If ・・・(もしも)6章 
   トライアングル1


※6章は4章の続きです。学、廉・芥のお話です。


放課後の化学準備室、
学は調子外れの鼻歌を歌いながら実験道具の準備をしていた。

「ふっる purasu koい〜、」

廉が毎日化学部にくるようになってから学にとって部活は今までとは
違うものに変わっていった。

今までだって好きな実験をするのは楽しかったし、新しい発見に充実感だってあった。
けれど廉が来るのを待ち遠しく想ったり、廉が化学室にこない日は
落胆したり、廉と同じ時間を共有する事で学の中にそれだけじゃない
何かが芽生えていった。

そうしてそれはどんどんと学の中で大きくなっていった。



今日も・・準備をしていた学は
遠くから聞こえてきた足音に待ち遠しさと期待に心を躍らせた。

案の定化学室の前で足音は止まり扉が開く前に学は満面の笑みを浮かべて
まだ見えない相手に声を掛けた。

「よお〜廉来たのか?」

扉がガラガラと音を立てた。

「廉じゃなくて、オレ、」

化学室に入ってきたのは学の待ち人でなく息を切らした風太だった。

「風太??」

「あ、廉は今日当番入ってて遅くなるって、」

「そっかっ〜て、風太それをわざわざ伝えに?」

「うんってそれだけじゃなくて・・・。」

歯切れの悪い風太に学は首をかしげた。

「えっと兄ちゃん今日は部活休みか?」

「義広?今日はバイト入ってっから休み・・・と思うけどな、」

最後の方は付け加えた感じだった。
風太が落胆したのがわかって学が慌てて付け加えたのだ。

「そっか・・。」

あからさまにがっかりした風太に学も小さくため息をついた。

「まあせっかく来たんだし、風太もゆっくりしていけよ、そのうち廉もくるしさ。」

学がそういうと風太は落ち着きなく目を彷徨わせた。
やや間があってから風太は思い切ったように学に言った。

「あのさ、学先輩、」

「なに?」

「この間の授業で言ってたアノことだけど本当に出来ないのか?」

「この間の授業って・・・。」

「動物・・・フェロモンの・・。」

そう口にした風太の顔が真っ赤に染まる。

「ああ、媚薬の事か?」

小さく頷いた風太は耳まで真っ赤に染まっていた。

「そうだなあ。」

学はそれで準備の手を止めた。
流石にこういった事に鈍い学でも風太が化学室に来た理由がわかったような気がしたからだ。

「ひょっとして風太誰か好きなやついるのか?」

風太は学と2人きりだというのに周りをきょろきょろと見回して
真っ赤にした顔をますます染まらせた。

図星だったようだ。
学は言葉を選んだ。


「出来ないか?っていわれたらな。出来ねえわけでもないんだけど
、人の想いってそんなに簡単じゃねえだろ?
ゲームのようにセーブしたり、やめることなんて出来ねえし、やり直しも
きかねえし。
薬で人の感情をコントロールするわけにはいかねえんだ。
もし仮にその媚薬でその相手がお前の事好きになったってな・。」

「そんなのわかってるよ。そんな事・・。」

学が最後まで言う前に風太は机をドンっと叩いた。

「だって仕方ないだろ。どうしたってオレの事なんて好きになってもらえないよ。
だってあの人は大人でオレの事なんか餓鬼ぐらいしか思ってない。」

「風太、その人に自分の気持ち伝えたのか?」

風太は小さく首を縦にふった。

学は自分の考えが浅はかだったことに気づいた。
風太はそんな事ちゃんとわかってる。
だから悩んでどうしようもなくてそれで学の所に来たんだ。


「ごめんな、風太。そうだよな。
オレも風太の気持ち少しわかる気がする。」

ここの所学が感じてること。
幸せな気持ちになったり、寂しい想いをしたり、
その人の事で一喜一憂する気持ち、

好きな人と一緒にずっといたい。オレと同じように感じて欲しい。
そして出来ることなら・・と思う。
あふれ出してくる想いを精一杯せき止めても、あふれ出してきてどうしようもなくなる。

けど、あいつが憧れてるのは芥なんだよな?
そう思うと学の胸は風太を通り越して締め付けられた。


「先輩?」

「風太は偉えよ。ちゃんとその人に気持ち伝えたんだろ。」

頷いた風太の頭を学はぽんぽんと叩いた。

「ホンモノの媚薬は作らねえけど、それに似たものならオレ作ってやるよ。」

「ホント?」

「ああ、一緒にいて落ち着いたり、心から笑えたり、本音が言えたりする薬、」

「だったら、オレの事、」

「ホンモノの風太を好きになってもらえるかもだろ?」

頷いた風太に笑顔が戻る。

「風太3日間ほど待っててくれるか?」

「うん。わかった。」

元気よく飛び出していった風太を学は眩しそうに見つめていた。

                                                                                                    

                                              
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学くんの鼻歌はもちろんあの「うた」デス。
詳しく詩を書くと何かとマズイので誤魔化しておりますが(苦笑)