暗闇の中で 4





               
部屋では5人の研究員たちが機器を見ながらデーターを取っていた。

「どけ!!」

芥が研究員たちを押しのけるように進むと部屋の中央に鎖に繋がれた
小さな獣が横たわっていた。


「芥。ここは君の管轄ではないだろう。」

芥が獣に触れる前に研究員の一人が芥に忠告した。

それは【お前は相沢からここに出入りする事を禁じられているはずだと】
言われてるも同じことだった。

ここではあの男の一言ですべてが動く。人一人が命を落とすのも永らえるのもそうだ。

だから誰一人としてあの男には逆らわない。
逆らわなければ望む実験をさせてもらえるし、それなりの処遇もある。
忌まわしくはあったが芥はそれを利用せざるえなかった。

「011の今後の研究はすべてオレに任されてる。すぐに部屋をあけろ。」

今まで011の担当だった研究員が芥に詰め寄った。

「しかしだね。011は突然の変異で暴走して今ようやく薬を投与したばかりだ。君のように
事情の知らないものがだ・・・」

「黙れ!」

芥はじろっと睨むと研究員たちはそれ以上は何も言わなかった。
芥は相沢のお気に入りだしヘタに出ないほうが得策だとでも思ったのだろう。

研究員たちが部屋から出ていくと芥は横たわった小さな獣から鎖を外そうと
首に手をかけた。が・・・
眠っていたはずの狼は突然芥に威嚇するように唸ると飛びついてきたのだ。

「学!!」

肩を食いつかれて芥はあまりの痛みで気を失いそうになったがそれでも学をぎゅっと
抱きしめることだけは忘れなかった。

「学・・学・・・・・・ガク!!」

狼の動きが止まる。

「学、オレだ!!」

抱きしめなながらそう呼びかけると不思議そうに小さな狼は芥を見つめた。

「か・・・い・・?」

学の口からその言葉が出た瞬間まるで魔法が解けるように狼は
全裸の少年へとかわっていった。
芥の腕の中にいた少年はポタリと流れ落ちた血に驚いてその血に触れた。

「芥・・・血が・・・オレがやったんだな?」

否定しようとした瞬間ひどい頭痛を感じたがそれでも芥は顔を横に振った。

「だって、芥・・これオレが噛んだあと・・。」

傷口を見るとすでに血は止まりかけていた。
それは芥自身も尋常な人でない事を物語っていた。


芥は部屋の隅に設置されているモニターに視線を移した。
嫌な気配がする。
忌々しげに芥はモニターに近づくと主動源を落とした。

その瞬間パチッと何かが途絶えてあの男が苦笑したような気がした。



「芥・・?」

何も言い返さない芥を学が心配そうに見上げると
芥は今までの事を誤魔化すように突然学の唇を塞いだ。

「ああっ・・・・。」


吐息も舌を絡め取り、学の唾液を貪って芥のキスはどんどん深くなっていった。
ようやく唇が離れた時、学は芥から目をそらすと唇をぬぐった。

「いやだったか?」

聞かれて学は顔を横に振った。

「そうじゃねえけど・・芥はすぐ誤魔化そうとするからさ。
オレが何もしらねえとでも思ってんのか?
芥、教授のにおいがするぜ。」

芥が慌てて口を押さえると学はクンクンと匂いを嗅ぐように鼻を芥に摺り寄せた。

「それに薬の匂いも・・。
オレ狼だから匂いにはすげえ敏感なんだって芥も知ってるだろ。
けど芥の飲んだ薬オレの作ったやつだ。」

「お前が作った薬?なんの薬だ?」

「えへへ、内緒。でも体には無害だから心配しなくていいからな。」

歌うように軽い口調で学はそういうと今度は自ら芥の唇にキスを押し付けた。

芥は自分の体の奥底がかっと熱くなるのを感じて
その欲望のままに学を床に押し倒すと繋がれた鎖の音がジャランと部屋中に響いた。

学はぎゅっと芥の背を抱きしめると小さく笑った。

「学・・・かならずお前を元の体に戻してやる。」

「でもオレもう手遅れかも。最近オレ自分の体が制御できねえんだ。」

諦めてしまったようにそういった学は芥のしってる学ではないような気がした。


「何を言ってる。ガク・・・あともう少しなんだ。だからオレもお前も必ず一緒に
元の世界に戻ろう。」

「うん・・・約束だぜ?」


そういって微笑んだ学の笑顔がひどく儚くて芥は腕にあるぬくもりを抱きしめると
自身にいいきかせるようにつぶやいた。



「ああ。必ず・・・約束だ。」と。







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芥が飲まされた薬は自白剤です。4話のどこかであかすつもりだったんですが
明かせなかったのでここで。5話は空と直にお話が戻ります。