夜とらんは二人でこっそり寮を抜け出して人気のない大学の門をくぐった。
「綺麗だね。」
「ああ。」
昼間は賑やかな校舎も今は人影もなく外灯に照らされたサクラの
花びらが舞い降りる。
らんは夜の腕にしがみつくとうっとりと桜の木を見上げた。
夜とらんは空と直に体を借りてこんな風に週に1度はお出かけさせて
もらえるようになっていた。
もちろん週に1度なんて限定はついてるが夜二人がこっそりと
ベットを共にするのは日常のことだったりするのだけど。
でもこうやって二人で外に出かけるのはそれとはなんだか違うような
気がしていた。
ひらひらと舞う桜をらんは手の平にすくう。
「ねえ。覚えてる?夜、昔僕に桜の花びらをくれたよね。」
忘れたな〜。っといった夜はなんとなく照れくさそうだ。
「もう〜夜忘れちゃったの?」
夜が忘れてはいない事はわかっていてもついらんはむきになって
口を尖らせた。
「ちゃんと覚えてるって。」
「だよね〜。」
嬉しそうにらんは今自分が掴んだ桜の花びらを夜に手渡した。
研究所の生活だって辛いことばかりじゃなかった。
小さいホンノ小さな出来事だったけどだからこそ幸せだなって
思う瞬間があった。
どういうわけか研究所には至るところに花や植物が植えてあって
夜と二人で桜を見たことがあったんだ。
直の話では花や植物は薬剤の元になるって話だったけど、
桜の木もそうだったのかなあ?
『よる〜この木の花綺麗だね〜。』
『桜の木の下には死体が埋まってるらしいぜ。だからこんなに綺麗
なんだってよ。』
『えええ〜そうなの・・・?」
夜は研究所で死んだ子供があの木の下に埋まってるんだと言って
僕を怖がらせた。
僕もいつかあの木の下にひとり埋められちゃうんだろうかって
思うと怖くてえんえん泣き出したら夜が頭を撫でてくれた。
『そん時はオレも一緒だから』って。
そっか〜。
「夜も一緒だったら怖くないね。」
僕は夜とずっと一緒なんだと思うと怖いのなんてどこかに
飛んでしまっていつの間にか泣き止んでた。
僕は死ぬ事よりも夜と離れ離れになることのほうが怖かったんだ。
泣き止むと夜がふわりと舞い降りた桜の花びらをすくって僕にくれたんだ。
『ずっと一緒にいる約束のしるしだ』と言って・・。
ざざざざ〜と強い風が吹いてサクラの花びらが二人の元へと
舞い降りてくる。
遠い記憶をたどりながら桜を見上げていると一枚花びらが
らんの唇に触れていった。
「あっ僕桜にキスされちゃった〜!!」
らんが嬉しそうに桜吹雪に両手を伸ばすと夜がふて腐れた
ような声を上げた。
「桜のくせにオレのらんにキスするなんてな。」
「夜、桜にやきもち焼いてんの?」
らんが振り返った瞬間、夜にキスされていた。
桜吹雪の中のキス。
「ずっと離さねえんだからな。」
「うん。」
ぎゅうと夜に抱きしめられてらんも夜の背に腕を回す。
ずっとずっと離れない。いつか死が二人を分かつ日がきてもずっと
一緒なんだから。
桜舞い散るころに・・・。
夜とらんのほのぼのストーリー??
日参させていただいているサイト様の素敵なサクラの詩を拝見しまして
そこからお話を頂きました。
ここから感謝の気持ちを込めて〜ぺこり。