If ・・・ 8章 ・ 最終章



戻れない記憶3


夜の存在が希薄になっていくと同時に閉じ込められていた空は解放されて
いった。夜とらんの会話がすこしずづ明らかになっていく。
完全に解放された瞬間空は表に浮き上がった。


「夜、らん、お前ら、」

夜にしがみついていたらんが完全に表に出てきた空をにらみつけた。

「最後まで邪魔しないでよ。」

「最後まで邪魔って、お前ら何するつもりだ!!
消えるってマジなのか?勝手に人の心を、」

「何も知らないくせに口出さないでよ!!」

「ああ、オレは何も知らねえよ。夜が何も言わねえから・・、」

「バカ空、夜がどんな思い今まで守ってきたと思って、」

「らん、」

夜はらんをたしなめると小さく首を横に振った。

「空、もう間に合わねえんだ。」

「間に合わねえって・・・?」

「ほら、」

空は夜の体が存在そのものが透けているような気がした。
絶句した空に夜は言葉を続けた。

「言ったろ?もう消え始めてる。
だから空があそこから出てこられたんだ。」

「なんで?夜が消えねえといけねえんだよ。」

まるで 何もわからないというように空は首を振った。
らんはそんな空に懇願した。

「空と直のためだよ。だからお願い。最後ぐらい僕と夜2人きりにして、」

「オレのためって何だよ。誰も、んな事頼んでねえだろ。」

それに答えたのが夜だった。

「オレとお前は研究所にいた時、相沢にマインドコントロールされた。
オレたちは相沢の犬で、だからあいつの命令には逆らえねえ。
どんなに足掻いてもだ。
空の両親も直の両親も殺した。そして真一郎も死にかけた。

オレたちの脳中にはまだそのチップが埋め込まれてるんだぜ。
オレが消えたらそのチップも自然に消滅する。
そしてもう一つ、直と空が別々の道を選んだ時も俺とらんは消えちまいチップも
消滅する。そういうことだ。」

夜は空に淡々と恐ろしい事実を語った。

「何でそんな大事な事今まで言わねえで。」

「いえなかったんだよ。言えばその瞬間夜は消えてしまうから、」

らんは悲しそうに空を見た。

「何だって!!」

「それでも僕たちは信じてたんだよ。直と空が結ばれたら相沢の呪縛が
消えるって。だからずっと、ずっとどんなに裏切られても、どんなに憎んでも信じてた。



なのに・・。」

空は自分の浅はかさに今頃気づいた。
今からでも何か出来ないのか?
本当に間にあわねえのか?



「藤守、藤守、そこにいるんだろ、出てこいよ。
らんが消えちまう。藤守、」

「バカ、勝手に話しかけないでよ。」

らんが止めるのも聞かず空はらんの体を何度も何度も揺さぶった。

「藤守、藤守 藤守!!」

大きくらんを揺さぶると僅かに直が表に出てくる。

「なっなに?ってくぅちゃ・・・羽柴?なんで・・」

突然自分を抱き寄せているのが空だとわかって直が硬直する。
空はそんな直の胸倉を両手でぎゅっと握った。

「藤守、らんが消えちまう。」

「えっ?」

固まったままの藤守にらんが言った。

「直どうして出てきちゃったの?今は僕が本体なのに」

悲しげな表情のらんに直も何が起こったのか瞬時に理解したようだった。

「まさか、らん?」

「僕直が作った薬飲んじゃった。」

「らん!!」

悲痛な叫びだった。

「もうだからどうすることも出来ないんだよ。それに・・・もう消えかけてる。」

夜と同じようにらんの体も形成できなくなっていた。
空はその存在を夜ごと抱きしめた。

「空!!」

「藤守!」

「夜」「らん」

4人の想いが重なっていく。
それでも夜とらんの体はどんどん消えていく。

本当にダメなのか?いやだ。最後まで諦めたくなんてない。
空は全ての想いをこめて直に唇を重ねた。

空と夜の精神と体がダブル。形成できなくなった夜の重みが空に
のしかかるって立っていられなくなる。

「夜、藤守、らん!!」






倒れていく瞬間
空の脳裏に祭の声がした。


『空、今は許せなくても直くんの帰る場所をここ(心の中)に置いてあげて、』

祭がアメリカにたつ前にオレにそういった横顔が昨日の事のように甦る。

次の瞬間場所は兄ちゃんと七海ちゃんのマンションに移っていた。
炎の中何が起こったのか理解すら出来ず血に染まった拳を振り上げたあの日。

研究所で兄ちゃんと別れのキスをしたあの日。
七海ちゃんと青と暮らしたマンションでの日々。


走馬灯のように過去の記憶が甦っては過ぎていく。

『藤守、』

温かなぬくもりを抱き寄せ空はあの頃のけして戻れない記憶を
辿る。何か一つでもなければ今には至らなかった。

何もかもが決して無駄じゃない。
だから、夜、らん、消えるなっ










それからどれぐらい時間がたっただろう。



頬に温かなぬくもりが包む。

『・・・、・・、起きて」

誰の声だろう?すごく懐かしくて、聞き覚えがあるのに
その人の顔を名前を思い出せない。
傍にあったぬくもりが微かに身じろぎする。
手を伸ばしオレは眠い目をこすった。


「うん・・・・」


目の前に飛び込んだその人物が眩しすぎてオレは眩暈すら覚えた。
その人は・・・。


                          
                
                                                 完                                       

、あとがき

ブログの連載を読んでくださった皆様、サイトでここまで読んでくださった皆様
本当にありがとうございます。

私も今最初から最後まで編集しながら読み返した所なのですが。
ブログに長期でチマチマ連載したこともあって、繋がりの悪さとストーリーの矛盾点が
結構目立ちます(苦笑)

もともとこのお話を書いた時のテーマが「if・・・・]
もしあの分岐点で選んだのがこの選択肢だったら・・・という。
ゲームをしていて予想だもしていないEDを迎えて呆然としたあの経験から生まれたお話
とでもいうか(苦笑)

『相沢教授の幸せ』と『報われない片想い』も。
本当の思いは各キャラそれぞれが持っているのですがそれすら本人たちは
気づいていない、もしくわ押し隠しているのだと思います。
私自身書いていて特に揺れたのが空の直を思う気持ちと七海ちゃんを思う気持ちですね。
七海ちゃんや直くん自身の葛藤もほとんど描くことが出来なかったけど当然あるだろうと思うし。

結局ラストも結論を出すことができませんでした。
夜とらんは消えてしまったのか?それともまだ一緒にいるのか?

空の目の覚めたとき傍にいたのは誰なのか?
それは私の中にも答えはありません。
なのでこの後自由に想像してもらえたらいいかな〜と思います。
                                                         
ただ願わくばお話の中でも書いたように今はみんな笑っていたらいいな〜と思います。
さて今度はもっと軽いお話を書きたいです。
次の連載はいつになるかわかりませんが、次回作もよければお付き合いくださいませ。


                                   2009 2月9日   堤緋色