直とらんは休日真一郎のマンションのキッチンにいた。
直の片手には
今日買ったばかりのお菓子のレシピと
慣れない手つきで泡だて器を握るらんがいた。
「やっぱり七海先生に手伝ってもらった方がよかったんじゃない?」
心配そうに様子を伺う直とは別にらんは余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
『ダメだよ。こういうのは 一人で作らないといけないだって
で、ナオ次はどうするの?』
すでに一人で作るというか完全に頼ってくるらんに
直は苦笑すると仕方なくレシピを目で追った。
「つぎはね、卵とお砂糖をいれて・・・。」
らんはレシピを見ながら指示を出す直のいうまま
ボールに材料を入れてかき混ぜる。
『こんなものかな?』
「らん もっとかき混ぜなきゃだめだと思うよ。」
『そうかな?』
直は笑いながら泡だて器を握った。
「らん疲れたなら交代しようか?」
『いいよ。僕がやるんだから。』
らんはむきになって直から泡だて器を取り上げると
慌てて材料を混ぜだした。
「らんってば。いいんだよ。どうせ一緒に作ってるんだし。」
慣れない手つきのらんに何だか心配になってそういったのだが。
『もしかしてナオも作りたかったの?
だったら素直に言えばいいのに。』
らんは勝手に納得すると手を止めた。
「何を・・?」
『直もあげたいんでしょ?いいよ。沢山出来そうだし
一緒に作ってるんだもん。分けっこしてあげようよ。』
「違うって俺は別にそういう意味でいったわけじゃ・・・ 大体
何でオレが羽柴にチョコケーキなんか・・。」
『直 僕空に・・・なんて一言も言ってないけど。』
しまったと言う顔をした直にらんは笑った。
『いいでしょ?ほら一緒に作ってわけっこしようっ。僕とナオの
仲なんだし。』
「オレは本当に羽柴なんて・・。」
『はいはい。わかったって。直は空にチョコをあげるより
貰うほうがいいんだよね。』
「えっ??」
【らんにそんなコと言われたら余計作れなくなっちゃうだろ!!】
直が思わずぼやいた心の嘆きにらんは苦笑した。
『直今なんか聞こえたんだけど?』
「なんでもないから。」
「ふ〜ん。」
直は誤魔化しながらレシピに目を戻した。
「らん、これぐらいでいいみたい。
あとはブランデーを少々いれるといいって書いてあるよ。」
らんは真一郎の書斎にあっといかにも高級そうなブランデーを
勝手に拝借すると栓を開けた。
それには直もさすがに驚いた。
「らんそれはまずいんじゃ・・。」
『平気だって。ちょっと貰うだけだし・・。
それにしてもいい香りだね。ブランデーって』
ブランデーはらんにも直にも大人の香りがした。
『夜は甘いものが好きじゃないからブランデーたっぷり
いれよう〜・』
「ちょっとらんってば・・!!」
ナオが止めるのも聞かず生地の中にらんはどぼどぼとブランデーを
注ぎ込む。
『あとはオーブンで焼くだけだけ・・。』
生地をオーブンにいれたあとらんはさっきから気になっていたブランデー
を取り上げた。
『ねえ直ちょっと味見してみよううよ。』
「ダメだよ。らん。ブランデーはアルコールなんだから。」
『大丈夫だってちょっとだけだから・・。』
直が止めるのも聞かずにらんはブランデーを口に含んだ。
『美味しい〜。ナオすごく美味しいよ。』
「本当?」
『本当だってば、ほら、ナオも飲んでみなよ。』
「じゃあちょっとだけ・・。」
誘惑に負けて直もブランデーを含むと口の中に何ともいえない
香りが広がった。
それから30分後・・・。
空が甘い香りに誘われてリビングに入ると
ソファでぐったりしている直が目に入った。
テーブルの上にはブランデーが1本。
半分は空いているかもってまさか・・・。
「藤守大丈夫かって・・。お前ひょっとしてこれ飲んだのか?」
とろんとした目をあけた直の焦点はあっていない。
「んんnくぅちゃん・・?」
「たく酔っ払いやがって。こんな所で寝てたら風邪引くだろ。」
文句を言ってるくせに空の声は妙に楽しげな気がして
直は無意識のうちに空にもたれかかっていた。
空はそのまま直を持ち上げるとベットルームに運び込む。
直はそれがなんだかとっても心地よかった。
とさっとベットに下ろされてひんやりした布団に顔を埋めようとしたら
温かい手が直を包み込んだ。
その手が温かくて心地よくて直はこれまた無意識に摺り寄せていた。
「ナオ 酔っ払ってんのか?そんな顔で誘われたらオレの忍耐
もたねえだろ?」
耳元でいきなりトンでもない事を言われて直は飛び起きた。
「な 何・・言ってんだよ。」
酔いはまだ醒めていなかったけどすっかり目をさませた直に
笑いながら空は小さな包みを差し出した。
「羽柴これは?」
「今日はバレンタインだろ。だからってんじゃねえんだけど・・
オレの気持ち。受け取れよ。」
なんともたとえようもない気持ちになって直はそれを受け取った。
「羽柴 ありがとう。」
しどろもどろになりながら空が慌てて言葉を続けた。
「あっ、それはオレと夜からな。お金なくてそれで・・悪いんだけど。
だから藤守とらんに・・・オレと夜から・・。」
それを聞いたらんに急かされながら直が包みをあけると
シルバーのドッグタグのペンダントが可愛いらしくラッピングされていた。
「らんにはこれが似合うって夜がいうからさ。」
夜の勧めで買ったと言ったが空だってこれを見たとき藤守にぜってい似合うと
思ったんだ。
ペンダントにはS to Nのイニシャルが入っていた。
「羽柴 S to
N って・・?」
「オレからナオにってことだろ。」
照れ隠しのように怒鳴って空はペンダントの裏側を示した。
リバーシブルになったペンダントの裏にはYtoRの文字があった。
【じゃあこれは夜かららんにってこと・・?】
直もらんも胸の奥がきゅんと熱くなった気がした。
「羽柴おれ大事にするから・・。」
「ああ。」
「らんもありがとうって!!」
そういった後直は苦笑した。
「らんが空じゃなくて夜にありがとうって言ってねっだって。」
「全く可愛くねえよな。らんは。でもまあしゃあねえから。
言っといてやるよ。夜に。」
ふて腐れたようにそういった空だったがまんざらではなかった。
リバーシブルにして二人のイニシャルを入れようと提案したのは
空だったのだ。
その時空のお腹がくう〜っと大きくなった。
それこそ二人のムードをぶち壊すほどに。
「羽柴お腹すいてるの?」
「だってよ。さっきからキッチンですごくいいにおいがするんだぜ?」
直は慌ててベットから飛び起きた。
「そうだ。ガトーショコラ!!。」
慌ててオーブンをあけた直はほっと肩をおろした。
いい具合に焼けてる。
らんに急かされるように運ぶと空は神妙な面持ちで待っていた。
「あ あのこれオレとらんから。羽柴と夜に・・。
あんなにいいの貰っといて俺これだけなんだけど・・。」
空は何言ってんだって笑った。
「藤守がオレのために作ったんだろ。
ほら、直も一緒に食おうぜ。もちろん夜もらんも一緒にな。」
二人なのに4人で食うなんて変な感じがしたけど俺たちはすげえ満ち足りた
気持ちになって・・・・
夜なんて『この後4人でHでもするか?』なんていいだしたけど。
それだけは勘弁して欲しいって!!
結局夜とらんにその後譲る事になっちまったんだけど、
やってる最中に交代されちまって。
藤守の首にはプレゼントしたペンダントがかかってた。
アタフタするオレと藤守は顔を見合わせて真っ赤になったってのはまた別の話