ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 4章 正体9 ヒカルはマンションを飛び出し、階段をいっきに駆け下りた。
心臓の早い音、切らす呼吸にようやく立ち止まったのは まもなく日も暮れようとする海辺の公園の入り口だった。 ヒカルの横を家路を急ぐサラリーマン風の男が過ぎていく。 落ちていく陽は綺麗なのだろうが、今はただお訪れた虚無感にヒカルは 体を落とす。 『ヒカル!そんなに慌てて待ってください!』 佐為の声が背後でする。とうとう空耳まで聞こえるようになったかと、ヒカルは 自笑するように口元だけで笑って、ハッとした。 『ヒカル!』 はっきり聞こえた声に振り返る。 「佐為っ!」 そこには何事もなかったかのように夕暮れに浮かぶ佐為の姿があった。 「お前一体今までどこに!」 公園にまったく人がいなかったわけじゃないが、ヒカルは叫んでた。 『すみません。それよりヒカルどうしたのですか、そのひどい恰好、 髭も似合いませんよ!』 ヒカルは本当に佐為なのかと上から下まで見下ろしそうして 『もう!』と叫んで、その場にしゃがみこんだ。 「大丈夫かい!?」 犬の散歩に来ていた老夫婦がわざわざ離れていたヒカルの傍に駆け寄った。 「す、すみません。大丈夫です!!」 ヒカルは立ち上がって2人に深く会釈して、とにかく『一人になれるところに』 と公園の奥にあったベンチをずんずんと目指した。 そうしてようやく腰を落ち着け、ゆっくりと深く深呼吸した。 「すげえ心配したんだぜ?」 『はい、ヒカルの心労は私にも伝わってます。私もこんな事は初めてでしたし』 「で、何があったんだ?」 佐為は支部の緒方の部屋に行く途中で弾き飛ばされた事、 しばらく空に浮くように漂っていた事をヒカルに話した。 『そうしてしばらく漂っていたらヒカルの気配を感じて、 ヒカルの置いて行っていた携帯に依代ってたのです』 「どれくらい?」 『すみません。感覚的にはそれほど長い時間ではなかった気がします。 ただ私の感覚はあてになりませんが』 佐為とヒカルが初めて会った時も、佐為は長い休眠状態から目が覚めた ようだ、と言っていた。実際にその前にあった人物が数百年も前だった いうのだからそうだったのだろう。 おそらくそれに近い状況だったのだろうと察しがついた。 マンションの部屋になんとなく佐為がいるような気がしたのも、ヒカルもまた 佐為に引き寄せられたのかもしれない。 『それでヒカルはあの後、どうしたのです?』 「それは・・・」 ヒカルは口ごもった。流石に佐為にもあんな事を言えそうになかった。 口ごもったヒカルに佐為はふわりと浮いた。 そうして何も言わずヒカルを抱きしめた。 触れることはできなくても、温かな感覚が胸の奥から湧き上がってくる。 知らず知らずヒカルは涙が溢れだしていた。 『こんなに痩せて、辛い思いをさせてしまいました』 佐為とは感覚的に繋がってる。何があったかわからなくても、感情は 伝わってる。 「佐為のせいじゃないだろ?」 鼻をすすったがどうしようもなかった。 『それでもです』 ヒカルはひとしきりえぐえぐ泣きじゃくり、そうしてようやく笑った。 「ありがとうな。佐為、なんかすげえホッとしたら腹減った」 『よかったです。ヒカル服もヨレヨレで少し臭いですよ 頬とか、髭もまったく似合いません!』 佐為の嗅覚はもう感覚からくるものでヒカルはそれに噴き出した。 「あーもう、わかったよ」 『それとアキラくんに私が見つかった事すぐ連絡してください!』 「な、あいつはいいよ」 『良くありません!』 今までの口調と違って佐為は唇を尖らせた。 『先ほど部屋で言い争っていませんでしたか?』 「なっ、まさか聞いてたのか?」 『聞いてませんが何か聞かれると困ることだったのですか?』 逆に佐為に聞き返されてヒカルは、思わず困ったように目を反らした。 佐為は聞いていた可能性がある。 いや、携帯を依り代にしていたのだとすると、間違いなく聞いていただろう。 今その携帯はヒカルが持っているのだから。 だったらもっと早く出てきてくれたらいいのに!っと思ったがそうはいかない事情が 佐為にもあったのだろう。 そして、ヒカルとアキラが仲直りする機会だと佐為は思っているかもしれなかった。 けれど、佐為が許しても先ほどアキラが言った事を許せそうになかった。 『私が依代にした携帯を組織取りに来てくれたのもアキラくんだったのでしょう?』 「休眠していたんじゃないのか?」 『休眠していても夢の中のようにそういう感覚はあるのですよ』 そういって佐為は小さくため息を吐いた。 『とにかく、後生ですから、アキラくんに私が見つかった事を伝えて欲しい のです。そして『ありがとう』と、ヒカルの言葉じゃなくて構いません。 私の言葉として伝えてはくれませんか?』 『私には術がない』、という佐為に折れヒカルは止む無く携帯を開いた。 「それで何って送ればいい?」 『貴方のお陰でヒカルにまた会うことが出来ました。ありがとうございます。 これからもヒカルを支えて欲しい』っ、それから・・・。』 「あーもう、『佐為が見つかった』っだけでいいだろ!」 ヒカルは打ちかけた文字を消して、さっさと送信した。 『ヒカル!』 恨めしそうな佐為の声を聞きながら、ヒカルは大げさすぎるほどのため息を漏らした。 アキラの事は正直わからない。 『佐為なんていなくていい』と言ったアキラ、 今思い出しても胸が震えるほどの怒りだった。 ただヒカルを『愛している』 そう言ったアキラの瞳は苦悩に揺れていた。 ポケットの中メールの着信を告げる携帯音。間違いなくアキラだろう。 一端ヒカルはポケットに手を入れてそれを辞めた 『ヒカル、ほら、ご飯食べに行きましょう!』 先ほどまでの佐為はどこに行ったのか、はしゃぐ佐為に引っ張られる。 とりあえず『佐為がここに居る』、今はそれでいい。 煩わしいことは後回しと、ヒカルは佐為に引かれるまま歩き出す。 一言 ようやく更新すみませんm(__)m 『正体』はここまでとなります。次のサブタイトル思いつかない💦どうしよう😨 |