RAIN

17

 

     




名人戦4局目の1日目、緩やかに始まった対局が激しく戦いへと
突入して、1日目が終了した。


ここで明日に持ち越し・・・。
アキラはまるで体の中までが火照ったような錯覚を覚えた。
明日の対局がすでに待ち遠しい。出来るならこのまま
続けたかった。


ずっと対面していた進藤の顔にようやく目を移すと、一瞬目が
合ったが逸らされ進藤の方が先に椅子から立ち上がった。

進藤は怪我をした足のギブスは外れていたがこの棋戦の間は椅子での対局にすると決めていた。

ガヤガヤと周りに音が戻り始めて、アキラは進藤の
後を追うように立ち上がると、壁際に緒方がいることに気づいた

今日は解説でも仕事でもなかったはずだ。
進藤に話しかける緒方に平静を装い会釈して過ぎエレベーターに乗りこんだが内心は穏やかでなかった。
熱くなった心と体が行き場を探していた。



アキラが部屋を訪れたのは9時を回った頃だった。
ここの所の自分の行動は突発的で、それは重々わかっているのだがアキラは事進藤に対しては自分でも制御できないでいた。

何度もノックしても進藤は出なかった。

『緒方が部屋に居るのではないか?』
頭を掠めた疑心に『進藤を信じられないのか?』
と打ち消す。

その自問自答をしている間が随分長く、もう諦めようと足を背向けた時、部屋から足音が向かってきて扉が開いた。

「塔矢?」

「進藤・・・」

「えっと・・・」

進藤は困ったような顔をした後、頬を赤らめた。

「お前な、何でいつもこう唐突なんだよ」

それは進藤の照れ隠しのようにも思えた。

「すまない。少しいいだろうか?」

「お前の謝罪は心がないんだよ」

そう言って進藤はため息を吐いた。

「まあ、ちょっとだけそこで待ってろ。部屋片付けてくるから」

そのまま部屋をしめようとした進藤に無理やりアキラは扉を開け飛び込んだ。

「塔矢、お前・・・」

文句も怒鳴り声も一緒に進藤を抱きしめた。

「いきなり何すんだよ!!」

抵抗しようとした体を強く抱きしめると抵抗も反論も消えて行った

お互い言葉もなく、アキラはただその温かな体と鼓動を
彼の呼吸を抱きしめる事で感じていた。

そうしてしばらくアキラは待った。

進藤がその腕を返してくれないかと。
応えてくれるのではないかと・・・。

けれど進藤は拒否もしなければ応えようともしなかった。
それでも抱きしめたその震える体には葛藤があって、それがわかったからただ抱きしめ続けた。

ややあって、限界になった進藤が声を上げアキラを押しやった。

「公私混同してんなじゃねえよ、バカ」

「公私混同じゃないだろう。今はプライベートだ」

「プライベートって、オレのプライベートに土足でずかずか上がってくんなよ、お前は待つことも出来ないのか」

口を尖らせる進藤にアキラは苦笑した。

「僕に見られたくないものでもあるのか?」

「ありすぎだ」

部屋をすっと見回すと進藤は膨れっ面をみせたが、
アキラが見て目についたものは床に置かれた碁盤ぐらいだった

遠目からでもわかる、それは今日の打った打ちかけの碁だ。
その先も検討の形跡があって、確かにそれはアキラに見られる
わけには行かないだろう。

「僕も部屋に戻って一番に並べた。何度も並べて、そして君にどうしても会いたくなった」

アキラは傍にある彼の手を引くと逸らされた瞳を掴めた。
その大きな瞳に吸い込まれるように唇が触れた。
軽く触れるだけのキス。
進藤の息を感じ、それだけで体に火がついたように熱くなる。

「ヒカル・・・」

そう耳元でつぶやくと彼の頬が一瞬で耳まで染まった。

2度目は躊躇せず、舌に触れた。
進藤の体が拒否するように僅かに力を入れたが、
構わず侵入して逃げる舌を絡め、指も絡めた。
長いキスにもっと・・と。

ますます心も体も惹かれ、乞い、拍車をかけていく。アキラは
寸でで止めて、自ら離れた。

「すまなかった」

進藤は放心したようにアキラを見ていた。

「愛してる」

進藤は口を開けたがそれは言葉にならなかった。

「今日はもう自室に戻るよ」

探してもそれ以上に言葉がみつからなくて、
だからと言って触れることも出来ず、途方にくれたようにお互い動けなくなる

それでも確証があって、だから区切りを付けられたのだと思う。

「明日・・・」

アキラは踵を返した。





アキラが部屋から消えた後、ヒカルはぼそりと呟いた。

「バカ野郎、お前は何しに来たんだ。」

部屋に入れるべきでなかった。
オレはお前に応える気なんてない・・・。

『くそっ』と声を上げ、拳を握る。

どんなに強がっても惹かれる方が強い。それどころかますます
拍車をかけてアキラを求めていた。

先ほどアキラが言った言葉や触れた熱を思い出し、何度もそれを巻き戻そうとする。

ヒカルは自身の体を抱きしめた。アキラの熱をもっともっと留めて思い出すように目を閉じた。

「あっ」

小さく声を上げ、自己嫌悪に陥った。それでも一度高ぶった
熱をやりきる事は出来なかった。


ズボンを緩めそこに手を伸ばす。
すでにそこは張りつめていた。

抱きしめられた腕の強さも、キスをした生温かな舌の感覚も
ヒカルの中にあって、片手で弄びながらその温かさを求めるように体を抱いた。

「アキラ・・・アキラ・・・」

あいつだって今オレを求めてしてるかもしれない・・。
一度だけアキラが『ヒカル』と呼んだ時の熱と声に抱かれる。


勝手な妄想はますます行為をエスカレートさせヒカルは自身を
追い詰める。

「愛してる。アキラ!!」



求めていたのに回せなかったアキラの背を空に思い切り伸ばした。




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あっちゃー、思いつかんかったからってやってしまったんじゃ(苦笑)今春休み中なので(執筆中)子供部屋からずっと碁石の音がしてるのです。つくづくこんな腐った話書いてる自分に反省したい。でも辞めれんのだ〜(滝汗





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