交差点で立ち止まりヒカルは少し先を歩いていたアキラの横顔
を盗み見た。
切りそろえられた髪はあの頃より少し長い。
落ち着いたしぐさも大人びた横顔も4年の歳月の流れなのだろう。
それでも二人並んでたわいのない話をしているとあの頃がそのまま
戻っきたようなそんな気がする。あの頃はあの頃でつらいことがいっぱい
あったはずなのに今は懐かしいとさえ思うのだから不思議だ。
「どうかした?」
見られていたことに気づいたアキラが振り向いた。
「いや、お前やっぱあの頃と変わったかな?って、」
「そう?」
「うん、大人ぽくなった。」
アキラはそれに苦笑した。
「お互い二十歳を超えたんだ。もう大人だろう。
僕は君のほうがずっと・・・」
青に変わった信号音にアキラの声がかき消される。
「何?」
アキラにもヒカルの声が届かなかったのか足早に歩を進める。
後を追うヒカルはトクンと胸が高鳴るのを感じた。
交差点を渡ると商店街だった。
二人でそのまま適当に惣菜を買い込むことにした。
ヒカルはここの所通っていたコロッケ屋さんを示した。
「アキラ、ここのコロッケすげえうまいんだぜ?」
「えっ?」
アキラが今朝立ち寄った惣菜やだ。
そして夢で見た、あの・・・。
「おじさんこんばんわ、」
「おっ兄ちゃんいらっしゃい。いつものやつかい?」
「うん、今日は2個な。」
「まいど」
手馴れた様子でやりとりするヒカルを
アキラは何とも言えない表情で見ていた。
「何、アキラどうかしたのか?」
「いや、ただこういうのをデジャヴって言うのかなって」
アキラは言いかけて口をつぐんだ。
あの夢は最悪だった。もしこの先の何かを示唆しているの
だとしたら・・・。
「なんだよ。それ・・・。」
ヒカルはその後気にも留めなかったようで歩きだした。
そして次々と買い物をしていった。
引っ越して1週間という割にはヒカルにはすでにある程度の
土地勘があるようだった。
アキラが住んでいるマンションは大学から程近いワンルーム
マンションだった。
広くはないがものが少なく片付いたアキラの部屋はすっきりとスマート
で、アキラらしい気がした。
商店街で適当に買った惣菜やつまみ、それにビールを
手早くテーブルに並べるとヒカルはソファに沈み込んだ。
「腹減ったな、」
「僕もだよ、」
ヒカルは今更ながら少し照れくさそうに笑うとビールの缶を開けた。
「アキラとの再会を祝って、」
「うん、研究の成功を祈って、」
『乾杯!!』
しばらく二人他愛もない話をしたが、ほろ酔いになったころ
アキラはそれを切り出した。
「それで、この4年間君はどうしていたの?君の育ての親の
佐為さんは今はどうしているんだい?」
アキラは見計らっていたような気がした。
聞かれるだろう事は予測していたし。当然それに対する返答も
自分の中ではとうに割り切っていたはずだった。
「佐為は死んだんだ。」
言った瞬間胸がズクンと重くなった。
その後の言葉を失う。
『大丈夫佐為は生きてる・・・。』
自分に言い聞かせるように自分のついたウソを必死で否定する。
言葉を失ったヒカルにアキラがぽんぽんと肩を叩いた。
「すまなかった。辛いことを聞いてしまった。」
アキラの謝罪のあともヒカルは言葉を慎重に捜した。
「ううん、いいんだ。
けど出来ればこの4年間のことはあんま詮索しねえで欲しいかな。」
考えあぐねた末の苦肉策だった。
これ以上自分にもアキラにもウソはつきたくない。
ついたウソにウソを重ねていくようなそんなのに慣れたくはなかった。
「聞かないで欲しいってこと?」
ヒカルがそれにうなづくとアキラは顔を険しくした。
「その約束はできそうにない。
僕はこの4年間ずっと君を探してきたんだ。
なのに施設を出た後の君の足取りは全く掴めなかった。
こんなに都合よく君に再会するとは思えない。
不自然だと僕がかんじるのも当然だろう・・。」
アキラは言い募ると傍にあったヒカルの腕を引いた。
アキラの瞳はまっすぐにヒカルを見つめていた。
唇が触れ合った瞬間体がかすかに戦慄いた。
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