ひかる茜雲


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小姓部屋に戻ると小姓たちが囲碁を囲んでいて筒井もその中にいた。

ヒカルは先ほど緒方に言われた事を筒井に聞いておきたかった。
緒方から『芦原には言うな』と釘を刺されたが、他の誰にも言うなとは
言われなかった。
だから大丈夫なはずだ。
だが、どうにもタイミングが悪かった。


「交代だね」

筒井はヒカルを見て立ち上がり、小声でヒカルに言った。

「佐為様から文を預かってるよ」

思わぬ佐為からの手紙にヒカルは胸が高鳴った。
きっとその手紙には塔矢行洋やアキラの事が書いてあるはずだ。
ヒカルはその文を恐る恐る受け取った。

「筒井さん、ありがとう」

「僕は緒方様の所に行くから、また後で」

「あっ、うん」

筒井に先ほどの事を聞きそびれたのは心残りであったが、それ以上に
今は佐為からの手紙の方が大事だった。

ヒカルは自室に戻るとすぐにそれを広げた。



「ヒカルへ

緒方様との対局はどうでしたか?
今のヒカルなら緒方様が認めて下さるだろうと信じています。

塔矢行洋殿の事、きっと気にしてるだろうと思ったので文を残して
行きます。

行洋殿は一時危ない状況もあったようですが、一命を取り留め
今は落ち着きを取り戻されたと伝えがありました。

屋敷を焼失なされてから、仮住まいの宿や、縁あるお屋敷
を転々とされていたので
そう言った心身の負担が重なったのだろうと思います。

仮住まいの療養の為、アキラくんは今一度新橋に戻ってくると
連絡がありました。
次にヒカルが道場に来るときには会えるかもしれませんよ。
また三人で花火をしましょうね。



藤原佐為




ヒカルは佐為の文を読見終えて、胸を撫で下ろした。
次に道場に行く時にはまたアキラに会えるかもしれないのだ。
それに塔矢行洋も大事ないのなら良かった。

緒方に江戸に残っても良いというお許しももらい、ヒカルは満ち足りた
気持ちでいっぱいだった。
この気持ちを早く佐為やアキラに伝えたかった。

高揚したヒカルが棋譜を捲ったのはそれからすぐの事だった。




夕刻前になってヒカルは慌てた。
緒方に風呂に入ってくるように言われたのに、夢中になりすぎて時間を
忘れてしまったのだ。

入る時間もなく、迷った挙句ヒカルはそのまま緒方の元に行く
ことになった。筒井と交代するとヒカルは頭を下げた。

「すみません、オレ風呂に入ってくるように言われたのに、
入ってなくて」

緒方は少し呆れたようだった。

「なんだ、寝過ごしたのか?髪もボサボサだぞ」

「ええ」

ヒカルは慌てて髪を立て直すよう手櫛で整えた。
だがそれは緒方の冗談だった。

「飯を食ったらオレの風呂を焚いて貰え。オレが入ると言ったら、風呂番が
準備する。お前は湯浴みを取ってこい」


夕飯の後、緒方の言われた通りにして、緒方と共に浴場に向かう。
風呂番が待ちかねたように緒方に会釈した。

風呂番はいつ来るかわからない緒方の為に風呂の湯加減を調整しな
くてはならないからだ。

「ご苦労だったな、今日はもういい。下がれ」

風呂番は丁寧にお辞儀してその場を立ち去った。

脱衣所に緒方と二人。
ヒカルはこの屋敷に来て風呂に入ったことはあった
が当然家臣用に宛てられた小さな風呂釜で自分で沸かさないといけなかった。

この浴場は緒方専用であり、踏み入れたのも初めてだった。

ヒカルは緒方の紐を解き、脱衣を手伝った。
慣れてきたとはいえ、背の高い緒方の着替えはまだヒカルには難しい所も
あり、緒方自身の手を煩わせる事もまだあった。

緒方の着替えが褌だけになると流石に恥ずかしさもあってヒカルは
手が止まった。

「どうした?」

意地悪く緒方に言われヒカルは顔を染めた。
やむなく、褌の紐を解き、それを慌てて片付ける。暗がりといえ、見ては
失礼だろうし、意識するのも変な気がした。

「お前も脱げ」

まさか、そう言われるのではないかとヒカルは戦々恐々としていた。

「いえ、殿の湯殿に入るなんて恐れ多いし、オレは後で家臣用の風呂に
入ります」

緒方が小さく溜息を吐く。

「全くオレが何の為にお前をここに連れてきたと思ってるんだ」

それでもヒカルは食い下がった。

「緒方様、オレをカラかっているんですか?」

「からかってなどいないさ。それに
お前はいつまでオレをマッパで待たせるつもりなんだ」

それでも戸惑いを隠せないヒカルに緒方は手を伸ばした。

「本当にしょうがない奴だな。だったらオレが脱がしてやる」

「ええっいや、その、」

ヒカルが自分で出来るという前に緒方はヒカルの服を脱がしにかかる。

大きな緒方の手はヒカルにも負けないくらい手早に脱がせ、戸惑う事なく、
褌もはぎ取れられて、
この時にはヒカルは風呂にも入っていないのに茹蛸状態だった。

「随分かわいいものだな」

緒方にそこを軽く揉むように撫でられ、ヒカルは戦慄いた。

「緒方様、カラカワナイで下さい」

「だから、からかってなどないと言ってるだろう」

腕をやや強引に引かれ、湯殿へと連れていかれる。
湯殿は広く立派なヒノキの風呂だった。

「お前は本当に分かっていないのか?」

何をと問う事が出来ずヒカルは緒方を見た。

腕を掴まれたまま、その緒方の逞しい胸に引き寄せられる。
緒方がしゃがむように腰を落とし、抱きしめられる。
唇が塞がれ、呼吸が出来なくなる。

ヒカルは唇が離れた瞬間、慌てて息を吸い呼吸を整えた。
その様子に緒方が笑った。

「接吻する間、息を止めていたのか。接吻の仕方もしらないのか?
本当にお前というやつは」

緒方はひとしきり笑った後言った。

「今晩お前をオレのモノにする」

ヒカルは緒方に腕を掴まれ導かれるようにそこに触れた。
ドクンドクンと緒方のそこは熱く脈打ってた。押し付けられた手を放す事も
出来ず恥ずかしさでどうしていいかわからなくなる。


「泣いても許しを乞うても聞かん、覚悟しろ」



                                         16話
     
                         
         



改めて書きますが、時代考証などは全くありませんので(笑)

Hシーン期待された方いらっしゃるでしょうか。
今回はヒカルが12歳という事でその辺りの情事はすっ飛ばそうかと思います。
えっ今更じゃないかっ?て(苦笑)





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