ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 人ならざるもの1 ヒカルとアキラの任務は本当に唐突だった。 『そういうものなのだろう』とヒカルは顔を顰めて任務内容に目を通す。 『思ったより早かったですね』 ヒカルは仕事内容を確認した後、佐為が読みやすいように1枚づつ広げて机の 上に置いた。 「ああ、まあけど半年ぐらいでよかったかも。あんまり長く空くと、オレ自分が ハンターだったこと忘れちまいそうだし・・・にしても、ひでえ仕事だよな」 一通り読み終えたヒカルは苦笑いを浮かべた。 勤務地・・・といえるかどうかわからないが、配置は拘置所だった。 それも死刑囚として、入所するのは死刑執行施設だった。 任務と言え、背に冷たい汗がつたう。 まさかと思うが一生出てこれないとか、刑が執行されることがありはしない だろうか。 それに今回アキラとヒカルが赴くことになった 『死刑執行施設で起こってる、不可解な連続の変死事件』というのも引っかかった。 死刑執行が決まった囚人が、執行前に亡くなる・・・という事件が この半年に2度起きている。 死刑囚の執行日は当日知らされるのだが、その前日に亡くなったらしい。 情報の漏えいか、拘置所の生活に悲観した囚人が自殺をしたとも・・・と考えられたが 2件目で、人的でないと判断されたようだった。 外傷がほとんどないのに死因が体内の血が急激に減ったことが原因とされたからだ。 バンパイア(吸血鬼族)・・・の可能性は高い。彼らは『自殺を装い吸血 死させること』に長けてる。 またこういった事件は公にされない。人外な彼らは『ただの噂であって』世界中で 存在を文字通り『消されている』 だからヒカルたちのような存在も表だつことはない。今回だって潜入捜査 を知ってるのは施設内で『アキラとヒカル』しかない。 潜入するヒカルもこの事件に巻き添えを食う可能性だって考えられた。 そんなヒカルの心配を他所に佐為は『アキラくんは刑務官なんですねえ』と神妙にいう。 「あいつはいいよな」 『そうですか?』 「そうだよ。刑務官なら自由もあるだろ。外部とも繋がれるし、 なにより命の危険はオレほどじゃないさ」 『でも刑務官はヒカルには無理ですよ。刑務官になるには難しい試験に訓練もあると 書いてあります。任務以外に刑務官としての仕事もこなさなければならないでしょうし、』 「・・・そんなのわかってるよ」 ヒカルは頬を膨らませた。本気で怒ったわけじゃないが、佐為のその言い草が 気に食わなかったのだ。 「ヒカルには私が憑いています。大丈夫です」 『任せてください』と胸を張る佐為にヒカルは心の中で苦笑する。 『それにいざとなればアキラくんが助けてくれますよ』 佐為が言う通りこの状況では、頼れるのも信じられるのもアキラと佐為しかなかった。 「せめてオレ外部と通信できればいいんだけどな」 『それは組織が考えてくれるでしょう』 「ああ でないとな」 今から不安を抱えてもしょうがない。やるしかないのだから。 ヒカルは先に任務に赴く事になるアキラに直前で電話した。 「ヒカル?」 「うん、えっと・・・」 そういった後、何をどういえばいいか探したが見つからず言葉を失う。 アキラもそうだったのか、そのあとの会話が続かなかった。 よくよく考えればアキラとは半年前に1度しか、会ったことがなく、会話もそれ以来だった。 数秒の間の後、ヒカルは困ってため息を吐いた。 アキラはそれでも何も言わず、ヒカルを待ってくれた。 「オレお前の事信じていいか?」 やや震えた声は隠しようがなかった。 「何があっても、僕を信じてほしい。君は僕が守る」 「お前な・・・。」 思わず照れくさくなって、携帯を持つ手の先まで真っ赤になった気がした。 電話でよかったなどと、どうでもいいことを思い、照れ隠しに『もう なんだよ』と 口元から漏れた。 「けど少し肩の荷が降りた」 「僕は刑務官で、君は囚人だから。表立ってはその関係は崩せない。 でも何があっても僕を信じて欲しいんだ」 「わかってる。ありがとう、オレ何があってもお前を信じる」 携帯を切ってヒカルは改めて、アキラに電話してよかったと思った。 たった一言でも伝わることはある。様子を見ていた佐為が冷やかすように笑った。 『ヒカル、まるで恋人と会話してるようでしたね』 「なんだよ。それ!!」 『戦地に赴く恋人、いや、同志ですか』 「もうお前よくこの状況でそんな冗談言えるな」 そういっても佐為は懲りず、いろいろ言ってる。 まったく・・・『勝手に言ってろ』という感じだ。でもそれはオレの緊張を解くためだってことも ヒカルはわかっていた。
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