If ・・・(もしも)5章 海の見える丘 オレと七海ちゃんが青との約束を果たしたのはそれから一月後、
5月の半場を過ぎた頃だった。 その一月の間に奏司さんに戸籍を用意してもらって青は正式な七海ちゃんの養子になったんだ。 それに学園への転入手続きもしたんだぜ。 だから青は戸籍上[七海ちゃんの子]になったわけだけど、学園では「羽柴」の姓を名乗る ことになってる。 これだけオレと瓜二つだとな、兄弟ってことの方が何かと融通きくし。 それに学園には「青は生まれつき体が弱くて生まれてからほとんど病院で 生活してきた」って説明してある。 その方が校医の七海ちゃんが学園で青をかまえるってのもあるからだ。 実際、青は生まれてからの大半を研究所と病院で過ごしたわけだから ウソというわけでもねえし。 とにかく青が学園で生活する上でオレたちが事前にできる事はやったって感じだった。 その日の朝病院に迎えに行くと青は待ちきれなかったみてえで、 病室からオレたちが見えるとロビーまで飛び出してきた。 「はし、ななちゃん〜!!」 今にも飛びつきそうな勢いの青にオレは両の手を広げた。 そしたら一瞬周りを気にして迷ったみてえだったけどオレの胸にしがみついてきた。 「青、遅くなってごめんな、迎えにきたぜ。」 オレが青を両手で抱きしめると青が大きく首を振った。 「ううん、しば、遅くなんてなかったよ。」 青はそういった後、オレたちの周りをきょろきょろと見回した。 それはまるで誰かを探しているようだった。 「青どうかしたのか?」 「なんでもない!!」 青は慌てて否定したけど、オレは何となくわかってしまったんだ。 青が探してたのは藤守じゃねえかって・・。 それに胸の奥がぎゅっと痛くなる。 青ごめんな・・それだけはどうしてやることもできねえんだ。 「・・しば・・痛いよ。」 オレは知らず知らずのうちに青を抱く腕に力を入れてたみてえで慌てて 青を放した。 「えっ??ああごめん、痛かったか、」 不審な表情でみる青に誤魔化すようにオレは明るくいってやった。 「青、今日はめいいっぱい遊ぼうな。」 「えっ?学校にいくんじゃないの?」 青は早速にも学校に行くつもりだったらしい。 それに七海ちゃんが微笑んだ。 「今日は土曜日だから学校は休みなんですよ。」 「そうなの?」 「日曜も休みだけどな。 学校が休みの日はオレも七海ちゃんもマンションに帰るんだ。 もちろん青もな。マンションには青の部屋もあるんだぜ。」 「青の部屋?本当?!」 「ああ、」 青が飛び上がった。 「青、すっごく嬉しい、部屋早くみたい!!」 「ああ、けど今日はその前に遊園地にいこうな、」 「遊園地?」 「そう、すげえ楽しいところ。」 オレと七海ちゃんは前々から今日(青を迎えに行く日)は3人で 遊園地に行こうって決めてたんだ。 病院を出たその足で俺たちは遊園地に行った。 青は何もかもが初めての体験に笑ったり興奮したり、面白いほどにくるくる表情が変わって傍にいるオレと七海ちゃんもすげえ楽しかった。 そうして1日も終わるころ、マンションに帰る前にオレたちは ある場所に立ち寄った。 それは海の見える小高い丘に立つ教会(クリスのいる教会)だ。 俺たちが教会に行くとクリスは待ってたみてえに出迎えてくれた。 「お待ちしていました。」 「ごめんなさい。クリスくん、」 七海ちゃんが深く頭を下げるとクリスは首を横に振った。 「ドクター顔を上げてください。謝るようなことではない ですから。」 クリスはオレと七海ちゃんに手を引かれた青に視線を移した。 「えっと確か青くんでしたよね。はじめまして、 本当に羽柴さんそっくりですね。」 クリスが青に微笑むと青は困ったように七海ちゃんの後ろに隠れた。 「こら、青、ちゃんと挨拶しねえとだめだろ?」 「いいんですよ。羽柴さん、それでは行きましょうか?」 オレたちはクリスについて教会の裏庭に向かった。 そこにはオレも立ち入ったことのない教会の墓地がある。 青は七海ちゃんの背後から顔だけをだして周りの様子を伺っていた。 「ここです。」 クリスが示した場所でオレと七海ちゃんは足をとめた。 墓石には「水都真一郎」の名が刻まれてる。 オレは持っていた花を手向けてその前で頭を垂れた。 あの雨の日から1年・・・。 オレと七海ちゃんはようやく決心がついたのかもしれねえ。 「はし・・・これ、しんいちろうって書いてあるの?」 青に聞かれて俺は無言で頷いた。 胸の中からいろんな想いがあふれ出していっぱいになる。 「青、兄ちゃんは死んだんだ。」 そういった瞬間体からその想いがあふれ出しオレは体を 震わせた。 「しんいちろ、死んだ・・・?」 青が理解できたかどうかわからなかったけど、青はそこに呆然と立ちすくん でいた。 七海ちゃんはそんな青の手を握ってた・・けどそれもいっぱいいっぱいで。 オレは青と七海ちゃんを一緒に抱きしめた。 抱き寄せた七海ちゃんの薬指には今も兄ちゃんとの約束の指輪がある。 そして兄ちゃんの指輪はこの墓の中に。 「青、兄ちゃんは死んで、もうかえってこねえけど 青が兄ちゃんを覚えてるかぎり青の中で生き続けるんだぜ。」 兄ちゃんは死んでしまったけどオレと七海ちゃんの心の中で ちゃんと生きてる。 ずっとずっと・・・オレたちが生き続けるかぎり、この胸に・・。 「青、しんいちろの事忘れない。絶対わすれないよ。」 地下室に続く道 1 ![]()
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