If ・・・(もしも)5章 
  地下室に続く道 2



その日青がオレの所に来たのは放課後だった。

「空にいちゃん~!!」

満面の笑みを浮かべて飛びついてきた青をオレは迷わず
両手で抱きしめた。

「青、学校どうだった?」

「すごく楽しかった。椎名と風太っていう友達も出来たよ。」

「そっか、よかったな、」

「うん、」

青は嬉しそうにうなずいた。

「これから七海ちゃんの所にいくか?」

「行く~!!」

オレと青は手を繋いで保健室にいる七海ちゃんの所に向かった。
繋いだ小さな手から温かさと優しさがあふれ出しているようで
オレ自身が優しい気持ちになってく気がした。
青はオレのクローンだって聞いてるけどオレと青は今この瞬間別の人間なんだって思える。
違う人間だからこんなに温かい思いや優しい気持ちを共有できるんだ。


「はしばの手温かい。」

「青もな、」

オレは愛しさでいっぱいになる。
そしてその思いを大切な七海ちゃんとも感じたい。そう思うとオレと青の足は
自然と早くなっていた。





それから毎日授業が終わると青はオレの所に一日の報告に来た。
その足で俺たちは七海ちゃんのいる保健室に行って3人で寮に帰るんだ。
そして週末はマンションに,



そんな生活が3週間ほど続いたある日、それは突然起こった。
青は体調も、精神面の状態もよかったらオレは油断しちまってたんだって思う。

その日は朝から梅雨のじとじとした雨が降り続いていた。

オレと青は七海ちゃんの仕事が終わるのを待つ間、暇をもてあそぶように
図書館で一緒に宿題をやってたんだ。
その放課後も終わりを告げるチャイムが鳴りオレは宿題を片しはじめた。

「青、そろそろ終わりな?」

見るとさっきまで真剣に宿題に取り組んでた青は表情をこわばらせていた。

「青どうかしたのか?」

青は突然立ち上がって図書室の扉を凝視していた。

「青?」

青にはまるでオレの言葉も声も聞こえてないんじゃねえかって思った。
まずい!!、オレがそう思った時には遅かった。
青は突然図書館を飛び出したんだ。

「青、待て、どこ行くんだ!!」

オレは図書館の中だってことも忘れてつい大声を上げちまってた。
一瞬白い視線を感じてオレは「しまった」と思ったけどそんなことより
青を追いかけるほうが先だ。
オレは鞄も傘も放り出したまま青を追いかけた。

けど図書館を出たあと周りを見回したけど雨の中青の姿はどこにもない。。


「くそっ、」

舌打ちすると通りがかった学生に片っ端から『青を見ていないか』
聞いていった。
そうして何人目でようやく青を見た奴を捕まえた。

「オレそっくりのチビっ子見なかった?」

「ああ、あれって羽柴じゃなかったのか?」

「オレの弟、どこで見た?」

説明する間も惜しくオレは相手をせかすように迫った。

「たぶんプールの方入っていったんじゃねえかな?」

「温水プール?」

「ああ、濡れてたしすげえ勢いだったぜ。」

「わかった、ありがと、」

手短に礼を言うとオレは急いで高等部の体育館に向かった。
走りながらオレはすげえ嫌な予感が胸におしよせていた。

青は以前学園ですげえ辛い目にあったんだ。
まだ言葉も話せなくて感情もあらわせなかった頃のことだけど。

突然何かの拍子にあの時のことを思い出してパニックを起こしまった
ってこともありえる。

相沢がまた青を拘束する為の「拘束音」を使った可能性だって
考えられる。
それにさっきの状況は以前のそれと似ていた気がした。
オレには聞こえなかったけど敏感な青は何かを感じたのかもしれ
ねえし。とにかく・・・。
青が学園に通うということはメリットだけでなくリスクだって考えられたはずだった。

けどこの1年何も起こらなかったことにオレは安心してたんじゃねえかっ?

どんどんと悪いほうに行く思考にオレは首を振った。
まだ何もわかっちゃいねえんだ!!


温水プールのある高等部の体育館に入ると部活を終えたのだろう生徒たち
何人かとすれ違った。

「あれ?羽柴、さっき上にいなかったか?」

それを聞いて俺は青がプール(少なくとも体育館の2階以上)にいることを確信した。
オレは足を止めずにそいつに聞いた。

「プールのどこで見た?」

「ええっとボイラー室じゃねえかな?」

「ありがと、」

階段を駆け上りながらオレは祈るような気持ちでいっぱいだった。

青、無事でいてくれよ。





体育館2階プールサイドには人影はなかった。
ここまで青に会わなかったってことは青は絶対館内にいるはずだ。

オレは教えられたプール脇のボイラー室に飛び込んだ。

「青、青いるか?」

ボイラー室には人の気配はなかった。
オレが舌を打つとそのままボイラー室を飛び出そうとした時微かに人の声とも
風の音ともとれるものが背後でした。


もう1度振り返ってオレはボイラー室を見回した。
そしたらボイラー音に紛れて風の音がしているのがわかった。

「どこからしてるんだ?」

オレは用心深くボイラーの裏に回りこんだ。

青の事とは関係ねえことかもしれねえけど、微かな変化は見逃さない、
どんなことだって真実を見抜く手がかりにする。
それがオレが兄ちゃんから教えられた探偵としての心構えだった。

見ると足元のボイラーの裏床面の点検口が開いていたんだ。

まさか、青がここに入った?
オレは半信半疑のまま暗い点検口から耳をすました。

ボイラー音の方が勝って聞こえずらかったが、こもった音がカンカンと響いていた。
青の足音・・?

咄嗟にそう感じたオレは体の震えを止めることができなかった。



オレの推理が正しければここは相沢の研究所と繋がってる?
兄ちゃんと七海ちゃんが何年かかっても突き止められねえでいた学園と研究所
を繋ぐ入り口かもしれねえんだ。

オレは一瞬七海ちゃんに連絡つけたほうがいいんじゃねえかって思った。
だが間の悪い事にオレは携帯を図書館に置いてきてる。
そんなことをしている間はなかった。

オレは大人一人がようやく入れるかって言う入り口に飛び込んだ。
暗闇に手すりを辿って地下へと足を進めながらオレの推理はだんだんと確信に
近づいていった。

ひどく長く感じたその通路を抜けると(おそらく体育館の地下)手探って左右に二つの扉があった。
一つはちゃんとノブも付いてる普通の扉(今は鍵が閉まってるけど)
そしてもう一つは壁に埋め込まれた扉。
今は微かに開いているからここに戸があるんだってことはわかるけど完全に閉まっていたら壁と一体化して全くわからねえだろうって思う。

オレはその扉をゆっくりと開けた。


暗がりの中から突然電灯の光が目に入ってそのまぶしさに慣れるまでしばらくかかった。
目が慣れるにつれここがオレの記憶の中にある相沢の研究所だと気づくまでそう
時間はかからなかった。

                      

                                            直とらん                         

ようやくたどり着いた空です。次は直くんとらんくんの登場です。直くんはこの長いお話の中で
出てくるのはここだけの予定です。(直くんファンの方すみません;)