ベッドルームでこれからそういう事をしますという状況にどうして
いいかわからない・・・
塔矢に背後から抱きしめられた時には体が震えていたが
塔矢も僅かに震えを纏っていた。
「寒い?」
「いや、寒いわけじゃない」
塔矢の腕に力が籠る。
「オレ、体に自信ないぜ。胸だってないし」
「僕だって体に自信なんかないよ」
「いや、お前は男だし。それにオレはそんなの求めてないし」
自分の体を抱くように身を丸めると塔矢が僅かに笑う。
「僕も求めるのは君だけだ」
小っ恥ずかしい事をこれ以上ない至近距離で言われ、体温が
一気に沸騰する。
「バカ、変なこというな」
塔矢は一端腕を緩めると今度は正面からキスをする。
優しいキスを何度も繰り返し、それが少しづつ深く激しくなり、ヒカルは意識する間もなくアキラの腕にしがみついていた。
その時を狙っていたようにアキラの指がヒカルのワイシャツのボタンにかかる。
ヒカルは意図を悟って、腕を離し、塔矢から一歩下がった。
「進藤・・・」
「服脱ぐのか?」
当たり前の事なのだろう事を聞く時、塔矢の顔が見られ
なかった。
「少しでも君の体温を感じたいから」
しばらく 葛藤があり、小さく頷いた。
「だったらオレ・・・自分で脱ぐから。電気を消してくれないか」
塔矢に脱がされるぐらいなら、まだ自分で脱衣した方がましな気がした。
「わかった」
塔矢は電気を消し、ヒカルから背を向けるようにベッドに腰を下ろした。
それに少し安堵して、自分のシャツに指を掛ける。このYシャツは今日の対局を迎えるに当たって伊角とぺアで揃えたものだった。
震えを纏った指は思うように動かなかった。
普段の着替えの何倍も費やしたろう。
けれど塔矢はその間ただ何も言わず待っていてくれた。
下着だけになり、流石にこれ以上は無理だと脱いだシャツを拾い上げ前を隠すように胸の前で握りしめた。
気配でヒカルが脱衣した事がわかったのだろう。
塔矢は静かに立ち上がりこちらを振り返る。
塔矢が服を脱ぎ始め、居た堪れなくなって視線を暗い床に落とす。
塔矢が脱いだ服を床に落とし、心臓がそのたびに大きく
脈打つ。。
ヒカルは落ち着けとばかりにシャツの上から胸を押さえた。
「進藤」
やさしく肩を抱かれる。
「そんなに身構えないで」
力を抜くと持っていたシャツがするりと取られた。
抗議する前に塔矢の唇が落ちる。触れた瞬間心臓が
止まりそうになる。
二人ベッドへと転がり、胸を優しくくすぐられた。
力が抜け、唇から吐息が漏れると、塔矢はその行為をますますエスカレートさせた。
「もう、くすぐったいだろ」
「くすぐったいだけ?」
肯定できず顔をふるふると振る。
また塔矢の顔が胸に落ちる。背に回された手がホックを外し
紐が落ちた。
「ああっ」
体が火照り、恥ずかしさでヒカルは両手で顔を覆った。
電気も付いていないこの部屋ではそんな事しても
無意味に等しいかもしれないが、それでもせずにはいられなかった。
塔矢はその行為を続け、やがて顔を上げた。
「進藤顔を見せてくれないか?」
手で顔を覆ったままいやいやをするように顔を振る。
塔矢は『じゃあ』と苦笑して、そんまま指を下へと滑らせた。
思わぬところに伸びた指に驚き塔矢の手を払おうと
した瞬間を狙って塔矢がヒカルの唇にキスを落とした。
塔矢はヒカルの唇を割り舌を侵入させた。濡れた舌が触れ合い唾液を交換する。
塔矢の舌に触れるたび、力が抜けてくようだった。
快楽と共に恐怖も感じる。流される。
塔矢の指がもう1度ヒカルの下腹部に落ち、ヒカルはおもいきり身をよじった。
唇が解放された瞬間ヒカルは後ずさりしてアキラから距離を取っていた。
「ヒカル」
初めて呼ばれた名前に驚いてヒカルはアキラを見る。
暗くても欲情を浮かべた表情が浮かんでいた。
「怖い思いをさせたろうか?」
裏腹に塔矢の声は落ち着いている気がした。
ヒカルは困って下を向きベッドのシーツを無意識近く掴んだ。
「怖いっていうかどうしていいかわからないんだ」
ヒカルを抱きしめた腕は優しかった。
「君が欲しい。一つになりたい・・・。でも僕の貪欲な欲情で
君を傷つけたくはない」
「オレは傷ついたりしてない」
ヒカルは必死に言葉を探す。塔矢に誤解はされたくない。がどう言えば伝わるのか自分にもわからなかった。
「けど一つにっていうのは・・・・。その」
ヒカルは以前あかりに言われた事を思いだしていた。
『もし塔矢くんとそうなった時、ヒカルはどうするのか?』
あの時は想像もつかなかった。ホンの数か月前の事だ。
ヒカルは必死に言葉を選んだ。
「いつか、いつの日かだぜ?お前の子を産んでもいいと思うけど今はまだ・・・。」
アキラは驚いたようにヒカルから一端腕を離すとその意図を確かめるようにヒカルをみた。
「進藤、それはプロポーズなのか?」
「えっ??」
なぜそうなったと考える間も与えられず、塔矢に強く抱き寄せられる。
「ちょっ、塔矢、苦しいって」
「嬉しい」
「何で?」
「すごくうれしいんだ」
「違う、あの塔矢プロポーズって言うのは誤解だ」
「僕との子を産んでもいい・・・と言うのはそういう事じゃ
ないのか?」
まさかそういう解釈になるとは思わずヒカルはあたふたする。
「だから、その言葉のアヤっていうか」
「君は他のだれかにもそんな事を言うのか?」
「言わねえよ、バカ」
塔矢はクスリと笑って、『それでも嬉しい』と言った。
ぎゅっと抱きしめた腕がもうこれでもかと言う程強くなる。
「塔矢・・・」
感情を露わにする塔矢に流石に『失言だった』と言えずヒカルは諦めて塔矢の背を抱き返す。
直接触れた肌と肌、直接響く心臓の音がこんなにも気持ちよく心地よいと初めて知った。
「ヒカル、一つになろう」
「いや、でも」
「君は必死に僕に応えようとしてくれた。その気持ちだけでも嬉しかった。
けれど、もう限界なんだ。心も体も・・・。
避妊する。それに優しくする」
男の生理現象を何となく察することが出来た。
ヒカルは長い溜息を吐いた。
ヒカルの答えなどとうに出ていた。でなければハナから家に帰ってる。
「責任取れよ」
やけっぱちで言うと塔矢が笑った。
「そんな責任なら喜んで取る」
そう言った塔矢が憎らしくも、愛しいと思うのだから重症なのだろう。
ヒカルは体の力を抜き目を閉じた。
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