体に火がついたように全身駆け抜ける。

アキラの腕にしがみ付く進藤の指の力が強くなり、それはアキラを煽っているようで、もっともっとと、キスは深くなる。



心と心が重なってく。









雨音が少し遠くなる。





まもなくこの雨も上がるのだろう。
でも今しばらくは、このままで・・・。
                             





RAIN











念の為完結です〜

いつも私の妄想2次小説にお付き合い意だたいてるお客様、そしてこのお話が
初めてというお客様もここまで読んで下さってありがとうございます〜。

作者としても、読者としても・・・。読み終えた感想を書きますと。

『これで終わりなん?』ってことデスよ。
終えたばかりのはずなのに「書き足りん!」と思ちゃってるし。
『この二人この後どうなるん?」
『第一ヤっとらんやんっ』て(爆)←突っ込みどころが色々と・・・。

これは書き足さんといかんですな(苦笑)

「なぜか」『RAIN』というタイトルをつけてしまったので意識して雨を取り入れましたけれど。雨もいいもんだな〜とちょっと思ったりしました。

次の作品に手を掛ける前にお客様から頂いた宿題を書きますね。RAINの今後も宿題かな(笑)
                  2014 5月14日





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