暗闇の中で 11




               


「空ボクの血がほしいんでしょ?」

微笑んで自らを差し出す少年に空はゴクリと唾をのみこんだ。
が・・近づくにつれその少年の表情がゆれる。
空の頬を冷たい何かがつたい落ちる。

オレ泣いてるのか?
なんで・・?




『くぅちゃん・・くぅちゃん』

『ふ・・じも・・り・・?』

何でそんな悲しそうな顔してんだ?

空の心臓がドクンと大きく音を立てた。

オレがお前を苦しめてるのか?
苦しい・・オレなんでこんなに胸が痛えんだ。

オレお前を守るって約束したのに何やってんだ?
なんでお前を抱きしめてやりてえのに身体が動かねえ?




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




らんが背伸びして空に腕を伸ばすと空は固まったように
動かなくなった。
不審に思って見上げると空は苦しそうに顔をゆがめていた。



「ううううっ」

うめき声を上げ空は胸を押さえるとうずくまり膝をついた。
らんはその時気づいたのだ。
空の瞳の色が変化しようとしている事に。
夜に変わろうとしてるの?!

「夜!!夜・・!!夜!!!」

「・・・らん!!」

何かを振り切るように夜はらんの名を呼ぶと立ち上がろうとしたがそれは
窓から入り込んだ小さな日の光に拒まれ崩れるように部屋のスミへと倒れこんだ。

「夜、無理しちゃだめだよ。」

「・・・ざまねえな。」

「そんなことないよ。」

吸血鬼族にとって日の光がどれほど苦痛からんは知っていた。
自身を保てなくなって灰と化したものも見たことがあったのだ

「らん、すまねえが地下室に連れて行ってくれねえか。」

「うん。わかった。」

らんは夜に肩を貸すと言われるままに日の光から逃げるように地下へ地下へと
降りていった。

ようやく夜が一人で歩けるようになるところまできて夜は先刻まで誰かが使っていた
暗い鉄格子の牢へと足を進めた。
そこはひんやりしていて夜が休むにはうってツケの場所だった。

夜はそこに倒れるように身を沈めるとようやく荒い息をついた。

「らん大丈夫か?」

こんな時に自分の事よりらんのことを心配する夜にらんは胸がつぶれんばかりに
痛くなった。

夜はそっとらんの首筋に手を置くと自分が噛んだ後を悔いるようになでた。
そんな夜にらんは首を横に振ると夜の手の甲の上から愛おしそうに噛み跡をなでた。

「僕は夜になら何をされてもいいって言ったでしょ?だからいいんだよ。」

夜はらんを自分の胸にそっと抱き寄せた。


「らん、直は大丈夫か?」

「直?うん。今は眠ってる。夜は?空は大丈夫?」


「空は自ら意識を閉じやがった。直を傷つけた事が許せなかったみてえだ。
それ以上にオレがお前の血を吸っちまったことで封印が解けかかってる。
オレは空に戻れねえかもしれねえ。だからよ。らんは直とここを出ろ。」

お前だったらできるだろ?そう言われてらんは目の前が真っ暗になった。

「どうしてそんな事いうの?僕は絶対一人でなんて戻らないよ。
夜と離れ離れになるなんていやだからね。
直だって同じ気持ちなんだから。」

そうだ。直だって空と離れるぐらいなららんと同じ事を言うに決まってる。
自分の命だってはれるほどに空が好きなんだから。

「ダメだ。戻れ。」

夜は苦しそうに顔を手の甲でさえぎるとはっきりと拒否した。

「どうして?夜?」

「ヤッタ・・・はずなのにあいつの気配がぷんぷん残ってる。
らんをこんな所において置けるわけねえだろ。」

またアノ頃みてえに検体にされちまうんだぜ?そう諭す夜に
らんは泣きたくなった。

検体にされるのは嫌だった。苦い薬、思い通りにならない身体
それ以上に何をしでかしてしまうかわからない自分がいつも怖かった。

けれど今は・・。
夜と離れ離れになってしまうことのほうがらんにとってはどんな事より
も悲しくてつらい事なのだ。


「だったら夜も一緒に逃げよ。」

「それは出来ねえ。オレはもう人間に戻れねえかもしれねえんだぜ。」

夜はそれだけ言うと辛そうに言葉も閉じた。話すことすら苦痛なのだろう。
らんは言いたい事を押し込んで少しでも日の光から夜を遠ざけるようにと
夜の身体に覆いかぶさった。


そうして夜とらんは夜が来るまで暗闇に身を潜めた。
ホンモノのの暗闇が訪れるまで。




12話


次回芥学 夜らんVS相沢の決着をつけるつもりです。
出来るだけ間をあけずに更新したいです。