If ・・・ 8章 ・ 最終章



戻れない記憶
※ようやく最終章・本編に戻ります。ここまで読んでくださった皆さんありがとうございます。

研究所の扉をあけた瞬間七海ちゃんの姿が目に入った。
廉と青、それに綾野ちゃんに奏司さんも、そこで待っていてくれたんだ。

「みんな・・・どうして、」

「いても立ってもいられなくて・・。」

七海ちゃんの瞳に大粒の涙が浮かんでた。
オレは何と言ってよいかわからなかった。

「七海ちゃん、みんなごめん。兄ちゃんも藤守も・・・、」

七海ちゃんは知っていたみたいに「こくん」と頷いた。

「七海ちゃん、ひょっとして知ってたのか?」

「空兄ちゃん、違うの。」

オレは責めたわけじゃなかったけど、青は七海ちゃんをかばうように
言った。

「また綾兄さんが・・・。」

奏司さんが唇をかみ締めていた。
オレは綾野ちゃんを見た。
綾野ちゃんは言い訳せずただ静かに首をたてに振った。

「僕は知ってたんだ。もう研究所に真一郎も直くんもいないことを。」

「どうして・・?」

「アメリカには僕も誘われたから。」

「真一郎を奪い返すチャンスがあったのに兄さんはしなかった。
それに研究所に真一郎や直くんがいないことを知っていて空くんを行かせた。
空君にとって研究所はどんなに辛い場所が綾野が一番知っていたはずなのに。」

奏司さんは唇をきつく結ぶと綾野ちゃんに怒りをあらわしていた。

けど・・・綾野ちゃんは知っていたかもしれねえけど、
オレは兄ちゃんがもう戻ってこないことを薄々感じてた。
あの時兄ちゃんを説得できなかった時から。

認めたくねえって気持ちはずっとあったけど。

それにオレは実際に研究所に行かなきゃならなかったんだと思うんだ。
いつまでも目を逸らしてるわけにいかねえ。兄ちゃんのことも藤守の事も。


「綾野ちゃんのせいじゃねえよ。兄ちゃんの事も藤守のことも。
オレがあの時説得できなかったから。」

「空くん、」

七海ちゃんが支えるように俺を包んでくれる。

「七海ちゃん、ごめん。」

七海ちゃんはただ首を横に振る。

「空くん、ありがとう。」

青がオレの手をぎゅっと握りしめてつぶらな瞳でオレをみつめていた。
 
「空兄ちゃん、真一郎もふじもも生きてるんでしょ?」

「ああ、」

「だったらまたいつか会えるよね?」

「ああ。」

青の手を握り返すと
オレは溢れてきた涙を止めることが出来なかった。

そういつか会える。
オレはそう信じて『さよなら』は言わなかったんだ。



「なんだ、なんだ、みんなして、しみったれた顔してさあ。」

市川は明るく笑い飛ばすと椎名の手をひいた。
そしてオレたちみんなに聞こえるように椎名に言ったんだ。

「廉、今晩は一緒にいてくれよな。」

「ガ、ガク?」

椎名は突然の事に顔を染めたが市川はしてやったりという
感じだった。
七海ちゃんがそれにぷっと吹き出した。

「そうですね。今日はみんなでぱっとやりましょうか。」

「本当!!」

青が嬉しそうにはしゃぐ。

「もちろん奏司さんと綾野さんもですよ。」

七海ちゃんに釘をさされて(?)奏司さんが肩をすくめた。
流石に七海ちゃんに言われると兄弟喧嘩はあきらめたようだった。

「そうだな。たまにはハメを外してもいいだろう。」

「だったら帰りにケーキでも買っていきましょう。」

「わ〜い。」


みんなの笑顔が眩しく写る。

相沢がいなくなったこの学園で、俺たちは本当に幸せになったんだろうか?

願わくば今藤守や兄ちゃんが笑っていたらいいなと思う。




マンションの郵便受けから新聞とダイレクトメールを取った俺は
一通のカードに眉をひそめた。差出人の名も何もカードには書かれていなかった。


「どうかしましたか?」

せっかくみんなでこれから騒ごうって時に言いたくなくて隠そうとしたら
目ざとく奏司さんがそのカードを見つけた。

「ああそのカードは、」

「奏司さん知ってる?」

「ああ、出かける前に僕の所にも入っていたからね。
広告の類だろう。」

「そっか。」

オレは内心ほっとした。ここは奏司さん所有のマンションでセキュリティもしっかり
してる。もう1度カードを開いたものの俺は結局ダイレクトメールと一緒に
それをしまった。


それから部屋ですげえ騒いだ。
奏司さんが部屋からワインを2本持ってきてくれてそれを
綾野ちゃんと奏司さんとオレの3人で空けた。

奏司さんと綾野ちゃんは酔っぱらっていろいろ(さっきの続きの
)もめてたけど七海ちゃんの「喧嘩するなら、追い出しますよ〜!!」
の一喝ですごすごと部屋に退散していった。

そしていつの間にかリビングには椎名と市川はいなくなっていて。
気づいた時にはソファで寝てる青と俺と七海ちゃんだけになっていた。

「ちっ市川と椎名、あいつら部屋でよろしくやってるってか?」

七海ちゃんはそれに苦笑した

「空くん飲み過ぎですよ。」

七海ちゃんがオレに水を差し出した。
オレはそれをしぶしぶ受け取った。

「オレは酔ってなんかねえんだからな、」

酔ってなんかないっといいながら,
オレはかなりアルコールが回ってる自覚があった。

「大体七海ちゃんはどうなんだって。オレの事どう思ってるんだよ。
兄ちゃんとオレとどっちが好きなんだよ。」

こんな事酔いに任せて聞いてどうするんだって思う。
笑顔を浮かべてるけど七海ちゃんだって困ってるはずだ。

「もう本当に飲み過ぎですよ。」

「誤魔化すなよ。七海ちゃん、」

オレはそれでも七海ちゃんに絡んで腕を捕らえた。
七海ちゃんの表情が曇る。オレはズキリと心が痛んだ。

誤魔化してるのはオレの方だよ。
兄ちゃんがいないからオレが七海ちゃんを守るのか?
オレは兄ちゃんの代わりなのか?

藤守のことは?
結局決着がつけられなかったけどホントはあいつが研究所にいなくてホッと
したんじゃねえのか?
大体オレはあいつと会って何をどうしたかったんだ?

今オレの傍にいるのは七海ちゃんで、オレがこの腕に抱いてるのは
七海ちゃんなんだぜ。

オレの頭の中がぐるぐるする。

そんなこと、オレの腹は当に決まってるはずだった。
これから先ずっと七海ちゃんの傍にいるって、けど
兄ちゃんも、藤守も・・。

オレはわからなくなって七海ちゃんの腕を解いた。


「ごめん、ちっとオレ、頭冷やしてくる。」

「空くん!!」

オレはそういうとマンションを飛び出していた。


オレは無意識のうちに海の見える公園まで来ていた。
藤守とよく兄ちゃんのマンションに行く時に通った公園だったなって思う。


オレは何かに導かれるようには1歩1歩足を進めた。

そうしているうちに体の内から覚醒する何かがオレとかぶっていった。

「夜?」




                                             
                                           最終章 戻れない記憶2